日本大百科全書(ニッポニカ) 「ペリシテ人」の意味・わかりやすい解説
ペリシテ人
ぺりしてじん
Philistines
紀元前13世紀末~前12世紀にかけて東地中海世界で活躍した海の民(海洋民族)の構成員の一派。フィリスティア人ともいう。『旧約聖書』では「クレタ島からきた割礼(かつれい)なき者」などとよばれているが、人種的・言語的帰属は不明。他の海の民と同じようにインド・ヨーロッパ系の移住民であったと考えられている。彼らは前12世紀初頭にエーゲ海からカナーン(パレスチナ)に侵入し、交通・通商の要所ガザからカルメル山南方のドルに至る沿岸南部に定住して沿岸諸都市を建て、五大都市州を中心として北方のフェニキア諸都市と地中海交易を競い、強力な都市文化を築き上げ、先住民カナーン人に対する軍事的支配層を形成した。他方、高度の物質文明をもち、カナーンに初めて鉄製の武器を導入して、沿岸地帯に覇権を確立した。宗教はイスラエル人のそれとは異なり、カナーン人の宗教を混交し、セム人の神々を拝していた。
彼らは、約束の地カナーンに定着したイスラエル人にとって最大の強敵で、一時その支配下にあったが、イスラエル王国初代の王サウル、次王ダビデの奮闘によりもとの沿岸地帯に撃退させられた。前8世紀にはペリシテ人の諸都市はアッシリアの朝貢国となり、前6世紀にはエジプトの支配下に入り、前332年ガザがアレクサンドロス大王に攻略され、以後、ペリシテ人は歴史上から姿を消した。
ちなみに海の民とは、前14世紀ころから海路では地中海を越え、陸路ではアナトリアを通過して、オリエントの西部辺境地帯に押し寄せた少数の混成民族群をさす。エジプトの碑文や壁画などから、その存在と活動が立証されている。
[高橋正男]