陸奥紙
みちのくがみ
平安時代に陸奥(むつ)国で産出された、コウゾ(楮)を主原料とする上質の和紙。「みちのくにがみ」ともいう。衣(ころも)川流域の平泉文化圏で漉(す)き始められたとの説もあり、その紙質が都の紙屋紙(かんやがみ)に匹敵するほど良質なため、平安京の貴族の間でもてはやされて、やがて紙屋院を衰退に導く結果ともなった。王朝文学にしばしばその賛美のことばとともに用いぶりが表れており、厚くてふくよかな、しかも白くて清らかなその麗しい紙は、懐紙として詩歌を書いたりするのに愛用されたことがわかる。はるかな奥羽地方をしのんでか、唐様(からよう)に檀紙とよんだり、あるいは真弓紙(まゆみのかみ)といったりしたようである。
[町田誠之]
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みちのく‐がみ【陸奥紙】
〘名〙 奥州から産した楮
(こうぞ)を原料とした上質の紙。みちのくにがみ。→
檀紙(だんし)。
※堺本枕(10C終)一五〇「しろくきよげなるみちのくかみに」
みちのくに‐がみ【陸奥紙】
※宇津保(970‐999頃)
藤原の君「みちのくのかみのたてまつれるみちのくにがみあり」
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世界大百科事典内の陸奥紙の言及
【檀紙】より
…平安時代には手紙はもとより,漢詩や和歌などを記す懐紙などにも用いられた高級な紙であった。男子は檀紙と記していたが,《源氏物語》などの女流文学にみられるように,女子は陸奥紙(みちのくがみ)とよんでいた。このため檀紙の産地を陸奥とみなす説がゆきわたっているが,一説には,これは修辞学的な表現にすぎず,実際は広く各地から産出したものという。…
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