中小企業(読み)ちゅうしょうきぎょう

精選版 日本国語大辞典 「中小企業」の意味・読み・例文・類語

ちゅうしょう‐きぎょう チュウセウキゲフ【中小企業】

〘名〙 資本金や従業員数などが中小規模の企業。中小企業基本法では、工業・鉱業・運送業などについては資本金三億円以下か、または従業員三〇〇人以下のものをいい、商業・サービス業については資本金五〇〇〇万円以下、または商業では従業員五〇人以下、サービス業では一〇〇人以下の企業をいう。〔中小企業基本法(1963)〕

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デジタル大辞泉 「中小企業」の意味・読み・例文・類語

ちゅうしょう‐きぎょう〔チユウセウキゲフ〕【中小企業】

経営規模が中程度以下の企業。中小企業基本法によると、小売業では資本金5000万円以下、従業員50人以下、サービス業では資本金5000万円以下、従業員100人以下、卸売業では資本金1億円以下、従業員100人以下、工業・鉱業・運送業などでは資本金3億円以下、従業員300人以下の企業をさす。
[類語]企業公企業私企業・大企業

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「中小企業」の意味・わかりやすい解説

中小企業
ちゅうしょうきぎょう

中小企業の定義には、質的なものと量的なものがある。質的には、ある国のある時期に、大企業に対し中小企業が問題になっているものとして理解する場合のものである。しかし他面、政府の政策その他の必要から量的に区別する必要も生ずるし、その量的区分もその国の経済の発展に応じて変化する。現在の日本では、とくに断らない限り、中小企業基本法(昭和38年法律154号)の定義に基づき、量的に、資本金3億円以下または従業員300人以下の法人企業または従業員300人以下の個人企業を中小企業としている。ただし、卸売業の場合には資本金1億円以下または従業員100人以下、サービス業の場合には資本金5000万円以下または従業員100人以下を、小売業では資本金5000万円以下または従業員50人以下を基準としている。

 また、中小企業のうち従業員20人以下の企業を、とくに「小規模企業」とよぶこともある。ただし、商業またはサービス業での「小規模企業」とは従業員5人以下を基準としている。一般に、4人以下の企業をとくに「零細企業・零細経営」とよぶこともある。ただ、量的基準のみで一律に区別すると、同じ従業員規模でも、たとえば化学工業のような装置産業では大企業に属するものもあるから、業種の性格により区別の基準が移動することもありうる。

 外国の場合は日本と同一ではない。たとえば、アメリカではスモール・ビジネスsmall businessといい、従業員500人以下を中小企業と分類しているが、業種により従業員数や売上高を基準としている。また、「独立して所有されている」「事業分野で支配的でない」といった質的な基準も取り入れられている点は日本と異なる。同様に、ヨーロッパ連合(EU)では従業員数250人未満、年間売上高4000万ユーロ以下、または年次バランスシート(総資産額)2700万ユーロ以下で、他の一つないしは複数の企業に資本または経営権の25%以上を保有されていないことが基準となっている。

[三輪芳郎・八幡一秀]

日本の中小企業の地位

2001年(平成13)の日本の非一次産業計(二次、三次産業の計)でみると、中小企業の事業所数は99.2%、うち76.6%を小規模企業が占めて圧倒的である。また、このうち製造業について従業員規模別にみると、1997年で、事業所数で99.0%、従業員数で75.0%、出荷額で50.8%を中小企業が占めている。卸売業でも中小企業比率は1997年で商店数の99.2%、従業員数の83.6%、年間販売額の64.2%で、小売業でも同じく99.2%、83.7%、75.7%である。いずれにしても、数のうえでは中小企業が圧倒的に多い。しかし、1990年以降中小企業は製造業、卸小売業を中心に減少し続けており、とくに10人以下規模の小零細層での減少が著しくなっている。

 製造業のなかで中小企業がとくに高い地位を占めている分野を業種別にみると、第一に、食料品、繊維、衣服その他の繊維製品、木材・木製品、家具・装備品といった軽工業分野、第二に、加工組立て型業種の中間財生産分野で、ここでは中小企業は多くの場合、大企業の下請企業として部品提供を行っており、分業関係にある。このような業種分野の規模別特性は、日本のみの特性ではない。

 また、業種や商品により、技術水準、量産規模、資本装備率、需要の構造その他の特性により、中小企業の独自の分野がかなり存在する。

[三輪芳郎・八幡一秀]

第二次世界大戦後の日本の中小企業問題の特質

以上みたように、日本では中小企業が圧倒的な数を占めているが、数が多いことだけが問題なのではない。欧米諸国でもいくぶんの差はあるものの、中小企業の数が多いことに変わりはない。第二次世界大戦後、日本の産業構造は、有沢広巳(ひろみ)がその特質を「日本経済の二重構造」と比喩(ひゆ)的にいった点にある。つまり、一方に、国家資本と結び付いた巨大な独占企業が存在し、他方に、前近代的な遅れた中小企業、農業が存在し、そこに断層があるということである。1955年度(昭和30)の経済企画庁(現内閣府)『経済白書』がこの「二重構造論」を取り上げ、日本経済の近代化のためには、この二重構造の解消こそが最大の課題であるとした。

 この経済の二重構造の端的な表現が、日本における企業規模別賃金格差の異常なまでの大きさであった。事業所規模別1人当り賃金格差(製造業)を日米で比較すると、1955年当時では、それぞれ1000人以上規模の事業所の平均賃金を100%とすると、日本では100~499人規模ですでに65%(アメリカは83%)、10~19人規模では39%(アメリカは74%)という状態であった。しかも、この下に家庭内職や農家の内職が結び付いていたのである。

 賃金格差のみではない。長時間労働、作業環境・設備の劣悪さ、厚生施設の不備、就職の不安定性など、「二重構造」とよぶのにふさわしい状態にあった。まさに日本資本主義の特質であった。

[三輪芳郎・八幡一秀]

1960年代までの戦後日本経済の高成長と中小企業の変貌

ところが、日本経済は1955年ごろを基点として、60年代を通じて、世界にもまれな超高度成長を遂げることとなった。この高度成長の過程で、日本の産業構造、また中小企業問題も大きな変容を遂げた。たとえば、規模別賃金格差の日米比較は、1965年には、従業員100~499人規模の事業所までは日米まったく同じの74%、10~19人規模でも日本は56%、アメリカは69%で、まだいくぶんの差はあるものの、それは1955年当時の39対74という、いわば「質的」格差に対し、65年当時には、その日米差は、いわば「量的」なそれにすぎないまでに急変しているのである。

 この要因は、戦後の三大経済民主化政策、すなわち農地改革、労働組合結成の自由、財閥解体と、政治的改革、すなわち民主憲法、とりわけその第9条の軍備放棄という政治経済的枠組みの改革にある。この経済の基本的な枠組みの変革の結果、所得の平準化、企業間競争の活性化、軍需という「親方日の丸」的需要の喪失が、朝鮮特需をばねとし戦後復興期を経た1955年ごろからの高成長を引き出したといえる。すなわち、それは一方における消費革命であり、他方における技術進歩、設備投資の盛行である。

 消費革命の進展は、ラジオ、ミシン、洗濯機、テレビ、冷蔵庫、やがてカラーテレビ、自動車へと大型化した。そこでは、日本で初めて、大量生産方式による機械工業の確立をみて、一品生産方式による設備機械工業とともに機械工業が両脚で立つこととなった。これは、部品の大量生産を必然化し、部品中小企業に至るまで、ラインの労働は単純労働化し、軽労働化し、分業による協業、とくに若年労働力の膨大な吸収をもたらした。この結果、1961年前後を境にして、労働力需給は逆転し、なかんずく若年労働力不足が顕著になり、若年工賃金の上昇をもたらした。この労働力需給の逆転は、日本資本主義約100年の歴史のなかで、まさに画期的なことであった。労働力不足はとくに中小企業に深刻で、中小企業の賃金上昇を余儀なくした。賃金上昇は、当然のこととして労働節約的設備投資を余儀なくし、中小企業の設備近代化の誘因となった。

 さらに、1960年代後半には、以上のことが、中小企業の末端にまで材料革命の浸透をもたらした。いや、技術革新が材料革命という姿をとって、中小企業の末端にまで及んだのである。たとえば、木材、紙にかわりプラスチックが日用品、建材、包装、玩具(がんぐ)などへ急展開したことは、従来の手工業的加工法を、量産的なプラスチック射出成形機やブロー成形(プラスチックの瓶の生産方法)にかえていった。そこでは、従来は問屋資本(前貸資本)が職人を抱えて季節的な少量生産をさせて、買いたたいていたものが、連続的で、単純労働、軽労働による生産方式にかわり、問屋資本(前貸資本)を排除するなどの大きな変化が起こっていった。

 つまり、1960年ごろまでは、技術革新は主として原材料生産を担う大企業中心のそれであった。たとえば鉄鋼、石油化学、電力、合成繊維原料などである。それが、60年代に至ると、材料革命を通じて、技術革新が中小加工企業の末端にまで浸透し始めたのである。中小企業の労働力不足、高賃金化が、労働節約的で量産的で、軽量化、小型化の可能な材料とその加工設備への転換を促進した。

 1960年代の中小企業の変貌(へんぼう)の要因の第一を、前述のように、労働力不足、高賃金化とすれば、第二の要因は日本経済の国際化である。貿易自由化、資本自由化の波は、加工組立て産業での部品企業の近代化を要請すると同時に、他方、開発途上国からの輸入に対し無税または低関税率が適用される特恵関税供与によって、途上国からの追い上げを受ける業種(主として労働集約的な軽工業品や繊維製品など)での近代化が要請されるに至った。

 1960年代までの高成長、市場の拡大は、日本の中小企業のなかに、それまで育たなかった部品専門メーカーや、いわゆる「中堅企業」とよばれる企業群を新たに群生させるに至ったことも特筆に値する。機械工業におけるこれらの変化を軸として、これは他の工業にも及び、また流通過程をも変貌させるに至った。

[三輪芳郎・八幡一秀]

1970年代以降の低成長への転化と中小企業

1970年代初頭に、日本経済は、低成長へ転化した。その要因は、第一に、耐久消費財や設備機械や社会資本的なものなどの耐久財のストック(蓄積量)の巨大化、普及の一巡化により、フロー(流れ)の毎年の生産・消費の増加率が急激に鈍化屈折し始めたこと。第二に、円高や石油ショックがこれにオーバーラップしたことである。日本経済の低成長への転化は、また中小企業に新たな変化をもたらした。

 まず賃金格差の推移をみると、1965年ごろを転機として、以後、賃金格差は80%前後で横ばい状態から、むしろやや開きぎみに推移している。しかし、これは、1000人以上規模の大企業に対し、10~99人規模の企業で80%、年間賞与等修正後格差でほぼ70%程度であるから、欧米と比べても格差が大きいとはいえまい。

 つまり、1955年当時の日本の賃金格差はいわば「日本的特質」といえたが、今日の格差は、日本的というより、いわば資本主義経済一般に存在する大企業と中小企業の賃金格差という性格に変わったといえるのではないだろうか。もちろん、格差の内容を、平均ではなく、さらに詳しくみれば多くの格差が存在するし、低成長が長期化・定着化した今日、格差はむしろ形を変えた拡大傾向にあるといえる。

 1973年の石油ショックを契機として、労働力需給はふたたび急転悪化し、中小企業における労働力不足感は急激に衰えた。そのなかで、より低賃金を求めて、企業は女性労働者やパートタイマー労働者への依存を強めている。とくに低成長が、製造業の停滞・後退、第三次産業のみの増大傾向をもたらすなかにあって、この第三次産業での女性、パート、あるいは学生アルバイトの増大が顕著となっている。

 また、平均ではなく、年齢、勤続年数、職種、学歴という属性をそろえてみた標準労働者でみると、30歳なかばまでは賃金の格差はさほどないが、年齢が高くなるほど、職種、学歴に関係なく格差は広がっている。

 労働時間も、労働省(現厚生労働省)「賃金構造基本統計調査」(1983)によると、中小企業の1か月当り所定内実労働時間(製造業、男子、学歴計)は192時間であり、大企業の165時間の1.16倍を示すなど、まだまだ格差は大きかった。その後、格差は縮まり、1999年(平成11)調査では、大企業160時間、中企業166時間、小企業173時間となった。

[三輪芳郎・八幡一秀]

1980年代の国際的産業構造調整過程と中小企業

1980年代には、輸出の急増、急激な円高によって競争力を失う中小企業分野がいっそう拡大し、また経常収支の大幅黒字、貿易摩擦の激化は、日本企業の海外現地工場化を促進していた。これらの現象は、部品・資材の現地調達を義務づけられるなどのことを通じて、国内の部品中小企業をいっそう困難に追いやることになる。

 また1980年代は、半導体革命とよばれるマイクロエレクトロニクス(ME)化が進展した。その結果として中小企業の設備近代化に役だつと同時に、大企業が多種中少量生産分野にまで参入可能となった。

 このように、日本経済の低成長の結果、日本の機械工業は内需不振のもと、その生産のほぼなかばを輸出に依存するほど、輸出依存度を高め、日本の全輸出に占める機械製品輸出の割合も7割強に達している。機械輸出額は世界一に達し、これが主因となって、大幅な貿易黒字、したがって円高を招いた。これを決定的にしたのが、1985年の「プラザ合意」である。先進資本主義国による政策協調により、「円高・ドル安」が恒常化した。

 自動車、テレビ、VTRその他の機械大企業は貿易摩擦緩和のため、欧米先進国には大型商品の市場を求めて現地生産工場化を進めると同時に、輸出数量自主規制の名のもとに事実上の国際カルテル化を進め、高価格化で利潤を高めている。他方、ラジオ、ミシン、小型テレビその他の低価格製品は、東南アジア諸国の低賃金を求めて、生産拠点をこれら地域に移している。かくして、国内生産が縮小の方向に向かうならば、関連部品、下請企業の困難は強まる道理である。

 円高は、労働集約的軽工業品の輸出競争力を弱め、また、従来輸出とは関係がなかった多くの中小企業にとっても、外国製品の輸入増大によって市場を奪われる場合が多くなる。

 このように、国際的産業構造調整政策の下で、内需不振と輸出・輸入の両面から、中小企業と大企業との間に新たな矛盾がいっそう激化した。しかし、1987年に始まる「バブル景気」はこれらの矛盾を隠蔽(いんぺい)し空前の好景気が日本経済を包み込むが、ほぼ5年で矛盾の顕在化をみることになった。

[三輪芳郎・八幡一秀]

90年代不況と規制緩和政策下における中小企業

1992年(平成4)からバブル崩壊に伴う「90年代不況」が発生し、これまで隠蔽されてきた矛盾が一気に噴き出し始めた。また、95年から日米構造協議に基づいて国内で規制緩和政策推進が本格化し、これまで中小企業分野であった産業にも国内外の大企業が参入しやすい状況を政策的につくりだした。大企業は新規設備をもつ海外生産拠点への量産品・中量品生産の本格的移行と旧来の国内工場を縮小・閉鎖することにより従業員の配置転換を含む大規模な「リストラ」(リストラクチャリング、建て直し)を実施することとなり、その地域の下請中小企業との取引も縮小ないしは打ち切りが当然のように進んだ。「大企業に学べ」と中小企業でもリストラによる人員削減が行われ、各地域で失業者を増大させている。より下層に位置する、小零細企業では倒産・廃業が増加し、「地域の空洞化」が叫ばれるなか、地域経済までもが大きく傾いてきている。

 1990年から3回の緩和政策により骨抜きとなった「大規模小売店舗法」は98年の通常国会において廃止が可決され、スーパーマーケットや専門店チェーンなど大型店の出店ラッシュはとどまるところを知らないばかりか、地域の中小小売業減少を加速させつつある。

 製造業でも納入先大企業の海外移転だけでなく、中小企業の事業転換や海外展開が政策的に推進され、企業城下町地域だけでなく地場産業や都市型工業集積地域でも工場数減少が進み、地域内での生産ネットワーク(地域内分業体制)に歪(ゆが)みが現れてきている。

 1999年に中小企業基本法が改正され、中小企業政策も経営革新・創業・ベンチャー企業への重点的支援政策へと転換しつつある。しかし、中小企業全体を考えるとき、これらの優良中小企業への政策支援だけでは不十分であることは明らかである。

 21世紀の中小企業は、最先端をいくフロント・ランナー型体質へと転換していくことが、国民が中小企業のもつさまざまな機能から出てくる恩恵を享受できることにつながり、豊かな社会づくりへの第一歩となっていくだろう。各地域で進行しつつある中小企業集積の崩壊を食い止め、地域経済・社会の担い手としての中小企業を維持・発展させていくことが重要であるといえる。たとえば、製造業では大企業の下請として、また従来の製品作りからなかなか抜け出せない産地・地場産業の集積を質・量的に回復させることよりは、「新しい」中小零細企業の集積メカニズムを構築することこそが必要と考えられる。もちろん「新しい」集積からつくりだされる製品は豊かな社会を国民に提供するものとなる。

[三輪芳郎・八幡一秀]

『藤田敬三・竹内正巳編『中小企業論』(1972・有斐閣)』『加藤誠一・水野武・小林靖雄編『現代中小企業基礎講座』全5巻(1976~77・同友館)』『中山金治著『中小企業近代化の理論と政策』(1983・千倉書房)』『渡辺睦著『日本中小企業の理論と運動』(1991・新日本出版社)』『吉田敬一著『転機に立つ中小企業』(1996・新評論)』『黒瀬直宏著『中小企業政策の総括と提言』(1997・同友館)』『中小商工業研究所編『現代日本の中小商工業――現状と展望編』(1999・新日本出版社)』『中小商工業研究所編『現代日本の中小商工業――国際比較と政策編』(2000・新日本出版社)』『渡辺幸男他著『21世紀中小企業論――多様性と可能性を探る』(2001・有斐閣)』『福島久一著『中小企業の国際比較』(2002・新評論)』『日本中小企業学会編『21世紀の地域社会活性化と中小企業』(2002・同友館)』『鎌倉健著『産業集積の地域経済論――中小企業ネットワークと都市再生』(2002・勁草書房)』『相田利雄他著『新版・現代の中小企業』(2002・創風社)』『内田勝敏編『グローバル経済と中小企業』(2002・世界思想社)』『寺岡寛著『中小企業の社会学――もうひとつの日本社会論』(2002・信山社出版)』『中小企業庁編『中小企業の経営指標』各年版(中小企業診断協会、同友館発売)』『中小企業庁編『中小企業白書』各年版(大蔵省印刷局/財務省印刷局。2001年版より、ぎょうせい)』

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改訂新版 世界大百科事典 「中小企業」の意味・わかりやすい解説

中小企業 (ちゅうしょうきぎょう)

大企業と区別して中企業と小企業とを一括する用語。小企業に含まれる零細企業については,それを含めることを明確にするため中小零細企業といった表現が使われることがあるし,また場合によっては中小企業から除外して考えることもある。中小企業は,その国々によって名称は違うが,資本主義体制の先進諸国のどの国にも存在し,経済活動のなかで少なからぬ比重を占めている。しかし同じ中以下の規模の企業といっても,その経営形態は国によってかなり違っており,その国の工業化の歴史を反映している。

経済史,経営史的にみると,日本の中小企業はおよそ三つのタイプに区別でき,それぞれがそれぞれの時代の代表的な存在であった。

 第1は,江戸時代以来の伝統をもつ小商工業で,明治・大正時代には,大企業に対して小商工業とか,在来産業とも呼ばれた。絹織物,綿織物(染色,加工を含む),陶器,磁器,漆器,花むしろ,畳表,蚊帳,木竹製品(傘,下駄,雪駄,扇子,うちわ,家具類),真田紐などの製造・販売業,および酒,みそ,しょうゆなどの醸造業である。日本では明治初年から工業化が急速に進んだとはいえ,日本人の衣食住の生活様式はそれほど変化せず,むしろ人口の増加とともにこれら伝統的生活用品の需要は増大した。これら在来産業は,問屋制家内工業の経営形態のまま発展し,動力化,機械化は徐々に進んだが,一般に技術や経営の変革は緩慢であった。また流通を担う問屋商人の支配力は非常に強かった。明治時代には鉄道の革命的な発展がみられたが,それは江戸時代以来の街道に沿ったもので,アメリカのような流通革命を伴わなかった。この面でも伝統的な商業経営は新しい輸送組織に適応し,存続したのである。この在来タイプの小商工業は,第2次大戦後大きく変貌した。日本人の衣食住が西洋化して需要が著しく減少し,また中・大企業による代替品が大量に登場したからである。したがって大半は衰退に向かい,現在は手工業生産の特性を生かす分野に限られている。

 第2は,明治時代に日本に輸入され,ないしは知られた産業で,主として技術の性格から中以下の規模の企業として経営され,発展したものである。マッチ,ブラシ,帽子,皮革製品(靴,かばん),ガラス製品,食器,タオル,玩具,繊維加工品(靴下,メリヤス類)などである。このタイプの経営の特徴は,新問屋制工業といわれたように,零細にせよ機械制経営ではあるが,問屋から原材料の支給を受け,あるいは資金を依存するなど,問屋に依存するものが多かったことである。昭和になると,政府は第1のタイプとともに,これら中以下の企業を中小商工業と呼び,組合の設立を助成するなど,保護と振興対策を講ずるようになった。第2次大戦後には,かつて輸出向きであった玩具や繊維製品のように発展途上国の企業の追上げによって市場を失った分野もあるが,プラスチック製品のように新たにこの系統で発展しているものもある。問屋の支配力は戦前よりも低下したが,依然流通にかかわる企業も多い。

 第3は,大正時代以降の重工業の発展に伴う,いわゆる下請工業(〈下請〉の項参照)の経営である。造船,車両,電機,機械などの日本の重工業は,低賃金の維持と,景気変動のクッションとして部品の生産をできるだけ外部の下請企業に発注させる方針をとった。これに対し,一定の技術を身につけた製造業者は〈小回り〉の利益を生かして受注に乗り出したので,ここに下請企業が広い分野で生成し,昭和年代になって著しく発展した。下請企業は第2次大戦後,耐久消費財の分野一般にも拡大し,中小企業(戦時中以来の用語)の代表的な分野をなすにいたっている。

 なお,これら戦後の中小企業のなかからは,高い技術力によって革新を行い,問屋にも親企業にも依存しない独立性の強い企業が現れるようになった。最近では,この最新のタイプの企業は中堅企業と呼び,中小企業とは区別している。
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日本のみならず,競争的な経済制度のもとでは,さまざまな規模の競争者による自由な生産,販売の経済活動が営まれる。このような経済制度のもとでは,一般的にいって,より大きな資本を用いて,規模の経済性をもつ生産設備を備え,大量宣伝によって需要を喚起し,新たな製品の研究開発に十分な体制を整えうる大企業が競争上有利な地位を占める。しかし他方で,大企業は独占に伴うもろもろの弊害や規模の大きさゆえの非効率等を発生させるため,活力ある中小企業を維持することが,社会の政治的・経済的な健全さを担保するうえで必要となる。また中小企業者の数の多さゆえに,現実にその保護を要求する政治的な圧力も必然的に強くなり,一方で,可能な限り自由な競争を維持するという前提を保ちつつ,他方で,いかにして健全な中小企業を育成するかという,中小企業政策の課題が生ずるのである。

 1963年に制定された中小企業基本法は,現在の日本における中小企業政策の基本的な枠組みを定める法律である。同法は工業,鉱業,運送業等については資本規模で1億円以下,常用従業員規模で300人以下の企業を,卸売業については資本規模で3000万円以下,常用従業員規模で100人以下の企業を,小売・サービス業については資本規模で1000万円以下,常用従業員規模で50人以下の企業をそれぞれ中小企業として定義し,その経済的・社会的制約による不利を是正し,自主的な努力を助長して,中小企業の成長発展と,中小企業従業者の経済的・社会的地位の向上に資するように国が政策を実施すべきことを規定する。同法のもとでとられる政策は,以下の4本の柱にまとめうる。

具体的には以下の7施策がその内容をなす。(1)中小企業近代化促進法(1963公布)に基づいてなされる業種別の近代化,(2)中小企業事業団(1980年公布の中小企業事業団法)による高度化融資,中小企業近代化資金等助成法(1956年公布の中小企業振興資金助成法を66年に改称)による設備近代化資金貸付制度と同法による設備貸与制度,機械類信用保険法(1961年公布の機械類賦払信用保険臨時措置法が66年改正で恒久法化され,さらに70年に改称)による割賦・ローン保証販売およびリースにかかる保険の,以上4種の融資・貸付け・保証制度からなる高度化融資施策,(3)都道府県,中小企業事業団等による診断,指導,情報提供,研修,技術振興,海外投資へのアドバイス等といった経営改善の援助制度,(4)中小企業等協同組合法(1949公布)による事業協同組合火災共済協同組合,信用協同組合,協同組合連合会,企業組合,および〈中小企業団体の組織に関する法律〉(1957公布)による協業組合,商工組合,商工組合連合会ならびに商店街振興組合法(1962公布)による商店街振興組合等々の中小企業の組織化のための諸制度,(5)中小小売商業振興法(1973公布)による商店街整備,店舗共同化,ボランタリーチェーン化の援助,商店街振興組合法による共同経済事業や環境整備事業に対する補助,小売商業調整特別措置法(1959公布)による購買会事業に対する規制,小売市場の許可,中小小売商とそれ以外の者との紛争の斡旋・調停等の調整からなる,中小商業・サービス業のための諸制度,(6)中小企業事業転換対策臨時措置法(1976公布)による指定業種の事業転換の援助,(7)もっぱら行政措置として展開されている地場産業振興対策・産地中小企業振興対策,特定業種関連地域中小企業対策臨時措置法(1978年公布の特定不況地域中小企業対策臨時措置法が1983年改称)による特定不況地域対策等の地域中小企業対策。

金融の支援,自己資本の充実,倒産防止対策の3施策からなる。(1)中小企業に対する金融支援施策(〈中小企業金融〉の項参照)は,金融制度とその補完からなるが,金融制度のおもなものとして,全額政府出資の金融機関である中小企業金融公庫(1953年公布の中小企業金融公庫法)と国民金融公庫(1949年公布の国民金融公庫法),半官半民の出資による商工組合中央金庫(1936設置)の3機関があり,中小企業に対する設備資金,長期運転資金,運転資金の特別の融資を行っている。その他,環境衛生関係営業者を対象にして設備資金の融資をする環境衛生金融公庫(1967年公布の環境衛生金融公庫法)がある。またこのような金融機関からの融資を補完する制度として,大型店等の大企業の進出や下請生産の減少等による中小企業の経営の不安定化に対処するために経営の合理化・近代化等に必要な資金を融資する制度として,中小企業体質強化資金助成制度があり,信用補完制度として,中小企業信用保険公社(1950年公布の中小企業信用保険法)の保険業務と資金貸付けに支えられた,全国で52の信用保証協会(1953年公布の信用保証協会法)による保証制度がある。

(2)また中小企業の増資新株や転換社債を引き受けることによって,一般の証券市場を利用するのが困難な中小企業の自己資本の充実を図るための制度として,中小企業投資育成株式会社法(1963公布)により設立された中小企業投資育成株式会社(現在,東京,名古屋,大阪に3社。中小企業投資育成会社)がある。(3)中小企業の倒産防止施策としては,中小企業信用保険法に基づく倒産関連特例保証制度があり,中小企業倒産防止共済法(1977公布)による共済制度もある。その他,全国の主要商工会議所と都道府県商工会連合会に倒産防止特別相談室が設置され,事前相談に応ずる体制が整えられており,その相談者は体質強化資金助成制度を活用した経営安定特別貸付制度も利用しうることとされている。

次の三つの施策からなる。

(1)下請企業の振興施策としては,下請中小企業振興法(1970公布)による振興事業計画制度や,都道府県下請企業振興協会,全国下請企業振興協会等の組織による下請取引の斡旋,設備近代化資金貸付事業,設備貸与事業等もある。また下請取引の適正化を図る特別法として下請代金支払遅延等防止法(1956公布)があり,中小企業庁と公正取引委員会の共管となっているほか,建設業法は1972年の改正において,元請・下請取引の間の不公正な取引行為を規制する規定を設けた。なお一般法としての独占禁止法の規定が元請・下請関係に適用されることがあるのは当然である。

(2)中小企業による官公需受注機会の確保を図るための制度として,〈官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律〉(1966公布)がある。

(3)中小企業と大企業の競争の場における中小企業の事業活動の適正な機会を確保するための施策には,〈中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業者の事業活動の調整に関する法律〉(いわゆる分野調整法)による制度,〈大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律〉(いわゆる大店法,大規模小売店舗法)による制度,小売商業調整特別措置法による制度等がある。この分野の諸施策は,直接に,大企業の経済活動の自由を制限することによって,中小企業の保護を図るものであり,その必要性や合理性についてさまざまな論議を呼んでいる。

中小企業の大部分は,常時使用する従業員数が20人以下(商業,サービス業では5人以下)の商工業者であり,これらは小規模事業者と呼ばれる。その圧倒的な割合のゆえに,小規模事業者対策は中小企業政策のなかでも重要な意義を有する。この政策を構成するのは商工会による経営指導,小企業等経営改善資金制度,小規模事業者共済・設備の近代化のための資金融資,設備貸与の諸制度である。経営指導制度の中心は,商工会(1960年公布の〈商工会の組織等に関する法律〉)を中心にして展開されている経営改善普及事業である。商工会等の経営指導を受けた小企業を貸付対象とする無担保・無保証人融資制度として小企業等経営改善資金融資制度もある。ほかに,経営体質が脆弱(ぜいじやく)な小規模企業に働く労働者の退職金に関する不安を解消するために,小規模企業共済法(1965公布)による共済制度が運用されている。設備の近代化のための制度は,中小企業近代化促進法に基づくものが小規模企業にも適用される。
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百科事典マイペディア 「中小企業」の意味・わかりやすい解説

中小企業【ちゅうしょうきぎょう】

相対的に小規模な企業。一義的には定義できないが,中小企業基本法の規定(小売・サービス業では従業員50人以下・資本金1000万円以下,卸売業では100人以下・3000万円以下,製造業等では300人以下・1億円以下の企業)が基準とされる。一般に生産性が低く低賃金である。日本では一方で早くから大企業が形成されたが,他方では資本蓄積の不足を補う中小企業が事業所・就業者数で圧倒的比重を占め,多くは下請等により大企業に従属し,いわゆる二重構造をなしてきた。資本蓄積の進行に伴い,多様な中小企業は中堅的な専門企業や零細企業等に分解する傾向が著しく,中小企業基本法その他により近代化の促進が図られている。
→関連項目印刷業下請企業中小企業金融公庫中小企業庁

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「中小企業」の意味・わかりやすい解説

中小企業
ちゅうしょうきぎょう
small business; small and medium enterprise

生産,販売などを行う資本の単位組織である企業のなかで,その規模が比較的小さいもの。企業規模は通常,資本金あるいは従業員数によって分けられる。日本の場合には,中小企業基本法 (昭和 38年法律 154号) で,中小企業の範囲を工業,鉱業,運送業などでは資本金 5000万円以下,あるいは従業員数 300人以下,商業,サービス業では資本金 1000万円以下,あるいは常時従業員数 50人以下と規定していた。しかし 1973年に同基本法を改正し,製造業の資本金を1億円以下に引上げ,サービス業と同じであった卸売業の基準を従業員 100人以下または資本金 3000万円以下に変更した。日本の製造業は多数の中小企業の存在と下請企業を中心とする分業構造を大きな特徴としている。分業構造のすそ野をになう中小企業の存在が産業全体としての効率性を生み出す源泉となる一方で大企業との賃金格差などの問題も存在する。

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