室内を涼しくすることであるが,単に室温だけでなく,湿度の調節を伴うことが多い。野菜や肉を貯蔵するための冷蔵,冷凍とは区別され,室内をその室の用途に適した温(湿)度(在室者の快適さが優先するならば26℃,50%前後)に保つことをいう。
暖房の場合,ストーブのように直接熱を発生する器具を室内に置く方法を直接暖房と呼ぶのに対し,直接冷房という語は一般に使われない。強いていえば室内に大量の氷柱を置くなどの方法があろうが,見た目に涼しいという効果を期待する以外,継続的な冷房の方法として使われることはまずない。また機械的に氷点以下の低温を作っても,室内に露出させれば,その表面には室内空気中の水蒸気が氷結して氷柱と同じになってしまうわけであり,あえてこの方法で冷房しようとすれば製氷室のような雰囲気になってしまうであろう。これを避けるため通常は,冷凍機によって金属管の表面を,氷点より高く,室の露点温度の目標値よりやや低い温度に保ち,送風機によってこの管群の間を縫うように室内空気を流し,冷たくなった(同時に水分も奪われた)空気を室内へ送り返すという間接的な方法をとる。このような装置を室内に設置できるようコンパクトにまとめたものがルームクーラーで,室内ユニット部分と冷凍機部分を離したスプリット形もある。小型のもの(1時間に取り除ける熱量が5000 kcal程度以下)では,冷凍機が奪った熱を外気へそのまま放出する空冷形が多いが,これより能力の大きいものはいったん水で冷却する水冷形がふつうである。さらに大規模なものは暖房や空気浄化の機能をあわせもつ空気調和装置となる。家庭用の冷房でも,室数の多い場合は各室にファンコイルユニットを置き,機械室の冷凍機によって冷却した水をユニット内のコイルに循環させるような,大規模装置に似た形とすることもある。またルームクーラーに暖房や湿分除去(冷却を伴わない)の機能を加えた機械も多くなってきており,冷房の方法もさまざまである。
以上に述べたのが一般的な冷房の方法であるが,このほかにも外気冷房,局所冷房,太陽熱冷房,地域冷房と呼ばれるものがある。春や秋,外は快適なあるいはむしろ寒い状態なのに通風が十分に得られないスペースでは室内が暑くなる場合があるが,このようなとき冷凍機を運転する代りに外の空気を機械的に室内に送り込む方法を外気冷房という。この場合,換気に必要な量以上の空気を送らなければならず,装置の設計段階であらかじめそのための考慮が払われていないと,急に実行しようとしても思うように涼しくはならない。局所冷房とは大量の熱を発生する機械・炉などが内部にある作業室や,外気との間にきちんとした仕切り(壁や扉など)のない空間において,その空間全体を冷房するのは不経済であるが内部の人間を酷暑から守る措置を講じたいという場合,冷風を狭い範囲に集中的に吹き付け,そこにいる人に涼しいという感じを与えようとするものである。吸収式冷凍機の熱源や圧縮式冷凍機の動力として日射により加熱された液体や気体を使い,この冷凍機を利用して冷房を行うとき太陽熱冷房と呼ぶが,室内を冷やすために冷えた空気を室内へ送り込むことは一般の冷房装置となんら変わるところはない。地域冷房はある区域の建物群が必要とする冷熱源としての冷水を作る装置を集中して配置し,各建物には熱源装置を置かない方式をいい,暖房(地域暖房)を兼ねるのがふつうである。日本では東京新宿副都心のものが規模も大きく歴史も古い(1971供給開始)。欧米でも地域暖房の例は古くから数多いが,冷熱を含めた地域冷暖房はアメリカのハートフォード市のもの(1962)が最初である。
→空気調和
執筆者:横山 浩一
外界の温度が高くなると,人体は体温を一定に保つために,代謝のレベルを低下させて熱の産生を抑制するとともに,体内で産生された熱を外部に放散するために血流の末梢循環を活発にする。さらに外温が高くなると,発汗による蒸発熱によって体温の調節を行う。したがって冷房によって室内の温度環境を整えれば,そのような体温調節のための人体の負荷を軽減することができるわけで,その環境での快適な生活を保ち,作業能率の低下を防ぐうえで,きわめて有効となる。1973年の労働科学研究所の調査によれば,34.5%の工場において,また73.3%の事務所で,冷房設備が設置されていたという。ことに新しいオフィスビルでは必ずといってよいほど設備されている。
冷房は確かに作業の能率を高め快適な生活環境を与えるようにみえる。しかし,長時間,暑い戸外にいるときと同じ薄着のままでいて,体を冷やしすぎたり,戸外の暑いところと冷房のきいた室内との間を繰り返し行き来していると,足が冷える,体がだるい,頭が痛い,神経痛,リウマチ,腹痛,風邪がぬけないなどの症状がでてくる。また女子では生理障害などの不定の症状を訴えるようになる。このような症状を呈する状態を冷房病cooling disorderというが,冷房病は女子に著しく,男子での発症は一般に少ない。個人差も大きいが,事務所で働く女子の約半数が足が冷えるなどの症状を訴えるという調査が示すように,一般的によく発症しうる健康障害といえよう。この症状の発現は,夏の暑熱に順化している身体が,その周囲の変動する温度条件に十分に順応できなくなった結果にほかならない。低温度条件にさらされることよりも,むしろ外気温と室温との差が大きく影響し,その差自体がストレスとなる。1972年に出された事務所衛生基準規則によると,事務室の空気環境は,17℃以上28℃以下の範囲にあり,しかも外気温との差は7℃以内とし,湿度は40%以上70%以下とするよう定められている。冷房病の予防には,冷房の温度と外気温との差をできるだけ少なくし,感覚温度の快感帯にあわせるように,室内の温度制御を行い,個人ごとにきめ細かに衣服を調節するのが効果的である。
執筆者:村上 正孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
高温多湿時に室内の温湿度を下げ、人(物)に対して快適(適切)な環境を提供することをいう。ただし、暖房と併用し、室内空気の清浄度制御も行うものは空気調和とよび区別している。冷房の技術は新しく、20世紀初頭、ヨーロッパに比べて高温多湿なアメリカにおいて急速に発展した。当初、冷房は紡績・印刷工場などで生産品の品質向上のために行われ、働く人間の快適のためではなかった。わが国でも戦前の冷房設備の大半は紡績工場に設置されたにとどまる。近年では住宅、自動車、列車に及ぶまで広範に冷房が行われるようになった反面、冷えすぎや室内と外界の温度の急変による熱ストレスが原因となる体調不良(いわゆる冷房病)が新たな問題となっている。なお、特殊な冷房として、衣服そのもので体を冷却する冷房服、高温の工場で作業者の近くだけを冷やす局所冷房spot coolingがある。
[吉田治典]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…というのは,暑さを克服し,暑さに対する順応力をつけることは,健康を増進していくうえで重要な要件だからである。 暑さを防ぐうえで冷房は効果的であるが,いわゆる冷房病を起こさぬように,外気温との差は5℃以内におさえておく必要がある。長期間入院している病人にとっては,冷房が適正に行われた病院で療養を受けることは,治療効果を上げるうえで必要なことである。…
※「冷房」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、和歌山県串本町の民間発射場「スペースポート紀伊」から打ち上げる。同社は契約から打ち上げまでの期間で世界最短を目指すとし、将来的には...
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