改訂新版 世界大百科事典 「限性品種」の意味・わかりやすい解説
限性品種 (げんせいひんしゅ)
sex-limited race
autosexing race
雌雄の鑑別を容易にするために限性遺伝を利用して作られた品種。両性生殖をする多くの動植物では,雌雄どちらかの性がヘテロ型(XY)の性染色体をもつ。この場合,Y染色体上の優性遺伝子は,他の染色体に優性の同義遺伝子がないかぎり,Y染色体をもつ性にのみ限性的に発現する(限性遺伝)。この性質を利用して,識別しやすい形質の遺伝子を常染色体からY染色体に転座させ,実用形質を改良したものが限性品種で,1941年に日本人によってカイコで作られたのが最初である。養蚕に使われるカイコは日本種×中国種などの二元や多元の交雑種で,この蚕種を作成する際にはそれぞれの親の雌雄を鑑別しておかなければならない。カイコの雌雄は幼虫やさなぎの腹部末端の形状で鑑別できるが,幼虫の斑紋や繭の色などで鑑別できればこの作業が容易になる。そこで作られたのが,幼虫の斑紋psa,Ze,体色pmおよび血液や繭の色Yの遺伝子をY染色体に転座させた限性品種で,いずれも雌XYにのみ発現する。また,カイコは雄の方がクワを糸に変える効率がよいので,雄のカイコだけを飼育する方が有利である。このため,卵色で雌雄鑑別できるように黒卵の遺伝子+w2をY染色体に転座させ,雌の卵XY⁺w2・w2/w2は黒く,雄の卵XX・w2/w2は白くなるようにした品種も作られている。カイコの限性品種は鑑別が完全にでき実用形質も優れていて,一般の養蚕にも利用されてきている。カイコ以外の家畜や農作物では限性品種は作られていないが,類似するものとしてニワトリの自家性別品種がある。これは,採卵用のニワトリを得るため雛を毛色で雌雄鑑別するもので,伴性遺伝を利用している。すなわち,X染色体上にある毛色の遺伝子を雌雄ともにもたせると,雌(XX)は毛色が淡く雄(XY)は濃くなり,9割以上の精度で鑑別できるが,実用形質が劣るため現在では利用されていない。
執筆者:小林 正彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報