日本大百科全書(ニッポニカ) 「非水溶媒滴定」の意味・わかりやすい解説
非水溶媒滴定
ひすいようばいてきてい
nonaqueous titration
非水溶媒中で行う中和滴定(酸塩基滴定)。非水溶液滴定ともいう。酸や塩基が非常に弱くて水溶液中で滴定できない場合、多くは適当な非水溶媒中では滴定できるようになる。酸塩基滴定の溶媒を選択するにあたって考慮すべきことは、溶媒の酸性度、塩基性度、誘電率および溶質の溶解度である。弱酸を滴定する際の溶媒の酸性度は、比較的高濃度の溶媒分子の存在のもとで弱酸が滴定できるかどうかをかなりの程度まで左右する。たとえばフェノールC6H5OHは水溶液中では酸として滴定できない。水は酸として強く、濃度が高すぎて塩基による滴定でフェノレートイオンが化学量論的に期待されるほど生じないからである。いいかえると、フェノレートイオンと水酸化物イオンの塩基性度の間には次の反応、
C6H5OH+OH-―→C6H5O-+H2O
を定量的に完結させるほど十分な差がない。さらに酸性の弱いジメチルホルムアミドやピリジンのような溶媒中では、アルコキシドイオンのような塩基性のより強い滴定液を用いて滴定が容易に行われる。
C6H5OH+RO-―→C6H5O-+ROH
酸の標準溶液(標準液)としては過塩素酸の酢酸またはジオキサン溶液が用いられ、その標定(滴定で用いる標準溶液の濃度を正確に測定すること)はフタル酸水素カリウムを用いて行われる。塩基の標準溶液としてはナトリウムメトキシドのメタノール溶液、ベンゼン‐メタノール溶液または水酸化テトラブチルアンモニウムのベンゼン‐メタノール溶液が用いられる。滴定の終点判定は指示薬を用いて行うこともできるが、ガラス電極pH計を用いる電位差法によるのがもっとも一般的である。
[成澤芳男]
『伊豆津公佑・堀智孝・杉山雅人・藤永薫著、藤永太一郎編著『基礎分析化学』改訂新版(1994・朝倉書店)』