日本大百科全書(ニッポニカ) 「量的・質的金融緩和」の意味・わかりやすい解説
量的・質的金融緩和
りょうてきしつてききんゆうかんわ
quantitative-qualitative easing
quantitative and qualitative monetary easing
日本銀行総裁の黒田東彦(はるひこ)が2013年(平成25)から導入した金融緩和政策。世の中に出回る資金量を増やす量的緩和の手法に、償還までより長期にわたる金融資産やリスク資産の買入れを積極的に行う質的緩和を組み合わせた手法である。2016年9月からは量的・質的緩和に加え、マイナス金利導入など金利引下げ政策も加味した。「異次元緩和」「黒田緩和」「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」、また英語の頭文字をとってQQEなどともよばれる。量的・質的金融緩和は安倍晋三(あべしんぞう)政権が掲げる経済政策アベノミクスの「3本の矢」の1政策であり、デフレーションからの脱却を目ざして、消費者物価の前年比上昇率を2%まで引き上げることを目標としている。
日銀は量的緩和をマネタリーベース(資金供給量)や日銀保有国債残高の増加で進めた。2013年に保有長期国債残高を年間約50兆円ペースで増やす方針を打ち出し、2014年には年間約80兆円ペースへ引き上げた。質的緩和では、40年債を含むすべての長期国債を買い入れて国債の償還までの期間(平均残存期間)をそれまでの3年弱から7~10年程度へ延長するとともに、上場投資信託(ETF)を年間3兆円規模、Jリート(不動産投資信託)を年間900億円規模で購入するとした。あわせて、日銀の長期国債保有残高を銀行券発行残高以下に制限する「銀行券ルール」についても一時的に停止し、無制限に買い取ることを表明。2016年には、短期金利をマイナス0.1%へ、長期金利をゼロ%程度(上下0.1%程度の変動を容認)へ誘導する緩和手法を加えた。量的・質的金融緩和は家計や企業の資金調達コストの低下を通じて消費や投資を刺激し、円安による輸出競争力の向上、資産価格の下支えなどで、デフレ脱却を促す効果があるとされる。実際、市場では大幅な円安と株高が進み、輸出主導による成長が実現した。ただ目標に掲げた2%の物価上昇は達成できず、長期国債の大量買い入れは国債市場をゆがめ、マイナス金利などの超低金利政策は銀行などの経営圧迫要因となった。このため日銀は2018年、長期金利の変動幅をゼロ%から上下0.2%程度まで容認する姿勢に転じた。また国債発行残高に占める日銀保有割合は4割を超え、日銀の長期国債保有残高の増加ペースも2017年度に年50兆円を割り込んだ。こうした日銀の量的・質的金融緩和に対し、市場では、ひそかに緩和策を縮小する「ステルス・テーパリング」ではないか、との見方も出ている。
[矢野 武 2019年2月18日]