熱転写色素(読み)ねつてんしゃしきそ(英語表記)thermal transfer dye

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

熱エネルギーを用いることにより、対象物への転写が可能な色素。熱エネルギーを用いて紙に記録するための色素として、感熱色素と熱転写色素がある。感熱色素が加熱によって発色する色素であるのに対し、熱転写色素は、着色剤そのものが転写される。感熱記録は、サーマルヘッド(感熱ヘッド)で抵抗体を加熱することで文字や画像が得られるため、プリンターの構造が簡単で価格も安価となる。そこで、家庭用のワードプロセッサーやファクシミリのプリンターとして盛んに用いられてきた。しかし、感熱紙には定着のプロセスがないため、保存状態によっては、残存するカラーフォーマー(色素前駆体)が化学変化して変色する。一方、熱転写方式では記録紙と同じ幅のインクフィルムを用いて普通紙に転写記録されるため、保存性は感熱方式より優れている。

 熱転写は大別すると、溶融型と拡散型(昇華型)に分類される。溶融型では、油溶性染料などをワックスとともに塗布したインクフィルムを用いる。拡散型では、非イオン性の分散染料などをポリマー(重合体)等に分散したものが用いられる。溶融型は安定性に優れ、耐光性もよく、さらに高濃度の画像も得やすいという特徴がある。一方、階調性や解像度の点では拡散型がまさっている。シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)のインク層を順にセットしたインクフィルムを用いると、フルカラーの画像がドライプロセス(乾式表面処理)で簡便に得られる。このため、ビデオの静止画プリンター、プリントシール機(好みのフレームや背景を選択して自分の顔写真などのシールをつくる機械)、CG(コンピュータ・グラフィクス)、医療用や印刷校正など、さまざまな分野で利用されている。

 熱転写色素を転写するためのサーマルヘッドの抵抗体のかわりに近赤外線吸収色素が用いられることがある。近赤外線吸収色素やカーボンブラックは、赤外線を吸収して熱を発生する光熱変換色素としての性質がある。インクフィルムの色素層と基質ポリマー層の間に光熱変換層を挿入し、この層に赤外線レーザーを照射する方式を採用すると、転写画像がシャープになり、より高精細な出力が得られる。このような場合、前述したCMYのほかに、黒(K)を併用したCMYKのインクフィルムが用いられる。熱の発生を目的として用いられる近赤外線吸収色素の基本骨格をに示す。

[時田澄男]

『時田澄男著「機能性色素」(『現代化学』1993年9月号所収・東京化学同人)』『江口博著「熱転写色素(昇華転写記録)」(時田澄男監修『エレクトロニクス用機能性色素』所収・2005・シーエムシー出版)』


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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