黒死館殺人事件(読み)こくしかんさつじんじけん

改訂新版 世界大百科事典 「黒死館殺人事件」の意味・わかりやすい解説

黒死館殺人事件 (こくしかんさつじんじけん)

小栗虫太郎長編小説。1934年(昭和9)に《新青年》に連載。神奈川県に明治以来の建造物黒死館がある。建造者の降矢木博士実験遺伝学論争以後沈黙し変死を遂げたあと,遺子と,博士が海外から乳児のうちに連れてきた,40年間門外不出の神秘楽人4人がいた。博士の予言した殺人方法に従って,楽人が相次いで殺されるが,これらの楽人は犯罪素質が遺伝するかどうかの論争の当否を定めるため,人間を栽培しようと4人の刑死人の子どもを入手したものであった。妖異な雰囲気の設定と,ペダントリーに飾られた絢爛たる抽象論理の世界を展開した本編は,スリラー主流の探偵文壇や読書界に大衝撃を与えた。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「黒死館殺人事件」の意味・わかりやすい解説

黒死館殺人事件
こくしかんさつじんじけん

小栗(おぐり)虫太郎の長編推理小説(1934)。黒死館という妖異耽美(よういたんび)の城館と、そこに住む奇怪な住人たち。そこで発生した連続殺人事件を捜査する刑事弁護士法水麟太郎(のりみずりんたろう)。一見バン・ダイン風の本格推理小説で、オカルティズム魔術、神秘学などのペダントリーに粉飾された内容は読者のど肝を抜くのに十分な迫力がある。ここに展開されるのはファウスト博士の四大呪文(じゅもん)に象徴される超論理的な中世の黒魔術の世界である。論理性と合理性が要求される推理小説に、あえて論理的詐術を持ち込んだこの作品は、日本が生んだ数少ない奇書の一つ。

厚木 淳]

『『黒死館殺人事件』(社会思想社・現代教養文庫)』

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