HIFU療法(読み)はいふりょうほう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「HIFU療法」の意味・わかりやすい解説

HIFU療法
はいふりょうほう

身体を傷つけずに身体内部の病気、とくに癌(がん)を治療する目的で開発されたHIFU(High intensity focused ultrasound=高密度焦点式超音波)による治療法。高密度焦点式超音波療法ともいう。

 一般に超音波は、人間の聞こえる周波数範囲より高い周波数の音波として定義される。医学領域では、身体の内部を検査する装置として広く応用され、とくに妊娠中の胎児の診断にも使われている大変安全な検査法である。その際の超音波の強さは0.094W/cm2ほどである。しかし、100W/cm2を超える強力な超音波を、虫眼鏡のような凹面レンズから2~20センチメートルほど離れたある特定の小さな焦点領域に集めると、さらに強い超音波であるHIFU(1300~1680W/cm2)をつくることができる。この強力なHIFUの超音波振動エネルギーは、身体の中で吸収されることによって熱変換され、約3×3×12ミリメートルの小さな焦点領域を80~98℃に熱することができる。HIFU療法は、この小さな焦点領域を、コンピュータコントロールにより格子状に600~3000か所少しずつ重なるよう移動させることによって、目的とする癌の部分のみを焼き殺す治療法である。この際、焦点領域以外の部位や途中に介在する皮膚や臓器には影響を及ぼさないのが特徴である。本治療法は、1992年(平成4)から前立腺肥大症前立腺癌の治療法として開発されたが、その後、子宮筋腫(きんしゅ)、乳癌、肝臓癌腎臓癌骨肉腫脳腫瘍などに応用が開始されている。

 一般にHIFU療法の長所として、(1)身体に傷がつかない、(2)何回でも繰り返し治療することが可能、(3)手術療法や放射線療法などほかの治療法後に局所再発が認められた場合でも治療可能、(4)HIFU治療後にほかの治療法が可能、(5)外来治療から短期間の入院(最長3泊4日)、(6)合併症が少ない、(7)手技が容易、(8)医療コストが安い、などの利点がある。一方、治療する癌の内部やその途中に骨、結石、空気、腸管ガスなどがある場合は、超音波が反射してしまうため不適である。

 HIFU療法は比較的新しい治療法であるが、癌に対する次世代の低侵襲的治療法として期待されている。

[内田豊昭]

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