高度情報社会に必要とされる大量の情報を経済的に伝達・通信・処理できる通信システムのこと。この通信システムは日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社)が1981年(昭和56)に基本構想を明らかにしたもので、英語の頭文字をとってINSと略称した。
社会での情報の利用形態の多様化に伴い、通信の内容は従来の音声・記号によるものから、画像や数値情報を含めたものに、通信の主体は従来の人対人によるものから、人対機械、さらには機械対機械を含めたものにまで拡大された。このため、通信網を従来のアナログ主体のものからデジタル主体のものにかえ、大量情報の高速伝送と伝送経費の低減を図るとともに、利用されやすいサービスを提供する目的でINSは推進された。
1983~1984年にINSモデルシステムの試用が開始されたころサービス総合デジタル網(ISDN)の世界的な標準化が国際電信電話諮問委員会(CCITT、現国際電気通信連合ITU)で進められ、日本のデジタル通信サービス実用化懇談会は、INSは国際標準規格であるISDNに準拠した方式で実用化すべき(日本独自のものは認めず)とした。それに沿って、1988年に電話線によるデータ伝送速度が毎秒64キロビット×2の「INSネット64」の実用サービスが開始された。さらに1989年から光ファイバーケーブルや広帯域無線チャンネルによる毎秒1.5メガビットの「INSネット1500」の回線交換サービスとパケット交換サービスが開始され、20世紀末には中小企業を中心に普及した。しかし、21世紀になると伝送速度が毎秒1.5メガビットのADSLや毎秒数10メガビットのFTTH(Fiber To The Home、光ファイバー加入者線)を用いた広帯域のインターネットが普及したため、大企業などからの加入者は減少し、INS64とINS1500のサービスはフレッツISDNに統合された。
[岩田倫典]
『NTTグループ・ネットワーク研究会編著『手にとるように通信のことがわかる本』(2001・かんき出版)』▽『井上伸雄著『通信の最新常識――しくみから最先端技術まで』(2003・日本実業出版社)』
…これを国際的にはサービス総合ディジタル網ISDN(integrated services digital networkの略)といっている。NTTではこれを高度情報通信システムINS(information network systemの略)と呼んでいる。 ISDNはディジタル統合網をベースとして,音声,データ,画像などの各種の通信メディアを総合化した通信網である。…
…現在,日本では約7000万台の電話機が使われており,これらは約5000局の電話交換機と有線,無線の多数の電話伝送システムによって相互に接続されている。世界全体には7億台に近い電話機が存在し,これらは国際回線網によって結合されて電話網と呼ばれる巨大な電気通信ネットワークを構成している。電話網は,その電気通信端末としての電話機,会話情報を遠方に伝達するための通信伝送路,相手電話機までの接続経路を選んで接続を行う電話交換機の3要素から構成されている。…
…国内の公衆電気通信サービスの独占的提供主体としての電電公社は,発足以来,電信電話債券の発行等によって財源の確保に努力し,6次にわたる電信電話拡充五ヵ年計画を積み重ね,また,この過程において,通信技術の自主開発にもつとめた結果,世界のトップ・レベルに到達することができた。こうした実績をふまえ,公社はコンピューター・コミュニケーション時代の通信需要に対応しうる次世代通信インフラストラクチャーとしての高度情報通信システム(INS)構想を81年に提唱し,その構築に着手している。こうしたなかで,情報化の進展と折からの世界的な規制緩和気運の高まりのなかで,より高度なサービスを,より自由に利用したいという社会的要請が高まり,また公社制度に対する批判も強まってきたことから,第2次臨時行政調査会をはじめとする各方面の論議の結果,電気通信分野に競争原理を導入するとともに,公社を民営化する方針が打ち出されるにいたった。…
…そのため,民間レベルから実質的な要求が生まれる以前に,〈ニューメディア〉の名を冠したさまざまなプロジェクトが政府・企業のなかから矢継ぎ早に提出された。 1984年9月から電電公社(現,日本電信電話株式会社)が東京の三鷹,武蔵野で実験を開始した光ファイバーによるディジタル通信網INS(Informahon Network System)〈高度情報通信システム〉,11月から同じく電電公社が回線とシステムを,民間491社が情報ソフトを提供して実用サービスを開始したキャプテン・システムは,ニューメディア・ブームの具体的なモデルケースとして大々的に宣伝された。当時の〈ニューメディア構想〉では,1990年代に,INSの全国ネットワーク,無線系の直接衛星放送,高品位テレビ放送,文字多重放送,ファクシミリ放送,静止画放送,有線系のCATV,ビデオテックス(キャプテン),VRS(画像応答システム),テレビ電話,ファクシミリ通信,さらには個別のパソコンやビデオの出力に至るさまざまな情報・通信経路が,1台の端末(テレビ受像器)に統合されるはずであった。…
※「高度情報通信システム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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