日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
長谷川式簡易知能評価スケール
はせがわしきかんいちのうひょうかすけーる
Hasegawa dementia scale
認知症の可能性を簡易に検査する評価方法の一つ。精神科医の長谷川和夫(1929―2021)によって開発されたもので、日本においてもっともよく用いられる認知症の簡易検査法といえる。その特徴は、次のようにまとめられる。すなわち、再現性があること(信頼性)と認知機能を確かにとらえていること(妥当性)が確認されている、測定内容は記憶のみならず、注意や構成能力、言語機能、見当識などを含んでいる、九つの評価項目で30点満点である、カットオフ値(病態識別値)は21点とされ、20点以下なら認知症の疑いがある。なお、検査の所要時間は約10~15分と短時間である。
なお、いわゆる「長谷川式」には以下の2種類がある。1974年(昭和49)に発表された「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS)」と、質問項目と採点基準の見直しが行われ、1991年(平成3)に改訂された「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」である。現在よく使われているのは後者である。
使用にあたっては注意点がある。まず一つには、本尺度の目的はスクリーニング(認知症の可能性のある人の検出)であり、あくまで診断の「参考」に用いるものである。つまり「長谷川式が何点だから……」と、認知症であるか否かを安易に診断するものではない。実際に認知症であるか否かの診断は、あくまでも専門医師の診察に基づいて行われる。すなわち、問診や検査・画像診断などを通じて、認知機能に障害があり、それにより日常生活の自立に支障をきたしていると判断されたときに「認知症」と診断される。
なお、難聴や失語症がある人では、問いの理解や回答が困難で、すべての問題に答えられないことがある。そうした場合には、現場でできるかぎりわかってもらえるように努力し、そのうえで確認できなかった項目があれば、どの質問項目が施行できなかったかの記録を残しておくのが実際的だろう。
[朝田 隆 2022年9月21日]