人体の生理現象を陰陽五行によって説明しようという,中国医学の学説の一つである。運気論という名称は,人体は木,火,土,金,水の五行の運行(五運)と風,熱,湿,火,燥,寒の六気の影響を受け,その過不足によってそれぞれに対応する臓腑,経絡に変調が起こって病気になるという主張による。《素問》(《黄帝内経》)にもとづく説で,特にそのなかのいわゆる運気七編が直接のよりどころになっている。したがって,この説は唐代には存在したことになるが,流行するようになったのは宋代にはいってからで,南宋では太医局の試験課目にも指定されている。金,元の諸家はこれにもとづきながら,それぞれそのなかの一部分に重点を置いて独特の病因論を展開し,薬品の性状と関連づけて特徴のある治療法を発展させた。明以後の中国医学はこの説の直接の影響を受けているが,この説が臨床治療面でどの程度の貢献をしたかは疑問である。日本の医家はこの説の煩瑣な点をきらい,それが漢方の古方派の出現の一因ともなった。
執筆者:赤堀 昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…これらの医家がそれぞれの治療理論の共通のよりどころとしたのは《素問》,《難経(なんぎよう)》などの書である。同一書を用いながら正反対ともいえるような多くの学説が出現したのは,前述のようなこれらの書の内容の不統一性によるものであるが,この時代の医家が特に重視した理論は五行説にもとづく五運六気の説,いわゆる運気論である。 この理論は《素問》,特に王冰が作ったともいわれているいわゆる運気七篇に由来する説で,唐代から論じられ,南宋で太医局の試験課目の一つとして指定されるほど流行したものである。…
※「運気論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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