翻訳|orientation
精神現象にかかわる医学用語で、場所、時、人に関する気づきを含んだ心理学的機能を意味する。具体的には、それぞれを「ここはどこですか?」、「今日は何月何日ですか?」もしくは「いま何時ごろですか?」、そしてたとえば家族を指さして「この人はだれですか?」と問うことで、見当識が保たれているか否かが判断される。これらはしばしば、認知機能の一種だとみなされがちである。確かにいずれも記憶の能力が関与するが、それだけでなく、いわくいいがたい気づきや直感の働きを必要とする特殊な精神機能だといえる。
上記のような問いに答えられない状態は「失見当識(しつけんとうしき)」(見当識障害)とよばれる。失見当識は、譫妄(せんもう)などの意識障害や中毒、そして認知症などさまざまな原因によって生じる。とくに救急医療の現場では、意識障害や認知症の有無を簡便に評価するためにこうした質問がなされる。また、これらの三つが障害されるときには、普通、順番があり、最初に時、次に場所、最後に人がわからなくなる。
なお、脳のどこが見当識をつかさどっているのかは定まっていないものの、脳幹と大脳半球の重要性が指摘されている。
[朝田 隆 2022年9月21日]
現在自分が生活している状況および自分自身の存在を客観的に正しくとらえる精神機能をいい,人間の意識的な行動の出発点になるものである。周囲に対する認識を意味する指南力という言葉にも当てはまる。見当識は,現在の日時に関するもの,場所やそのときの状況に関するもの,自分自身や周囲の人に関するもの(生年月日,年齢,職業,家族関係など)に区別される。現在置かれている状況を洞察・展望し,照合確認することが見当識であるから,注意や認知,思考,判断,記憶などの精神機能の統合が不可欠である。見当識の障害された状態を失見当識disorientationと呼ぶが,とりわけ脳の器質的疾患に基づく意識障害のある場合や記憶障害のある場合にみられ,また失見当識の存在から上記の障害が推定されることが多い。
執筆者:武正 建一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…環境空間内で動物が,能動的に,体軸が一定の方向に向くように体の位置をきめることで,光や音波や重力,あるいは一定の濃度こう配をもった化学刺激などが手がかりとなって起こる。突然の新奇な刺激が与えられたときに,動物がすばやく頭と目をその刺激源に向けることを定位反応という。移動運動を伴えば,正もしくは負の走性となる。遠方から巣の方向を知り,それに向かおうとするような場合にも用いられる。重力に対する定位は走性というよりは平衡感覚への反応であり,一般に体軸が重力と同じ平面にくるようにさせる。…
…われわれは直線,平面上の回転,空間におけるらせん形には二つの異なった向きがつけられることを感覚的に知っている。このことは直線,平面や空間に対し向きという概念が考えられることを示唆しているが,数学ではもっと一般に,n次元実ベクトル空間,とくにユークリッド空間に対して向きの概念を定義する。まず次の事実に注目しよう。1直線上に0でないベクトルがあるとき,それはその直線上の向きを定め,このような,が二つあるとき,=a(a≠0)と書けるが,eとe′はa>0ならば直線の同じ向きを定め,a<0ならば異なる向きを定める(図)。…
※「見当識」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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