改訂新版 世界大百科事典 「阻血性拘縮」の意味・わかりやすい解説
阻血性拘縮 (そけつせいこうしゅく)
ischemic contracture
筋肉の血行障害のため,筋組織が強く障害されて繊維性の瘢痕(はんこん)組織に置き換えられ,筋肉の伸縮性が失われて関節の可動制限をきたし,変形を生じたものをいう。フォルクマン拘縮Volkmann's contractureとも呼ばれ,小児の肘関節部外傷とくに上腕骨顆上骨折の際ギプスによる緊縛で生ずることが多い。すなわち上腕骨顆上骨折の際,時間の経過とともに関節部の腫張はかなり著しくなるが,整復操作,とくにこれが何度か繰り返し行われた場合には腫張がいっそう増す。しかも,たいていの上腕骨顆上骨折での整復位保持は,肘関節を鋭角位に曲げたほうがよいため,強く腫張した肘関節を屈曲するとひじの前方の軟部組織がくい込んで,血管を圧迫して循環障害を起こすことになる。また骨折整復後ギプスを巻きっぱなしにしておくと,肘関節部での腫張がのちに増してきた場合,外側からしっかりとギプスで押さえられているため組織内圧がさらにいっそうたかまって,循環障害を惹起することもある。前腕筋群とくに屈筋群の阻血性変化が著しく,同時に正中・尺骨神経麻痺も伴う。第2~5指の中手指節関節過伸展,指節間関節屈曲の型となる。
一度発生すると重大な機能障害を呈することになるので,初期症状としての急性阻血症状,とくに疼痛,しびれ感などの知覚異常の出現に注意することがたいせつである。本症の危険があれば,ただちにギプス包帯などの緊縛を完全に除き,肘関節であれば屈曲角度を減らすようにする。1~2時間の経過をみて症状の改善がみられなければ,前腕屈側のほぼ全長にわたり筋膜切開を行って筋肉・血管への圧迫を除く必要がある。症状発生後6~8時間以内に血行の改善がえられなければ,筋肉の変性は不可逆性となる。
執筆者:東 博彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報