鄙廼一曲(読み)ひなのひとふし

改訂新版 世界大百科事典 「鄙廼一曲」の意味・わかりやすい解説

鄙廼一曲 (ひなのひとふし)

菅江真澄(すがえますみ)著の歌謡書。1809年(文化6)ころの成立。1781年(天明1)著者は生涯の旅に出,信濃,越後から奥羽を経て,蝦夷(えぞ)の松前に及ぶ各地を歩き,その見聞を記録している。この書は,それらの地域で集めた民謡の記録で,その序文に,〈今し世の賤(しず)山賤(やまがつ)の宿にて,よね(米)・粟・むき(麦)・稗(ひえ)を舂(つ)くに,ひねもす(終日),さよ(小夜)はすがらに聞なれて,つきめ(舂女)の臼唄,雲碓唄(フミウスウタ),磨臼唄(ヒキウスウタ)も,おかしき曲(ふし)をひとつふたつと聞にまかせて,書いつくればさはなり(以下略)〉とあるように,所収歌の多くは,田歌,山歌,船歌,念仏踊歌をはじめ当時の庶民に歌われた生きた民謡である。とくに〈陸奥,宮城,牡鹿あたりの麦搗(カツ)唄〉〈陸奥国南部斯波(しわ)稗貫(ひえぬき)和賀などの郡に在る米踏(こめふみ)歌〉〈おなじくにぶり,津軽路の山唄〉など,東北民謡の系譜を知るうえで必須の歌詞資料が豊富に収録されていて,貴重である。収録歌約340。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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