風蕭蕭として易水寒し(読み)かぜしょうしょうとしてえきすいさむし

故事成語を知る辞典 「風蕭蕭として易水寒し」の解説

風蕭蕭として易水寒し

戦いに赴く際の悲壮な決意を表すことば。

[使用例] 水淙々そうそう、風蕭々、夕闇とともにひどく冷気も迫って、謙信の胸は、なお帰らぬの将士のうえに、傷みかなしまずにはいられなかった[吉川英治上杉謙信|1942]

[使用例] はじめのうちは遠慮してかしこまっていた兵士たちも、酔うにつれて、あとからあとからとやすぶしを唄ったり、浪花なにわぶしを唸ったりしているうちに、座はだんだん乱れてきた。「ああ風蕭々として易水寒しか」[尾崎士郎人生劇場風雲篇|1952]

[由来] 「史記刺客伝」に見える歌の一節。中国の戦国時代、えんという国の太子は、天下統一を進めるしん国王に深い怨みを抱いていました。そこで彼は、秦王の暗殺計画を、けいという豪傑に持ちかけます。それを引き受けた荊軻は、秦へと旅立つとき、易水(現在の河北省内)という川のほとりで見送りの人と宴を開き、次のような歌を歌って決死の覚悟を示しました。「風蕭蕭として易水寒し、壮士、一たび去りてかえらず(風はものさびしく吹き、易水の流れは冷たい。壮士は旅だってしまうと、生きて帰ってくることはないのだ)」。結局、この暗殺計画はあと一歩のところで失敗し、荊軻も殺されてしまいます。その後、燕を滅ぼした秦王は、やがて天下統一を完成し、始皇帝として中国全土に君臨することになりました。

[解説] ❶刺客、荊軻の物語は、「史記」でも最も人気のあるエピソードの一つです。❷人生には、負ける可能性が非常に高い戦いに赴かなければいけないときがあります。そういう際の悲壮な決意を表すのに適した故事成語です。

〔異形〕風蕭蕭/非風蕭蕭。

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