酸の定義,溶媒,相,濃度,また温度によって異なる.アレニウス酸は水溶液中で水素イオン H+ を放出する化合物と定義されているから,水溶液中の電離度が低く酸解離定数Ka が小さい,あるいは解離定数の逆数の対数値pKa (=-log Ka )が正で大きいものが弱酸である.ただし,電離度,解離定数は,濃度,温度に依存するから,溶液のイオン強度を一定に保って,すべての化学種の活量係数が不変の状態で,かつ標準状態(25 ℃)で決定した値で比較する.炭酸(pKa1 6.11),次亜塩素酸(7.53),シアン化水素酸(9.21),酢酸(4.57),酪酸(4.57),フェノール(9.87)など(( )内はpKa 値,pKa1 は解離段1).ブレンステッド酸は,
HA + S(溶媒) SH+ + A-
のように溶媒分子にプロトンを与える物質で,アレニウスの弱酸はブレンステッド定義でも弱酸である.液体アンモニア中では,NH3の陽子親和力PAが853.6 kJ mol-1 とH2Oの691.0 kJ mol-1 より大きく,水溶液では弱酸の酢酸もNH3にプロトンを奪われNH4+を与えるので強酸となる.逆に酢酸を溶媒にすると,水溶液中で強酸の過塩素酸,塩酸,硝酸も,すべて正のpKa 値を示し,弱酸となる.硫酸が溶媒の場合は,過塩素酸ですらきわめて弱い酸である.非プロトン性溶媒のアセトニトリル,炭酸プロピレン,ニトロメタンなどでは酸解離が十分起こらず,水溶液中の強酸が正のpKa 値をもち,弱い酸となる.ルイス酸の定義は電子対受容体なので,電子対供与体との錯体生成反応が酸・塩基反応で,錯体の生成定数の大小が強弱と関係することになる.組合せが多岐にわたって複雑なので,酸・塩基の硬軟として取り扱われる([別用語参照]HSAB原理).気相中の酸の強弱は,反応,
A- + H+ HA
のエンタルピーΔH °の負の値の大小で表すことができる.数値が大きい化学種が弱酸で,CH4(1749.0),C6H6(1680.7),C2H2(1580.0)などが弱酸である(( )内は kJ mol-1 単位の-ΔH °の値).
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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