日本大百科全書(ニッポニカ) 「サムソン」の意味・わかりやすい解説
サムソン
さむそん
šimšōn ヘブライ語
Samson 英語
『旧約聖書』の「士師記」に登場する英雄的人物で、北方の民族ダンの出身。歴史上実在した人物というより、人口に膾炙(かいしゃ)した伝説上の人物という面が強い。その生涯は、イスラエルをペリシテ人から救うために捧(ささ)げられたといわれる。「士師記」のサムソン物語(13~16章)は大略四つの部分からなる。第一は誕生の予告。サムソンはナジルとして生まれた。ナジルとはヘブライ語で聖別された人をさし、散髪、飲酒、不浄な食物の摂取を禁じられた。第二はペリシテ人の女デリラとの婚礼と謎(なぞ)解き。サムソンが獅子(しし)を殺すと、それに群がるハチから蜜(みつ)がとれた。そこで客に謎をかける。「食らう者から食い物が出、強い者から甘い物が出た」。妻がせがむので、サムソンは謎を明かす。「蜜より甘いものに何があろう。獅子より強いものに何があろう」。しかし、これは答えではなく、新たな謎であった。答えは愛。妻にも客にもそれがわからなかった。第三は、サムソンがロバのあご骨でペリシテ人1000人を打ち殺した話。第四はサムソンとデリラの物語。怪力の秘密が、切ったことのない長髪にあることをデリラに漏らしたため、長髪を失ってサムソンはペリシテ人に捕らえられる。だが神に祈って力を回復し、異教の神殿を倒壊させつつ自らも死んでいく。この物語は映画や演劇の素材に取り上げられるが、サン・サーンス作曲のオペラ『サムソンとデリラ』が有名である。
[市川 裕]