イギリスの詩人ミルトンの韻文悲劇。1671年刊。ギリシア悲劇にも比すべき格調の高い作品で、ペリシテ人に捕らえられ、両眼をえぐり取られて、ガザで苦役に服していたサムソンの死を主題としている。作者は、『旧約聖書』の「士師記」中の記事を素材にして、さまざまな誘惑にあい(たとえば和解という形をとった妻デリラの誘惑など)、これをはねのけ、闘技場に出てペリシテ人の命とともに自らも命を絶つ彼の行動を描いている。作者はこれを悲劇とよんでいるが、サムソンの死そのものに焦点を置く限りでは、それは妥当する。しかし、サムソンが罪を犯し、苦しみ、悔い、神の意志に従って行動した事実を考えれば、これは悲劇ではなく、神の摂理を明らかにしようとした「喜劇」である。
[平井正穂]
『中村為治訳『闘技者サムソン』(岩波文庫)』
…すでに全盲であったからすべては口述筆記によってなされたが,《失楽園》(1667)は英詩史上冠絶する最高の叙事詩である。《復楽園》はその続編とも呼ぶべく,古典ギリシア的手法による悲劇詩《闘士サムソン》と合本で71年に出版された。 ミルトンの高度に人工的なラテン語法にもとづく措辞は,英詩の一方の極北を示すが,その強大な影響力が好ましいものであるか否かは,つねに論議の対象となってきた。…
※「闘士サムソン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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