カイコの卵のことをさす産業用語。繭をとるために飼育しているカイコは〈普通蚕種〉と呼ばれる蚕種から孵化(ふか)したもので,日本種と中国種を交配して作った交雑種である。普通蚕種を作る親の蚕種を原蚕種といい,原蚕種の親の蚕種を原原蚕種という。カイコの雌のガは交尾後500~700粒の卵を産む。したがって,普通蚕種を得るために原蚕種は雌雄合わせて最低2億粒が必要となるが,実際にはその2倍以上が作られている。これらの原蚕種および普通蚕種を作ることを蚕種製造という。蚕種製造ができるのは蚕糸業法により,国の蚕糸試験場(現,蚕糸・昆虫農業技術研究所),都府県の蚕業試験場および認可された蚕種製造業者に限られている。原原蚕種は品種の育成者と国が製造し,この原原蚕種の配布を受けて都府県および特定の蚕種製造業者が原蚕種を製造する。普通蚕種は原蚕種を買い受けた一般の蚕種製造業者が製造し,これを養蚕農家が買い入れて飼育する。
蚕種製造は各蚕期に行われ,春採り,夏採り,秋採りなどと区別される。実際の普通蚕種の製造は76%が春蚕期に,24%が夏秋蚕期に行われ,42%が春蚕用として,58%が夏秋蚕用として製造されている。したがって春採りの蚕種には翌年の春蚕用の蚕種とその年の夏秋蚕用の蚕種がある。春蚕用の品種は繭糸質が重視され,夏秋蚕用の品種は強健性が重視されている。秋採りの蚕種には翌年の春蚕用の蚕種があり,これをとくに文化蚕種といい,春採りのものより卵の諸形質が優れ孵化も良いが,秋蚕期は原種の飼育が困難であるという不利がある。蚕卵の休眠性は遺伝と環境に支配され,2化性蚕では蚕種の催青方法により,そのカイコの産む卵を休眠性卵(黒種(くろだね))にも非休眠性卵(生種(なまだね))にもすることができる。古くはこの方法により夏秋蚕用の蚕種を得ていたが,現在では春採りの休眠性卵を人工孵化の処理により,その年の夏秋蚕に用いるようにしている。一般に産卵直後から孵化するまでを蚕種の保護と呼んでいるが,春採りや夏採りの蚕種を翌年の春や夏秋蚕期に用いる場合は,冷蔵期間が長くなるので複式冷蔵法で保護する。複式冷蔵法は蚕種を産卵後40~60日間25℃におき,以降90~100日間に漸次温度を下げ,12月末か1月初めから5℃で40~50日間冷蔵し,2月下旬から40~60日間は2.5℃に冷やし,1日間10~15℃で中間手入れの後,再び2.5℃に入れ目的の時期に出庫するもので,最近ではこの方法により2年間の冷蔵保護も可能になってきている。
蚕種製造や流通の過程では,原原蚕種と原蚕種は1ガずつ台紙に産卵させるが,普通蚕種では大判の台紙に混合産卵させ,適当な時期に台紙から卵を水で洗い落として散種(ばらだね)とし,不受精卵などを選除した後,2万粒約12gを箱に入れ,これを単位として取り扱っている。蚕種製造では不良種の混入を厳しく検査しているが,とくに蚕種製造に用いた母ガの微粒子病感染の有無を検査することが義務づけられている。この母ガ検査は原原蚕種と原蚕種ではすべての母ガを検査し,普通蚕種では抜取検査をするように蚕糸業法施行令で定められている。
執筆者:小林 正彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
商品化した蚕(かいこ)の卵。和紙(蚕種台紙)に雌の蚕が多数の卵を産みつけた製品である。一つ一つの卵は小さく、1枚の台紙から多数の蚕がふ化する。養蚕業の繁栄期には、多数の台紙からふ化した大量の蚕のつくった大量の繭(まゆ)から生じた養蚕農家の利益が大きく、生産蚕種を多数農家に売った専門的蚕種業者の利益も極めて大きかった。近世養蚕に対応した近世蚕種業は当時の養蚕地帯で形成されたが、幕末までに周囲に蚕の病気を媒介する昆虫の少ない特異地域(福島市、長野県上田市周辺)に特産地が成立した。産業革命期以降のイギリスの絹需要に応じたイタリア、南フランスの養蚕業に幕末から明治始めにかけて蚕種を輸出した国内特産地には資本が蓄積し、近代産業の発展を促した。その後の国内養蚕業の成長期には技術革新により蚕種産地が拡散し、製糸業よりも蚕種生産の重要な小産地も出現した。
[佐々木明]
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