博士(読み)はかせ

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

博士
はかせ

日本音楽の記譜の名称。「墨譜」とも書く。おもに仏教声楽の声明 (しょうみょう) の記譜として,本文の漢字につけられた記号をいい,本来は訓点と密接な関係があったと思われる。原則として漢字1字分の音節の音型および唱法を,直線または曲線およびその組合せで視覚化させて表現したもので,ヨーロッパのネウマ譜の古いものや,動機譜に近い性格をもつ。その後,平曲,謡曲,浄瑠璃などの語り物に用いられる記譜となり,これを節 (ふし) 博士ともいった。その形が胡麻 (ごま) に似ているものを胡麻点 (あるいはゴマ符,ゴマ章,ゴマ譜) と呼ぶ。

博士
はかせ

(1) 律令制における官名。その道に通じている専門家を任じた。大学寮明経 (みょうぎょう) ,文章 (もんじょう) ,明法,音,算など,陰陽寮陰陽,暦,天文,漏刻など,典薬寮に医,針,呪禁 (じゅごん) などの博士があった。 (2) 博士 (はくし) の俗称。旧制では学位令によって文部大臣から与えられた学位新制では大学院に5年以上在学し,所定の単位を修得,大学院の行う論文審査と試験に合格したものに授与される。法学,文学,教育学社会学,神学,政治学,経済学,商学経営学,理学,工学,農学,水産学,医学,歯学,薬剤学,獣医学の種類がある。

博士
はくし

博士」のページをご覧ください。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

デジタル大辞泉の解説

はか‐せ【博士】

学問やその道の知識にくわしい人。「お天気博士」「物知り博士
学位の「博士(はくし)」の俗称。「博士号」「文学博士
律令制の官名。大学寮明経(みょうぎょう)紀伝(のちに文章(もんじょう))・明法(みょうぼう)陰陽(おんよう)寮陰陽天文漏刻典薬寮呪禁(じゅごん)などの各博士が置かれ、それぞれ専門の学業を教授した。
(「墨譜」とも書く)声明(しょうみょう)の経文の傍らに記して、音の高低・長短を示す記号。上がり下がりなど音の動きを線で視覚的に表した目安(めやす)博士と、音階(宮・商・角・徴(ち)・羽)を文字または記号で表した五音(ごいん)博士とに大別される。節博士(ふしはかせ)。

はく‐し【博士】

学位の一。大学院博士課程を修了し、博士論文の審査および試験に合格した者に授与されるもの(課程博士)と、博士論文の審査に合格して博士課程修了と同等以上の学力があると認められた者に授与されるもの(論文博士)がある。ドクター
はかせ(博士)

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

百科事典マイペディアの解説

博士【はかせ】

律令制の官職の一つ。大化改新で国務顧問として国博士2名を任じたのが最初。律令制では中央の大学に古典を教える博士(大学博士)・助博士(助教)および音・書・算の各博士,諸官庁に陰陽(おんみょう)・暦(れき)・天文・漏刻(ろうこく)・医・針・按摩(あんま)・呪禁(じゅごん)の各博士,地方では大宰府に博士(大宰博士),諸国に国博士が任じられ,それぞれ学生(がくしょう)に教授した。平安中期以後,大学はすたれ,博士を出す家(博士家)は固定し,家学を伝えるのみとなった。→博士(はくし)
→関連項目をこと点藤原惺窩

博士【はくし】

博士の学位は,かつては学問上一定の完成をみた者に授与されたが,現在では,研究者として自立する能力を有する水準の者に授与されることになっている。大学院博士課程を修了し,一定期間内に博士論文の審査に合格した場合(〈課程博士〉)のほかに博士論文の審査に合格し博士課程修了者と同等以上の学力を認められた場合(〈論文博士〉)がある。その授与状況は,従来,理,工,農,保健の分野では授与される者が多く,人文,社会,教育の分野では授与される者は極めて少なかった。なお,1989年度から導入された,大学院への飛び級制度(大学3年在籍で入学資格が可能)により最短24歳で博士号が取得できることになった。
→関連項目博士

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典 第2版の解説

はかせ【博士】

日本の声楽の伝統的な楽譜の一種。旋律の動きを視覚的にわかりやすく示そうとしたもので,詞章の右または左に書かれる。この呼称は主として声明(しようみよう)で用いられるほか,雅楽の歌物の楽譜も博士と称することが多い。譜士と書くこともあり,節博士(ふしはかせ),墨譜(ぼくふ),節譜(せつぷ)などともいう。なお,謡(うたい)や浄瑠璃の楽譜に対しては胡麻(ごま),胡麻点などの語を用い,博士とはいわない。声明の博士は,時代により宗派・流派により,また声明家個人によってさまざまの種類のものが考案されてきたが,原理的には,理論上の音階音すなわち五音(ごいん)を示そうとするものと,旋律の動きを示そうとするものの2種に大別することができ,前者を五音博士,後者を目安博士(めやすはかせ)などと呼ぶ。

はかせ【博士】

日本古代の教官,官職名。大化改新以前,《日本書紀》は百済より博士王仁五経博士段楊爾・漢高安茂,医博士易博士,暦博士,鑪盤(ろばん)博士,瓦博士の来朝を伝えている。改新のとき,官職として国博士がおかれ,持統朝に音博士,書博士,医博士,咒禁博士,陰陽博士,大学博士がみえる。大宝令では陰陽寮に陰陽博士,暦博士,天文博士,漏刻(ろうこく)博士,大学寮に博士,音博士,書博士,算博士,典薬寮に医博士,針博士,咒禁博士,按摩(あんま)博士がおかれた。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報

大辞林 第三版の解説

はくし【博士】

学位の一。大学院の博士課程を修了し、博士論文の審査および試験に合格した者、または学歴のいかんを問わず論文審査・試験に合格した者に与えられる。ドクター。はかせ。

出典 三省堂大辞林 第三版について 情報

精選版 日本国語大辞典の解説

はか‐せ【博士】

〘名〙
① 学問や芸道などで、その道に精通した人。深い知識や高い識見などをもっている人。人を教えるだけの力をもっている人。はくし。
※書紀(720)孝徳即位前(北野本訓)「天万豊日(あめよろつとよひ)の天皇は〈略〉儒(ハカセ)を好みたまふ」 〔戦国策‐趙策〕
② 官職・地位の称号。→はくし
(イ) 上代、百済から送られた学問技術の専門家の称号。五経博士(ごきょうはかせ)・医博士(くすしのはかせ)・易博士(やくのはかせ)・暦博士(こよみのはかせ)・露盤博士(ろばんのはかせ)・瓦博士(かわらのはかせ)など。
(ロ) 指導的な識者に与えられた称号。→くに(国)の博士
※書紀(720)朱鳥元年正月(北野本南北朝訓)「諸の才人(かとあるひと)・博(ハカセ)・陰陽師(をんみゃうし)・医師者、并て二十余人を召して」
(ハ) 令制で、特定の学術・技芸に専門的に従事し、かつその分野の教育を担当する職の総称。または、その人。大学寮に、明経・紀伝(文章)・明法・算・音・書の各博士、陰陽寮に、陰陽・暦・天文・漏刻の各博士、典薬寮に、医・女医・針・按摩・咒禁(じゅごん)の各博士があり、さらに大宰府および諸国にも、それぞれ大宰博士・大宰府明法博士および国博士(くにのはかせ)が置かれていた。
※令義解(718)職員「博士一人。〈掌授経業。課試学生〉」
(ニ) 江戸時代、藩儒の称として用いた。
※寛斎先生遺稿(1821)一「腰痩初纏博士印、名逃空勒党人碑」
(ホ) 明治二年(一八六九)七月八日、大学校に設けられた官名。生徒を教授したり、国史を編纂したり、洋書の翻訳にあたったり、病院や医薬関係のことなどをつかさどった。また、その官にある人。大・中・少の三階級に分かれた。のち、官制の改革により、大学、文部省に属したが、同五年九月三日廃止。
(ヘ) 明治三年(一八七〇)四月五日、宣教使のうち、大・中・少宣教使を改称した呼び名。同五年の官制改革によって、宣教使の名称とともに廃止された。
※紫式部日記(1010頃か)寛弘七年正月一日「くすりの女官にて、文屋のはかせさかしだちさいらきゐたり」
④ (「ふしはかせ(節博士)」の略) 平曲、謡曲などの「うたいもの」、あるいは声明(しょうみょう)などの節のきまり。また、それを示すために文句のそばに書きしるす点や線の譜。墨譜。胡麻点。
※文机談(1283頃)三「卿といひし哥女にあひて博士つけ拍子さしたりとて、ときどきうたひ侍き」
⑤ 手本。模範。標準。規準。
※徒然草(1331頃)二二〇「太子の御時の図、今に侍るをはかせとす。いはゆる六時堂の前の鐘なり」
⑥ 学位としての博士(はくし)のこと。
※当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉四「糊口の道には懸念のなき、博士(ハカセ)学士になさまほし」
[補注]「書紀‐応神一五年八月」には「於是天皇阿直岐に問て曰、如(も)し汝に勝れる博士亦有りや」とあり、北野本訓では「フミヨミヒト」とよまれている。

はく‐し【博士】

〘名〙
① (古くは「ばくじ」とも) =はかせ(博士)①②〔色葉字類抄(1177‐81)〕
② 学位の一つ。日本では明治二〇年(一八八七)の学位令によって、文部大臣が授与する博士・大博士を設けたのに始まる。現行制度は昭和二八年(一九五三)の文部省令「学位規則」によるもので、大学院を卒業し博士論文の審査と試験に合格したもの(課程博士)と、学歴のいかんを問わず論文試験に合格し、大学院卒と同等以上の学識があると認められたもの(論文博士)との二つがある。ドクター。ドクトル。〔哲学字彙(1881)〕
※金城だより‐明治二一年(1888)六月二一日「学位令にある博士と言ふ文字の発音方は、従来唱へ来りたる如くハカセと読む事と思ひの外、ハクシと発音する事になり居る由」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

世界大百科事典内の博士の言及

【楽譜】より

…この角度は音の上向・下向を表す。これを〈博士(はかせ)〉と呼ぶが,音の高低を正しく記した譜を〈本博士〉あるいは〈五音博士〉,旋律線を視覚的に図式化したものを〈目安(めやす)博士〉あるいは〈仮(かり)博士〉などと呼ぶ。この〈博士〉の直線が角度の異なる一つ一つの点で表されたものを〈ゴマ点〉と呼ぶが,これは講式,早歌(そうが),平曲,謡曲に見られる。…

【声明】より

…また〈ユリ〉〈イロ〉〈ソリ〉などに代表される装飾法はほかの声楽諸分野には見られぬ多様性をもち,たとえば真言声明ではユリが20数種に分類されている。(4)記譜法 声明に用いる楽譜は〈博士(はかせ)〉(墨譜ともいう)といい,その語源は文法学,音韻学としての声明の指導者の呼称であるとされる。最も古い形態である〈古博士〉は漢字の四方に配される四声点から発する簡単な直線か屈曲線を用いるが,これが表す旋律は今日には伝わっていない。…

【五経博士】より

…漢の武帝のときにはじまる。博士官はすでに秦代から存在したが,五経博士は五経のみを,しかもそれぞれ1経を専門に教授した。博士となることができたのは,王朝によって公認された学派に属する50歳以上の学者に限られ,学派の分立にともなって後漢代には14博士をかぞえたものの,彼らはすべて今(きん)文学者であった。…

【学位】より

…専門的な学問を修得したこと,あるいは学術上の創造的業績をあげたことを証明するために,大学または国家が与える称号。日本では学士,修士,博士(はくし)の三つがある。
[沿革]
 博士をはじめとする学位制度の起源は中世ヨーロッパの大学にある。…

※「博士」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報

今日のキーワード

ビル風

高層建築物の周辺でみられる、建物による風の乱れをいう。風向の変化のほかに風速の強弱によって表される。一般には、高層ビルの周辺で吹く強い風をさすことが多い。 風の強くなる場合として次の三つがある。(1)...

続きを読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android

博士の関連情報