脳や脳神経などにできる腫瘍の総称。国立がん研究センターの
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頭蓋(とうがい)内腫瘍の総称で、脳実質はもとより、頭蓋腔(くう)にあるすべての組織や器官、すなわち髄膜、血管、下垂体、松果体、結合組織、先天性遺残物などから発生する新生物から、頭蓋内腔に向かって発育する骨腫瘍まで含まれる。また原発性腫瘍以外に、他臓器の悪性腫瘍からの転移性脳腫瘍もある。原発臓器の治療成績の向上に伴い、一方では脳転移の頻度が上昇し、大きな問題となりつつある。とくに脳へ転移しやすいものは肺癌(がん)、乳癌、直腸癌であり、わが国に多い胃癌は脳へ転移することは少ない。なお、興味深いことに、いかに悪性のものでも脳腫瘍は、脊髄(せきずい)に播種(はしゅ)することはあっても中枢神経系以外へ遠隔転移することはきわめて少ない。脳腫瘍の治癒にあたっては正常な脳神経を保護しつつ腫瘍だけを消失させる必要がある。胃癌や乳癌のように臓器ごと摘出は不可能で、脳腫瘍が他の臓器の腫瘍と本質的に異なる特殊性である。
脳腫瘍は、わが国では年間に1万5000ないし2万人発生しており、他臓器の腫瘍と比較して、かなり高い発生率を示している。脳腫瘍はその種類がきわめて多く、悪性と良性腫瘍があり、その病態も多岐にわたっているが、原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍に大別される。
原発性脳腫瘍は前述のように数多くの発生母地に従い、病理学的に細かく分類されている。代表的なものは、神経膠腫(こうしゅ)(35~50%)、髄膜腫(約15%)、神経鞘(しょう)腫(約10%)、下垂体腺(せん)腫(約10%)の4疾患であり、これらで全体の70~85%を占める。このほか、頭蓋咽頭(いんとう)腫、松果体腫瘍、血管芽腫、先天性腫瘍なども数%の頻度ながら、比較的よくみられる脳腫瘍である。日本では、脳腫瘍の全国集計調査が行われている。その報告によると、原発性脳腫瘍が86.7%、転移性脳腫瘍が13.3%を占めている。そのうち神経膠腫が31.5%でもっとも多い。ついで髄膜腫が21.1%、下垂体腺腫が15.8%、神経鞘腫が9.1%となっている。
原発性脳腫瘍の年間発生頻度は、人口10万に対して9~10といわれる。脳腫瘍には年齢や性別によって発生頻度の異なるものがある。年齢では、小児に頭蓋咽頭腫と小脳の神経膠腫が多く、成人では大脳の神経膠腫をはじめ、髄膜腫、下垂体腺腫、神経鞘腫などが多い。このうち、髄膜腫と神経鞘腫は女性に好発する。また、発生部位を大きく小脳天幕(テント)の上下で分類すると、天幕上腫瘍は成人に多く、天幕下腫瘍は小児に多くみられる。高齢者に多い脳腫瘍としては、転移性脳腫瘍が31%、神経膠腫と髄膜腫がそれぞれ24%、このほかに下垂体腺腫や神経鞘腫が多い。転移性脳腫瘍の約20%が65歳以上の高齢者に発生している。悪性リンパ腫の発生率も高いが、これは免疫機能の低下とも関連している。一方、神経膠腫の発生率は、70歳を超えると低下してくる。
原発性脳腫瘍では、神経膠腫には組織学的に悪性のものも多くみられるが、他の代表的脳腫瘍の多くは組織学的には良性である。しかし、脳腫瘍に関する限り、たとえ組織学的には良性であっても、発生部位によっては摘出困難なものもあり、臨床的に悪性腫瘍とみなされる場合もある。つまり、脳腫瘍の予後は、組織学的悪性度と臨床的な悪性度との二つの要因によって決定される。
脳腫瘍の症状は、その種類や発生部位によって複雑多岐にわたるが、一般的には頭蓋内の増大しつつある占拠性病変によるといえる。慢性頭蓋内圧亢進(こうしん)症状、すなわち持続性の頭痛、嘔吐(おうと)、うっ血乳頭などを背景とし、腫瘍の発生部位による脳の局所症状、すなわち運動麻痺(まひ)、失語症、視力・視野障害などが複雑に絡み合い、これらの症状が進行性に徐々に増悪することが大きな特徴である。ただし、けいれん発作で発症したり、ときに腫瘍に出血がみられたりして突然、劇烈な症状を呈する場合もある。
診断は、今日ではCT(コンピュータ断層撮影法)やMRI(磁気共鳴映像法)によってほぼ97~98%は正確に行われる。治療は、概して手術的摘出に勝るものはないが、全摘が困難な場合には放射線療法、化学療法、免疫療法などが併用される。ただし、松果体腫瘍では放射線感受性が高く、多くが放射線治療のみで治癒が期待できる。近年は各種抗腫瘍剤の研究開発が進められ、一方、インターフェロンなどのまったく新しい考え方の治療薬も試みられるようになっており、局所放射線治療法としてPRS(フォトエレクトロン定位的放射線治療装置)、ガンマナイフなどが用いられ悪性脳腫瘍の治療が進歩することが期待されている。
脳腫瘍の一般的予後は、わが国の全国集計調査によると、5年生存率は、全脳腫瘍の平均では68%、原発性脳腫瘍では78%、転移性脳腫瘍では9%程度である。神経膠腫全体の5年生存率は38%であるが、もっとも悪性の膠芽腫は7%にすぎない。これに対し、良性脳腫瘍の下垂体腺腫、髄膜腫、神経鞘腫では100%を示している。したがって、悪性脳腫瘍に対しては、今後、治療向上のための努力が必要である。
脳腫瘍はどうして発生するのか、原因はいまだ不明であるが、疫学的調査、実験脳腫瘍、遺伝子解析などの研究が進んでいる。疫学的研究で、遺伝子素因が神経皮膚症候群で明らかにされている。脳腫瘍発生に関係する内部要因としては、各種脳腫瘍発生の性差からも、内分泌学的制御が重要である。外部要因としては、過度の放射線被爆である。最近、免疫低下による頭蓋内原発性リンパ腫の発生が注目されており、エイズ(AIDS)患者で発生率が高い。実験的脳腫瘍からメチルコランスレン、メチルニトロソウレアなどの発癌物質や各種のウイルスによって脳腫瘍が発生することが知られている。なかでもJCウイルスは髄芽腫だけでなくすべての神経膠腫を発生することが確かめられている。ヒト脳腫瘍でも、小児脳腫瘍では、周産期のウイルス感染が引き金になって、発生することが推定される。
[加川瑞夫]
頭蓋内にできる新生物をいう。頭蓋内に原発する原発性脳腫瘍と,そうでない転移性脳腫瘍の二つに大きく分類することができる。脳腫瘍の真の発生原因は不明である。原発性脳腫瘍の発生頻度は人口1万人に対し約1人である。
1984年5月に発行された脳腫瘍全国統計委員会の報告によれば,脳腫瘍に関する分類および統計は以下のとおりである。1969年から78年までの10年間に日本で登録された脳腫瘍の総患者数は2万0192人で,そのうち男子は52%,女子は48%で,全体としての男女差はない。原発性脳腫瘍は全体の88%を占め,転移性脳腫瘍は12%である。原発性脳腫瘍の年齢分布は,10歳以下11%,10歳代11%,20歳代13%,30歳代17%,40歳代21%,50歳代17%,60歳代10%,70歳代2%であり,40歳代が最も多い。原発性脳腫瘍の病理組織別頻度は,髄膜腫meningioma19.6%,脳下垂体腺腫pituitary adenoma12.9%,神経鞘腫neurinoma8.8%であり,これらの三つの腫瘍は代表的な良性脳腫瘍である。
一方,悪性脳腫瘍としては多形膠芽(こうが)腫glioblastoma multiforme11.0%が最も悪性で,頻度としては星細胞腫astrocystoma17.5%が最も多い。これら二つの代表的な悪性脳腫瘍は脳に存在するグリア細胞から発生するのでグリオーマgliomaと総称されることがあるが,グリア系に属する悪性腫瘍はこれら以外にも乏突起膠腫oligodendroglioma2.3%,上衣腫ependymoma2.8%がある。グリア系の腫瘍ではないが神経細胞の系に属する悪性腫瘍としては髄芽腫medulloblastoma3.1%がよく知られており,小児の代表的な悪性脳腫瘍である。
転移性脳腫瘍の年齢別分布は,30歳代9.6%,40歳代24.3%,50歳代30.9%,60歳代24.2%であり,50歳代に最も頻度が高い。原発巣として最も多いのは肺癌49.2%であり,次いで乳癌11.9%,胃癌5.2%,頭頸部癌5%,子宮癌4.4%,腎癌4%,直腸癌3.6%の順となっている。組織別分類では腺癌54.3%が多く,扁平上皮癌15.4%,未分化癌7%の順となっている。
脳腫瘍の症状は大きく二つに分けて考えることができる。一つは頭蓋内圧亢進による症状である。頭蓋骨でその広がりを限定された頭蓋腔という空間に脳腫瘍という占拠性病変が生ずれば当然,頭蓋腔内の圧が上がる。たとえてみれば,満員電車の中に,脳腫瘍という乗客がむりやり押し込んでくるのと同じである。この頭蓋内圧亢進による症状は,頭痛,悪心・嘔吐,および鬱血(うつけつ)乳頭である。鬱血乳頭とは,高い頭蓋内圧の影響を受けて眼底の視神経の部分がはれあがり,目が見えにくくなることをいう。脳腫瘍の症状のもう一つの原因は,その腫瘍が存在する部位の脳の機能が損なわれることによって出現する症状である。したがって脳腫瘍の存在する部位によって症状は異なる。たとえば,大脳半球の運動野やそれに関係する部分に腫瘍があれば反対側の運動麻痺が,言語中枢にあれば失語症が,脳下垂体部にあればホルモンの異常による症状が,視覚伝導路にあれば視力・視野障害が,小脳にあれば小脳症状が出現する。また大脳半球の腫瘍では,しばしばてんかん発作の出現によって脳腫瘍が発見されることがある。
脳腫瘍の診断はこのような症状からだけでも比較的容易に行うことができるが,正確な診断はコンピューター断層撮影(CT検査)や脳血管撮影あるいは核磁気共鳴による画像診断(MRI検査)などの新しい診断機器によって行うことができる。また脳波検査も重要である。したがって脳腫瘍の疑いがある場合には,できるだけ早い時期にこれらの検査を受け,脳神経外科専門医の判断をあおぐべきである。
脳腫瘍の治療は,良性腫瘍の場合は手術により全摘出を行えばよい。悪性腫瘍の場合には,手術でできるだけ腫瘍を摘出し,残った部分に対しては放射線照射を行い,各種の抗腫瘍剤による薬物治療を併用する。手術顕微鏡,レーザーメス,超音波メスおよびその他の新しい治療機器の発達・普及により,脳腫瘍の手術成績は飛躍的に向上した。
執筆者:天野 恵市
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…脳腫瘍の一種で,間脳と間脳が囲む第三脳室を侵す腫瘍を総称していう。おもな腫瘍には,頭蓋咽頭腫,脳室上衣腫ependymoma,上衣囊胞colloid cyst,松果体部腫瘍である未分化胚細胞腫や奇形腫teratomaなどがある。…
… 部位については,片頭痛はふつう前頭部に多く,2/3は片側性で,患側が一側から他側へと変わる傾向がある。一側に限局した繰り返す頭痛のときは脳腫瘍を考慮しなければならないが,進行して頭蓋内圧が亢進してくると両側性となる。副鼻腔,歯,眼,上部頸椎などの疾患による頭痛は,その病変のある領域に感じられることが多い。…
…
[脳幹,小脳とめまい]
めまいに関係するところとして,以上のほかに脳幹や小脳がある。したがって,このようなところに脳腫瘍ができたり,あるいは血管がつまったり出血を起こしたりしても,身体の平衡状態がくずれ,ときには激しいめまいを起こしてくる。脳腫瘍は少しずつ大きくなっていくので,腫瘍が大きくなると,身体がよろけるとか,歩きにくいという症状がでてくる。…
※「脳腫瘍」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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