食道良性狭窄

内科学 第10版 「食道良性狭窄」の解説

食道良性狭窄(食道憩室・食道良性狭窄)

(2)食道良性狭窄(benign esophageal stricture)
定義・概念
 おもに後天的な炎症による瘢痕狭窄のために通過障害をきたす疾患群である.
原因・病因
 食道に炎症を引き起こすすべての疾患が原因となるが,最も頻度の高いものは逆流性食道炎による狭窄である(表8-3-8).腐食性食道炎誤飲や自殺目的に酸,アルカリ,重金属塩を服用した際に起こり,狭窄は通常数週間後に出現する.薬剤性食道炎は多くの種類の薬剤によって起こる可能性があり(表8-3-8),中部食道の大動脈弓付近の第二狭窄部に起こることが多い.好酸球性食道炎は,近年,嚥下障害や胸痛を起こすことが報告され,注目されている疾患である.欧米では10万人に30~40人発症するといわれ,男性に多い傾向がある.
臨床症状
 食道内腔径が10~13 mm以下になると嚥下障害が生じる.初期には固形食,進行すると流動食もつかえるようになる.症状が長期に持続すると栄養障害や,体重減少が出現する.逆流性食道炎を伴うものは先行して胸やけ,呑酸などの逆流症状をもつものが多い.食道の膜性狭窄(食道ウェブ)に鉄欠乏性貧血,舌炎を伴うとPlummer-Vinson症候群(Patterson-Kelly 症候群)とよばれる.欧米での報告では,好酸球性食道炎の患者では嚥下障害を90%に認め,わが国でも約70%に認めることが報告されている.
診断
 病歴の十分な聴取が非常に重要である.特に服薬歴,食物アレルギー,発症時期などは重要な情報である.バリウム造影は狭窄部位,範囲,程度などの判定のために不可欠な検査である.内視鏡検査では,好酸球性食道炎に特徴的な縦走する溝,輪状溝,白色顆粒などが認められるほか,感染症の診断や,組織検査を行うことにより好酸球性食道炎(上皮内に20/HPF以上の好酸球が存在)などの特異的な炎症の診断や,悪性腫瘍除外に有用である.
合併症
 長期の嚥下障害により,栄養障害,食道内の真菌感染症,吐逆により誤嚥性肺炎を生じることがある.逆流性食道炎に伴うものでは後年には食道腺癌の発生に注意が必要である.
治療
 狭窄に対する食事の注意とともに原因に対する治療が最も重要である.逆流性食道炎には十分なプロトンポンプ阻害薬の投与および維持療法が必要となることが多い.好酸球性食道炎ではステロイド経口薬や吸入薬,抗アレルギー薬を用いた治療が奏効する.原因の治療および保存治療でも嚥下困難が改善しない狭窄には強制拡張術が必要である.内視鏡下バルーン拡張術が安全で有用であるが,繰り返しの拡張術でも十分な狭窄解除が得られない場合には狭窄切除術,食道再建術などの外科的処置が行われる.[保坂浩子・草野元康]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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