阻血性拘縮

六訂版 家庭医学大全科 「阻血性拘縮」の解説

阻血性拘縮
(外傷)

 四肢の筋は、伸縮性の(とぼ)しい強靭(きょうじん)な筋膜によっておおわれ、筋膜と骨が隔壁(かくへき)となってグループごとにいくつかの部屋に分けられ、これらの構造はコンパートメントと呼ばれています。

 コンパートメント内の圧は通常、局所血圧より低いのですが、何らかの原因で内圧が高まって局所の血圧を上回る状態が続くと、筋や神経の血流障害が生じます。

 これをコンパートメント症候群といい、この血流遮断が6~8時間以上続くと筋肉壊死(えし)に陥り、関節が曲がった状態で固まる阻血性拘縮となります。とくに前腕や手の重症な場合を、フォルクマン拘縮といいます。

原因

 阻血性拘縮の多くは、小児上腕骨顆上(じょうわんこつかじょう)骨折前腕骨(ぜんわんこつ)骨折などの際に引き起こされます。

 そのほか、骨折の部位や程度だけでなく、ギプス包帯がきつすぎるために起こることもあります。的確な診断と処置を行えば十分防ぐことができます。

症状と診断

 診断では英語で「p」で始まる5つの徴候、すなわち、pain(疼痛)、pallor(蒼白)、paresthesia(知覚異常)、para-lysis(麻痺)、pulselessness(脈拍喪失)の5Pが有名で、最も参考になる症状は、指を他動的に伸展させた際の激痛(passive stretch)です。

治療

 前述の症状を見逃さず、迅速で正確な診断をすることが最も重要で、対処を誤ると悲惨な結果をまねきます。

 まず、包帯やギプスがきつすぎることが原因と考えられる場合は、これをゆるめます。それでも症状が短時間でよくならない場合には、8時間以内に筋膜を切開してコンパートメントの除圧を図ります。

 不可逆性の壊死が生じると手指は強い屈曲拘縮を示し、どのような再建を行っても十分な機能回復は困難になります。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「阻血性拘縮」の意味・わかりやすい解説

阻血性拘縮 (そけつせいこうしゅく)
ischemic contracture

筋肉の血行障害のため,筋組織が強く障害されて繊維性の瘢痕はんこん)組織に置き換えられ,筋肉の伸縮性が失われて関節の可動制限をきたし,変形を生じたものをいう。フォルクマン拘縮Volkmann's contractureとも呼ばれ,小児の肘関節部外傷とくに上腕骨顆上骨折の際ギプスによる緊縛で生ずることが多い。すなわち上腕骨顆上骨折の際,時間の経過とともに関節部の腫張はかなり著しくなるが,整復操作,とくにこれが何度か繰り返し行われた場合には腫張がいっそう増す。しかも,たいていの上腕骨顆上骨折での整復位保持は,肘関節を鋭角位に曲げたほうがよいため,強く腫張した肘関節を屈曲するとひじ前方の軟部組織がくい込んで,血管を圧迫して循環障害を起こすことになる。また骨折整復後ギプスを巻きっぱなしにしておくと,肘関節部での腫張がのちに増してきた場合,外側からしっかりとギプスで押さえられているため組織内圧がさらにいっそうたかまって,循環障害を惹起することもある。前腕筋群とくに屈筋群の阻血性変化が著しく,同時に正中・尺骨神経麻痺も伴う。第2~5指の中手指節関節過伸展,指節間関節屈曲の型となる。

 一度発生すると重大な機能障害を呈することになるので,初期症状としての急性阻血症状,とくに疼痛,しびれ感などの知覚異常の出現に注意することがたいせつである。本症の危険があれば,ただちにギプス包帯などの緊縛を完全に除き,肘関節であれば屈曲角度を減らすようにする。1~2時間の経過をみて症状の改善がみられなければ,前腕屈側のほぼ全長にわたり筋膜切開を行って筋肉・血管への圧迫を除く必要がある。症状発生後6~8時間以内に血行の改善がえられなければ,筋肉の変性は不可逆性となる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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