脳腫瘍(読み)ノウシュヨウ

デジタル大辞泉 「脳腫瘍」の意味・読み・例文・類語

のう‐しゅよう〔ナウシユヤウ〕【脳腫瘍】

頭蓋骨・脳実質・脳脊髄膜・脳血管などに生じた腫瘍の総称。原発性のもののほか、肺癌はいがん・乳癌などの転移によるものも多い。頭痛・嘔吐おうと・視力障害・めまい・痙攣けいれん・意識障害などの症状がみられる。

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共同通信ニュース用語解説 「脳腫瘍」の解説

脳腫瘍

脳や脳神経などにできる腫瘍の総称。国立がん研究センター成田善孝なりた・よしたか医師によると、人口10万人当たりの発生数は23人程度で、そのうち約5分の1が「脳のがん」と言われる悪性脳腫瘍。片方の手足のまひやしびれ、言語障害などの症状が出る。大きくなると吐き気や起床時の頭痛を生じる。悪性の場合、数日で悪化することも珍しくなく、成田氏は「症状があれば早めに脳神経外科を受診してほしい」と勧めている。

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精選版 日本国語大辞典 「脳腫瘍」の意味・読み・例文・類語

のう‐しゅようナウシュヤウ【脳腫瘍】

  1. 〘 名詞 〙 頭蓋腔の中にできた腫瘍。頭痛、嘔吐がおこり、発生部位により種々の神経症状を呈する。
    1. [初出の実例]「第二、脳腫瘍。これはいろいろの種類があって」(出典:神経病時代(1932)〈佐多芳久〉)

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EBM 正しい治療がわかる本 「脳腫瘍」の解説

脳腫瘍

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 脳腫瘍(のうしゅよう)は、脳組織に異常細胞が増える病気です。さまざまな種類がありますが、大きく悪性のものと良性のものに分けられます。一般に脳実質内に発生する腫瘍は悪性で、治療が適切でないと呼吸中枢が侵されて死に至ります。神経膠腫(しんけいこうしゅ)(グリオーマ)と呼ばれるものがこれにあたります。ほかの臓器にできたがんが転移してできる悪性腫瘍もあります。転移性脳腫瘍はがんの末期(第Ⅳ期)にあたり、治療は困難になります。生活の質(QOL)を高め、生存期間の延長を図ることが目的となります。
 一方、脳実質の外側に発生する腫瘍は一般に良性で、手術によって摘出すれば治り、再発することもありません。良性腫瘍には髄膜腫(ずいまくしゅ)、下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)、神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)などがあります。
 症状は悪性・良性を問わず、頭痛、吐き気・嘔吐(おうと)、うっ血乳頭(眼底の腫(は)れ)が三大徴候です。頭痛はしばしば早朝におこり夕方にかけてやわらいでいきます。子どもの患者さんでは、吐き気がないまま嘔吐することもあります。
 また、腫瘍のできる場所によって、さまざまな局所症状が現れてきます。物が二重に見える複視(ふくし)、めまい、耳鳴り、けいれん発作(ほっさ)、意識障害、言語障害、片麻痺(かたまひ)などの神経症状があります。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 転移性のもの以外は、原因がはっきりわかっていません。ウイルス感染や頭蓋内細胞(とうがいないさいぼう)の発生期における異常などが考えられています。脳は硬い頭蓋骨に覆われているため、腫瘍が徐々に大きくなってくると、頭蓋内の圧力が高くなり、それが頭痛、吐き気・嘔吐、うっ血乳頭といった症状につながります。さらに腫瘍が大きくなるにつれて、正常な脳組織が圧迫され、神経症状が進行していきます。集中力や記憶力の減退などがみられます。

●病気の特徴
 脳腫瘍の発生率は人口10万人につき年間約3.5人で、悪性と良性はほぼ半々の割合です(国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」地域がん登録全国推計によるがん罹患データ2011年の値より)。悪性では神経膠腫が多く、軽度から重度までさまざまなものがあります。良性では脳の表面にある髄膜から発生する髄膜腫が多くみられます。新生児からお年寄りまで、あらゆる年代に発生する病気です。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイド薬を用いる(急性の脳浮腫(のうふしゅ)の治療)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 急性の脳浮腫がある場合、副腎皮質ステロイド薬を用います。これは非常に信頼性の高い臨床研究で有効性が確認されています。ただし、目的は腫瘍周囲の浮腫を軽減させることであり、脳腫瘍そのものを縮小させる作用は期待できません。内服と注射があり、内服ができない場合に注射を用います。副腎皮質ステロイド薬を長期間大量に用いると副作用が現れるので、短期間の使用で一時的な効果を期待するほうがよいでしょう。(1)

[治療とケア]抗けいれん薬を用いる(急性期のけいれん発作の治療)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 脳腫瘍をもつ患者さんの10~40パーセントはけいれんを初発症状とし、また90パーセントの患者さんが病気の経過中にけいれんを経験するといわれています。けいれん発作をおこした場合や、けいれん発作をおこしやすい場所に脳腫瘍がある場合、抗けいれん薬を用います。脳腫瘍そのものに対する効果はありませんが、一度けいれん発作をおこした場合は、予防的に服用する必要があることが臨床研究によって確認されています。抗けいれん薬としては、フェニトインカルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウムのいずれかが使われます。(2)~(4)

[治療とケア]手術によって腫瘍を摘出する
[評価]☆☆
[評価のポイント] 手術による摘出術は、腫瘍の縮小や消失がもっとも期待できる治療法です。腫瘍を安全にすべて摘出できることが理想ですが、悪性の腫瘍にはつねに再発の可能性があります。また、悪性、良性にかかわらず、手術が難しい場所にある脳腫瘍の場合は、手術による神経の損傷に配慮して、腫瘍の一部だけを摘出したり、何回かに分けて手術を行ったりしなければなりません。良性の場合には、手術をせずに経過をみることもあります。良性で腫瘍も小さく症状もない場合には、注意深く経過をみて、大きくなったり、症状がでてきたりした場合だけ手術を考えることもあります。(5)(6)

[治療とケア]放射線療法を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 放射線療法は原則として手術の補助療法であり、放射線療法が効果的かどうかは、脳腫瘍の種類により異なります。信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されているものもあれば、確認されていないものもあります。放射線療法は通常、手術で脳腫瘍を摘出したあとに行います。悪性の脳腫瘍の場合には再発を予防するために放射線療法を行いますが、必ずしも再発は阻止できません。以前は良性の腫瘍にも放射線療法を行っていましたが、最近では副作用に配慮して行われなくなってきています。(7)

[治療とケア]化学療法を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 化学療法とは抗がん薬を使用して脳腫瘍の治療をすることで、悪性の脳腫瘍に対して行われます。新しい抗がん薬がどんどん開発されていますが、脳腫瘍を完治させる抗がん薬はいまのところありません。ただし、脳腫瘍の種類によっては再発を予防したり、遅らせたりする効果のある抗がん薬はあります。抗がん薬は重い副作用を招くこともあるので、医師とよく相談しながら治療を進める必要があります。(8)

[治療とケア]ガンマナイフによる放射線療法を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] ガンマナイフは、コバルト60を線源とする装置を頭部に固定し、そこから発せられるガンマ線を腫瘍に集中照射する方法です。この治療が適応となるのは、通常腫瘍の大きさが3センチメートル以下の場合です。手術による摘出が困難な良性脳腫瘍や、多発性の転移性脳腫瘍、全身状態のよくない患者さんやお年寄りに対して行います。ただし、効果がみられるまでに長期間かかることもあり、効果のない場合もあります。副作用の少ない治療法ですが、その適応を十分に考える必要があります。(9)


よく使われている薬をEBMでチェック

副腎皮質ステロイド薬
[薬名]リンデロン(ベタメタゾン)(1)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 急性の脳浮腫がある場合、副腎皮質ステロイド薬を内服または注射で用います。脳腫瘍そのものを縮小させる作用はありませんが、腫瘍周囲の浮腫を軽減させる効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。ただし、長期間大量に用いると副作用が現れるので、短期間の使用で一時的な効果を期待するにとどめたほうがよいでしょう。

抗けいれん薬
[薬名]テグレトール(カルバマゼピン)(2)~(4)
[評価]☆☆☆
[薬名]デパケン(バルプロ酸ナトリウム)(2)~(4)
[評価]☆☆☆
[薬名]アレビアチン/ヒダントール/フェニトイン(フェニトイン)(2)~(4)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 一度でもけいれん発作をおこした場合は、予防的に抗けいれん薬を服用すると効果のあることが臨床研究によって確認されています。しかし、一度もけいれん発作をおこしたことのない時点で予防的に用いることについては効果は認められていません。

抗がん薬
[薬名]ニドラン(ニムスチン塩酸塩)(10)
[評価]☆☆☆
[薬名]オンコビン(ビンクリスチン硫酸塩)(11)
[評価]☆☆
[薬名]ランダ/ブリプラチンシスプラチン)(11)
[評価]☆☆☆
[薬名]ラステット/ベプシド(エトポシド)(12)
[評価]☆☆☆
[薬名]パラプラチン(カルボプラチン)(12)
[評価]☆☆☆
[薬名]塩酸プロカルバジン(プロカルバジン塩酸塩)(11)
[評価]☆☆
[薬名]テモダール(テモゾロミド)(13)
[評価]☆☆☆
[薬名]アバスチン(ベバシズマブ)(14)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 脳腫瘍を完治させる抗がん薬はありませんが、脳腫瘍の種類によっては再発を遅らせたり、生存期間を延長させたりすることが臨床研究により確認されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
腫瘍のタイプ、大きさ、場所などによって手術の適応が決まる
 選択される治療法は、脳腫瘍がどのような細胞・組織型(良性、悪性)なのか、単発性なのか多発性なのかによって大きく異なります。髄膜腫のように、たとえ良性であっても、限られた空間である頭蓋内であまりにも大きくなると、正常な脳組織を圧迫し、神経症状がでてきたり、脳圧亢進(のうあつこうしん)症状(頭痛、吐き気・嘔吐、うっ血乳頭)がでてきますので、手術で切除することになります。
 悪性腫瘍でも場所が限られていれば手術で切除し、その後、放射線療法で全脳照射をするというのが一般的でしょう。
 腫瘍のタイプ、大きさ、場所などによって適応が左右されますが、手術は腫瘍の縮小や消失がもっとも期待できる治療法です。

ガンマナイフなどの放射線療法が選択される場合も
 手術が難しい場所にある腫瘍や全身状態がよくない患者さんには、ガンマナイフやライナックなどの放射線療法が用いられます。これらは腫瘍に対して3次元方向から大線量の放射線をピンポイントに集中照射して、病変を治療する方法です。ガンマナイフはコバルト60を線源とするガンマ線を、ライナックはX線を用います。腫瘍だけに照射するため、周囲の正常な組織への副作用が小さくてすみます。

完治はしないが、再発予防や進行を遅らせる抗がん薬
 残念ながら、現在のところ、脳腫瘍を完治させる抗がん薬はありません。しかし、脳腫瘍の種類によっては再発を遅らせたり、生存期間を延長させたりする効果を発揮することが非常に信頼性の高い臨床研究によって、最近になって確認されています。ただし、抗がん薬は重い副作用を招くこともありますから、十分検討したうえで慎重に用いることになります。

脳圧亢進症状には副腎皮質ステロイド薬が効果的
 脳腫瘍による局所神経症状の治療では、薬物療法が用いられます。頭痛、吐き気・嘔吐、うっ血乳頭など、脳浮腫による脳圧亢進症状に対しては、副腎皮質ステロイド薬が効果的です。ただし、副作用の問題がありますから、長期間大量に使うことは避けたほうがいいでしょう。
 また、患者さんの90パーセントが経験するといわれるけいれん発作に対しては、抗けいれん薬が用いられます。過去に一度でもけいれん発作をおこしたことがある場合は、予防的に用いられます。

(1)Vecht CJ, Hovestadt A, Verbiest HB, et al. Dose-effect relationship of dexamethasone on Karnofsky performance in metastatic brain tumors: a randomized study of doses of 4, 8, and 16 mg per day. Neurology. 1994;44:675-680.
(2)Sayegh ET, Fakurnejad S, Oh T, et al. Anticonvulsant prophylaxis for brain tumor surgery: determining the current best available evidence. J Neurosurg. 2014;121:1139-1147.
(3)Kerrigan S, Grant R. Antiepileptic drugs for treating seizures in adults with brain tumours. Cochrane Database Syst Rev. 2011;CD008586.
(4)Tremont-Lukats IW, Ratilal BO, Armstrong T, et al. Antiepileptic drugs for preventing seizures in people with brain tumors. Cochrane Database Syst Rev. 2008;CD004424.
(5)Laws ER, Parney IF, Huang W, et al. Survival following surgery and prognostic factors for recently diagnosed malignant glioma: data from the Glioma Outcomes Project. J Neurosurg. 2003;99:467-473.
(6)Tsitlakidis A, Foroglou N, Venetis CA, et al. Biopsy versus resection in the management of malignant gliomas: a systematic review and meta-analysis. J Neurosurg. 2010;112:1020-1032.
(7)Laperriere N, Zuraw L, Cairncross G. Cancer Care Ontario Practice Guidelines Initiative Neuro-Oncology Disease Site Group. Radiotherapy for newly diagnosed malignant glioma in adults: a systematic review. Radiother Oncol. 2002;64:259-273.
(8)Stewart LA. Chemotherapy in adult high-grade glioma: a systematic review and meta-analysis of individual patient data from 12 randomised trials. Lancet. 2002;359:1011-1018.
(9)Redmond KJ, Mehta M. Stereotactic Radiosurgery for Glioblastoma. Cureus. 2015;7:e413.
(10)Shibui S, Narita Y, Mizusawa J, et al. Randomized trial of chemoradiotherapy and adjuvant chemotherapy with nimustine (ACNU) versus nimustine plus procarbazine for newly diagnosed anaplastic astrocytoma and glioblastoma (JCOG0305). Cancer Chemother Pharmacol. 2013;71:511-521.
(11)van den Bent MJ, Brandes AA, Taphoorn MJ, et al. Adjuvant procarbazine, lomustine, and vincristine chemotherapy in newly diagnosed anaplastic oligodendroglioma: long-term follow-up of EORTC brain tumor group study 26951. J Clin Oncol. 2013;31:344-350.
(12)Aoki T, Mizutani T, Nojima K, et al. Phase II study of ifosfamide, carboplatin, and etoposide in patients with a first recurrence of glioblastoma multiforme. J Neurosurg. 2010;112:50-56.
(13)Stupp R, Mason WP, van den Bent MJ, et al. Radiotherapy plus concomitant and adjuvant temozolomide for glioblastoma. N Engl J Med. 2005;352:987-996.
(14)Chinot OL, Wick W, Mason W, et al. Bevacizumab plus radiotherapy-temozolomide for newly diagnosed glioblastoma. N Engl J Med. 2014;370:709-722.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「脳腫瘍」の意味・わかりやすい解説

脳腫瘍
のうしゅよう

頭蓋(とうがい)内腫瘍の総称で、脳実質はもとより、頭蓋腔(くう)にあるすべての組織や器官、すなわち髄膜、血管、下垂体、松果体、結合組織、先天性遺残物などから発生する新生物から、頭蓋内腔に向かって発育する骨腫瘍まで含まれる。また原発性腫瘍以外に、他臓器の悪性腫瘍からの転移性脳腫瘍もある。原発臓器の治療成績の向上に伴い、一方では脳転移の頻度が上昇し、大きな問題となりつつある。とくに脳へ転移しやすいものは肺癌(がん)、乳癌、直腸癌であり、わが国に多い胃癌は脳へ転移することは少ない。なお、興味深いことに、いかに悪性のものでも脳腫瘍は、脊髄(せきずい)に播種(はしゅ)することはあっても中枢神経系以外へ遠隔転移することはきわめて少ない。脳腫瘍の治癒にあたっては正常な脳神経を保護しつつ腫瘍だけを消失させる必要がある。胃癌や乳癌のように臓器ごと摘出は不可能で、脳腫瘍が他の臓器の腫瘍と本質的に異なる特殊性である。

 脳腫瘍は、わが国では年間に1万5000ないし2万人発生しており、他臓器の腫瘍と比較して、かなり高い発生率を示している。脳腫瘍はその種類がきわめて多く、悪性と良性腫瘍があり、その病態も多岐にわたっているが、原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍に大別される。

 原発性脳腫瘍は前述のように数多くの発生母地に従い、病理学的に細かく分類されている。代表的なものは、神経膠腫(こうしゅ)(35~50%)、髄膜腫(約15%)、神経鞘(しょう)腫(約10%)、下垂体腺(せん)腫(約10%)の4疾患であり、これらで全体の70~85%を占める。このほか、頭蓋咽頭(いんとう)腫、松果体腫瘍、血管芽腫、先天性腫瘍なども数%の頻度ながら、比較的よくみられる脳腫瘍である。日本では、脳腫瘍の全国集計調査が行われている。その報告によると、原発性脳腫瘍が86.7%、転移性脳腫瘍が13.3%を占めている。そのうち神経膠腫が31.5%でもっとも多い。ついで髄膜腫が21.1%、下垂体腺腫が15.8%、神経鞘腫が9.1%となっている。

 原発性脳腫瘍の年間発生頻度は、人口10万に対して9~10といわれる。脳腫瘍には年齢や性別によって発生頻度の異なるものがある。年齢では、小児に頭蓋咽頭腫と小脳の神経膠腫が多く、成人では大脳の神経膠腫をはじめ、髄膜腫、下垂体腺腫、神経鞘腫などが多い。このうち、髄膜腫と神経鞘腫は女性に好発する。また、発生部位を大きく小脳天幕(テント)の上下で分類すると、天幕上腫瘍は成人に多く、天幕下腫瘍は小児に多くみられる。高齢者に多い脳腫瘍としては、転移性脳腫瘍が31%、神経膠腫と髄膜腫がそれぞれ24%、このほかに下垂体腺腫や神経鞘腫が多い。転移性脳腫瘍の約20%が65歳以上の高齢者に発生している。悪性リンパ腫の発生率も高いが、これは免疫機能の低下とも関連している。一方、神経膠腫の発生率は、70歳を超えると低下してくる。

 原発性脳腫瘍では、神経膠腫には組織学的に悪性のものも多くみられるが、他の代表的脳腫瘍の多くは組織学的には良性である。しかし、脳腫瘍に関する限り、たとえ組織学的には良性であっても、発生部位によっては摘出困難なものもあり、臨床的に悪性腫瘍とみなされる場合もある。つまり、脳腫瘍の予後は、組織学的悪性度と臨床的な悪性度との二つの要因によって決定される。

 脳腫瘍の症状は、その種類や発生部位によって複雑多岐にわたるが、一般的には頭蓋内の増大しつつある占拠性病変によるといえる。慢性頭蓋内圧亢進(こうしん)症状、すなわち持続性の頭痛、嘔吐(おうと)、うっ血乳頭などを背景とし、腫瘍の発生部位による脳の局所症状、すなわち運動麻痺(まひ)、失語症、視力・視野障害などが複雑に絡み合い、これらの症状が進行性に徐々に増悪することが大きな特徴である。ただし、けいれん発作で発症したり、ときに腫瘍に出血がみられたりして突然、劇烈な症状を呈する場合もある。

 診断は、今日ではCT(コンピュータ断層撮影法)やMRI(磁気共鳴映像法)によってほぼ97~98%は正確に行われる。治療は、概して手術的摘出に勝るものはないが、全摘が困難な場合には放射線療法、化学療法、免疫療法などが併用される。ただし、松果体腫瘍では放射線感受性が高く、多くが放射線治療のみで治癒が期待できる。近年は各種抗腫瘍剤の研究開発が進められ、一方、インターフェロンなどのまったく新しい考え方の治療薬も試みられるようになっており、局所放射線治療法としてPRS(フォトエレクトロン定位的放射線治療装置)、ガンマナイフなどが用いられ悪性脳腫瘍の治療が進歩することが期待されている。

 脳腫瘍の一般的予後は、わが国の全国集計調査によると、5年生存率は、全脳腫瘍の平均では68%、原発性脳腫瘍では78%、転移性脳腫瘍では9%程度である。神経膠腫全体の5年生存率は38%であるが、もっとも悪性の膠芽腫は7%にすぎない。これに対し、良性脳腫瘍の下垂体腺腫、髄膜腫、神経鞘腫では100%を示している。したがって、悪性脳腫瘍に対しては、今後、治療向上のための努力が必要である。

 脳腫瘍はどうして発生するのか、原因はいまだ不明であるが、疫学的調査、実験脳腫瘍、遺伝子解析などの研究が進んでいる。疫学的研究で、遺伝子素因が神経皮膚症候群で明らかにされている。脳腫瘍発生に関係する内部要因としては、各種脳腫瘍発生の性差からも、内分泌学的制御が重要である。外部要因としては、過度の放射線被爆である。最近、免疫低下による頭蓋内原発性リンパ腫の発生が注目されており、エイズ(AIDS)患者で発生率が高い。実験的脳腫瘍からメチルコランスレン、メチルニトロソウレアなどの発癌物質や各種のウイルスによって脳腫瘍が発生することが知られている。なかでもJCウイルスは髄芽腫だけでなくすべての神経膠腫を発生することが確かめられている。ヒト脳腫瘍でも、小児脳腫瘍では、周産期のウイルス感染が引き金になって、発生することが推定される。

[加川瑞夫]

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六訂版 家庭医学大全科 「脳腫瘍」の解説

脳腫瘍
のうしゅよう
Brain tumor
(脳・神経・筋の病気)

どんな病気か

 頭蓋骨のなかにできる腫瘍です。体のほかの部位にできたがんが転移してくる転移性(てんいせい)脳腫瘍と、脳そのものから腫瘍ができる原発性(げんぱつせい)脳腫瘍に分類されます。原発性脳腫瘍は、さらに良性と悪性とに分けられます。

 診断は、手術で取り出した腫瘍を顕微鏡で観察して最終的に決めます。一般に悪性脳腫瘍は周囲に根を生やすように発育し、それに対し良性脳腫瘍は周囲の脳とはある境界をもって徐々にまわりを圧迫しながら大きくなります。原発性脳腫瘍の原因はまだわかっていません。原発性脳腫瘍の年間発生率は、人口10万人に10~15人ほどといわれています。

 また脳腫瘍の種類によって発生しやすい年齢があり、成人に多く発生する腫瘍は大脳と呼ばれる脳の上半分に多く、小児では小脳と呼ばれる脳の下半分や脳の中心である脳幹(のうかん)に多く発生する傾向があります。

 多くの脳腫瘍は脳のなかにひとつだけできます。しかし、転移性脳腫瘍悪性リンパ腫では2つ以上できることもあります。

症状の現れ方

 脳腫瘍の一般的な症状は、早朝に強い頭痛があることです。くも膜下(まくか)出血などと異なり、突然強い頭痛に襲われることは多くありません。

 脳そのものは固い頭蓋骨で保護されており、この内部に脳腫瘍ができると頭蓋骨の内部で圧力が上がります。これを頭蓋内圧亢進(ずがいないあつこうしん)症状と呼びます。

 頭蓋内圧亢進症状には、頭痛、吐き気、嘔吐、眼がぼやけるなどの症状があり、進行すると意識が低下する場合があります。小児では吐き気を伴わず、突然嘔吐する場合があります。また成人で、今までにてんかん発作がない人が初めててんかんを起こした場合は、脳腫瘍が強く疑われます。

 そのほか、徐々に進行する麻痺や感覚障害、言語の障害、視野が一部欠ける、性格の変化、乳汁分泌や不妊症などの内分泌障害などの症状があります。また、乳幼児では頭の大きさが大きくなる頭囲拡大がみられることがあります。

検査と診断

 脳神経外科医の診察を受けます。検査の方法はCTやMRIで、腫瘍の形や位置を診断します。次に治療方法を決定するため、ホルモン検査、視野検査、聴力検査、脳血管撮影、CTによる細かい骨の断層撮影、核医学検査、PET(ポジトロンエミッショントモグラフィー)などが、腫瘍の形や位置により追加検査として行われます。

 場合により、手術室で頭蓋骨に小さな穴を開け腫瘍組織をとり出す生検術や、内視鏡を使った生検術を行い、治療方針を決定することがあります。また頭蓋内圧が高くない場合には、腰から針を刺して髄液(脊髄(せきずい)のまわりを流れる液体)を得て、腫瘍細胞を検査することがあります。

 そのほか、転移性脳腫瘍が疑われる場合は全身にがんがないかどうか検査します。

 腫瘍の種類を決定するには、生検術か手術により切除した腫瘍を病理診断医が診断する必要があり、これが最終的な診断になります。

治療の方法

 脳腫瘍治療の基本は手術による切除です。手術の目的は、病変を切除することと、切除した腫瘍を病理診断医にみてもらいその種類を決定することです。

 多くの原発性良性腫瘍は、手術により全部切除することが可能です。一方、原発性悪性脳腫瘍は周囲の神経に沿って発育していることが多いので、手術でその大部分を切除したあと放射線治療や抗がん薬を使った化学療法、免疫療法が行われます。

 近年、脳神経外科医が行う手術は、手術顕微鏡を使った手術(図31)に加え、内視鏡の使用、手術中にMRIやCT画像を見ながら手術を進行させる手術支援システムの使用(図32)、手術中にMRI撮影を行う方法(図33)、腫瘍細胞を発光させる方法、頭蓋骨をドリルで細かく切除する方法、脳の血管に他の場所から血管を移植する方法など、多くの技術革新があり、手術成績は向上しています。

 生検術やホルモン検査などで腫瘍の種類が特定された場合、手術療法よりも薬物療法や放射線治療が最初から選択されることもあります。

松前 光紀



脳腫瘍
のうしゅよう
Brain tumor
(子どもの病気)

どんな病気か

 小児悪性腫瘍のなかで、脳腫瘍は白血病(はっけつびょう)に次いで多くみられます。発育・発達期にある小児の中枢神経系に発生した脳腫瘍は、成人のものとは異なる特徴があります。脳腫瘍の種類では髄芽細胞腫(ずいがさいぼうしゅ)星細胞腫(せいさいぼうしゅ)脳室上衣腫(のうしつじょういしゅ)頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ)が多くみられます。

 発生部位では、成人に比べて脳の中心部に発生するものが多く、テント下、すなわち後頭蓋窩(こうとうがいか)に多くみられます。しかし、1歳以下ではテント上、1~10歳まではテント下、10歳を過ぎると再びテント上が多くなり、年齢によって好発部位が異なります。これは年齢によって発生しやすい脳腫瘍の種類が異なるためです。

 治療法の進歩によって良好な予後の期待できる脳腫瘍もありますが、悪性度の高い脳腫瘍や発生部位によっては予後不良の脳腫瘍も多くみられます。

原因は何か

 発生原因はほとんど不明です。しかし一部、遺伝性・家族発生のみられる脳腫瘍があり、神経線維腫症(しんけいせんいしゅしょう)(NF2)では聴神経腫瘍(ちょうしんけいしゅよう)髄膜腫(ずいまくしゅ)が発生しやすいことが知られています。

症状の現れ方

 症状は、脳腫瘍の脳内での発生部位、脳腫瘍の種類、年齢などにより異なってきます。脳腫瘍が大きくなると意識障害、けいれん、性格変化、頭蓋内圧亢進(ずがいないあつこうしん)症状(頭痛、嘔吐、うっ血乳頭)、局所症状(片麻痺(かたまひ)、視野欠損、失語(しつご))がみられます。しかし、1歳半以下の乳幼児では頭蓋縫合(ずがいほうごう)が閉鎖していないため、頭蓋内圧亢進症状が縫合離開(りかい)や頭囲拡大により代償されて現れにくいこともあります。

検査と診断

 画像診断が中心となります。頭部CT検査、頭部MRI検査では、脳腫瘍が脳内のどの部位に存在するかの局在診断が可能となり、また脳腫瘍には種類によってそれぞれの好発部位がみられることから、診断に役立ちます。石灰化像・嚢胞(のうほう)形成像、造影効果の有無なども診断の参考となります。

 脳血管造影は、脳血管と腫瘍との関係や腫瘍血管を把握するのに有用で、手術を検討するために必要となります。

治療の方法

 治療は脳腫瘍の種類、脳内での発生部位、年齢によって異なります。①外科的手術、②放射線治療、③化学療法が行われますが、場合によってはそれぞれを組み合わせた集約的治療が行われます。

①外科的手術

 腫瘍全摘出術が望まれますが、腫瘍の存在部位によっては困難であることも少なくありません。また閉塞性水頭症(へいそくせいすいとうしょう)が合併していることもあり、症状軽減のために脳室シャント術も行われます。

②放射線治療

 脳腫瘍の種類によっては効果のある場合があり、他の治療と組み合わせて行われます。副反応として、放射線によって脳腫瘍以外の正常神経細胞の障害を来すこともあります。

③化学療法

 いくつかの化学療法薬を組み合わせて行われます。

石和 俊

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「脳腫瘍」の意味・わかりやすい解説

脳腫瘍 (のうしゅよう)
brain tumor

頭蓋内にできる新生物をいう。頭蓋内に原発する原発性脳腫瘍と,そうでない転移性脳腫瘍の二つに大きく分類することができる。脳腫瘍の真の発生原因は不明である。原発性脳腫瘍の発生頻度は人口1万人に対し約1人である。

1984年5月に発行された脳腫瘍全国統計委員会の報告によれば,脳腫瘍に関する分類および統計は以下のとおりである。1969年から78年までの10年間に日本で登録された脳腫瘍の総患者数は2万0192人で,そのうち男子は52%,女子は48%で,全体としての男女差はない。原発性脳腫瘍は全体の88%を占め,転移性脳腫瘍は12%である。原発性脳腫瘍の年齢分布は,10歳以下11%,10歳代11%,20歳代13%,30歳代17%,40歳代21%,50歳代17%,60歳代10%,70歳代2%であり,40歳代が最も多い。原発性脳腫瘍の病理組織別頻度は,髄膜腫meningioma19.6%,脳下垂体腺腫pituitary adenoma12.9%,神経鞘腫neurinoma8.8%であり,これらの三つの腫瘍は代表的な良性脳腫瘍である。

 一方,悪性脳腫瘍としては多形膠芽(こうが)腫glioblastoma multiforme11.0%が最も悪性で,頻度としては星細胞腫astrocystoma17.5%が最も多い。これら二つの代表的な悪性脳腫瘍は脳に存在するグリア細胞から発生するのでグリオーマgliomaと総称されることがあるが,グリア系に属する悪性腫瘍はこれら以外にも乏突起膠腫oligodendroglioma2.3%,上衣腫ependymoma2.8%がある。グリア系の腫瘍ではないが神経細胞の系に属する悪性腫瘍としては髄芽腫medulloblastoma3.1%がよく知られており,小児の代表的な悪性脳腫瘍である。

 転移性脳腫瘍の年齢別分布は,30歳代9.6%,40歳代24.3%,50歳代30.9%,60歳代24.2%であり,50歳代に最も頻度が高い。原発巣として最も多いのは肺癌49.2%であり,次いで乳癌11.9%,胃癌5.2%,頭頸部癌5%,子宮癌4.4%,腎癌4%,直腸癌3.6%の順となっている。組織別分類では腺癌54.3%が多く,扁平上皮癌15.4%,未分化癌7%の順となっている。

脳腫瘍の症状は大きく二つに分けて考えることができる。一つは頭蓋内圧亢進による症状である。頭蓋骨でその広がりを限定された頭蓋腔という空間に脳腫瘍という占拠性病変が生ずれば当然,頭蓋腔内の圧が上がる。たとえてみれば,満員電車の中に,脳腫瘍という乗客がむりやり押し込んでくるのと同じである。この頭蓋内圧亢進による症状は,頭痛,悪心・嘔吐,および鬱血(うつけつ)乳頭である。鬱血乳頭とは,高い頭蓋内圧の影響を受けて眼底の視神経の部分がはれあがり,目が見えにくくなることをいう。脳腫瘍の症状のもう一つの原因は,その腫瘍が存在する部位の脳の機能が損なわれることによって出現する症状である。したがって脳腫瘍の存在する部位によって症状は異なる。たとえば,大脳半球の運動野やそれに関係する部分に腫瘍があれば反対側の運動麻痺が,言語中枢にあれば失語症が,脳下垂体部にあればホルモンの異常による症状が,視覚伝導路にあれば視力・視野障害が,小脳にあれば小脳症状が出現する。また大脳半球の腫瘍では,しばしばてんかん発作の出現によって脳腫瘍が発見されることがある。

脳腫瘍の診断はこのような症状からだけでも比較的容易に行うことができるが,正確な診断はコンピューター断層撮影(CT検査)や脳血管撮影あるいは核磁気共鳴による画像診断(MRI検査)などの新しい診断機器によって行うことができる。また脳波検査も重要である。したがって脳腫瘍の疑いがある場合には,できるだけ早い時期にこれらの検査を受け,脳神経外科専門医の判断をあおぐべきである。

 脳腫瘍の治療は,良性腫瘍の場合は手術により全摘出を行えばよい。悪性腫瘍の場合には,手術でできるだけ腫瘍を摘出し,残った部分に対しては放射線照射を行い,各種の抗腫瘍剤による薬物治療を併用する。手術顕微鏡,レーザーメス,超音波メスおよびその他の新しい治療機器の発達・普及により,脳腫瘍の手術成績は飛躍的に向上した。
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家庭医学館 「脳腫瘍」の解説

のうしゅよう【脳腫瘍 (Brain Tumor)】

◎悪性腫瘍(あくせいしゅよう)と良性腫瘍(りょうせいしゅよう)がある
 頭蓋内(ずがいない)(頭蓋骨(ずがいこつ)で囲まれている内側)には、脳のほか、髄膜(ずいまく)(脳膜(のうまく))、脳神経、下垂体(かすいたい)などの組織が存在し、そのいずれからも腫瘍が発生します。頭蓋内の腫瘍をまとめて脳腫瘍と呼んでいます。
 脳腫瘍のうち、頭蓋内から発生したものを原発性脳腫瘍(げんぱつせいのうしゅよう)、肺がんや乳がんなど、ほかの部位で発生した腫瘍が、頭蓋内へ飛び火してきたものを転移性脳腫瘍(てんいせいのうしゅよう)といいます。
 また、脳腫瘍には、悪性腫瘍と良性腫瘍があります。腫瘍が急激に増殖することも転移することもなく、手術で完全に摘出できれば完治する良性腫瘍(「脳良性腫瘍とは」)と、急激に増殖して周囲に広がり、組織を破壊して、脳の他の部分へ転移する傾向があり、手術で腫瘍を完全に摘出することがむずかしかったり、完全に摘出できたと思っても再発したりする悪性腫瘍(「脳悪性腫瘍」)とがあります。
◎脳腫瘍の種類
 脳腫瘍の種類は多く、WHO(世界保健機関)では、80種以上に分類していますが、頻度が比較的高く、代表的なものは、神経膠腫(しんけいこうしゅ)、髄膜腫(ずいまくしゅ)、下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)、神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)、頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ)、胚細胞腫瘍(はいさいぼうしゅよう)、転移性脳腫瘍です。
■神経膠腫(しんけいこうしゅ)
 脳は、神経細胞(ニューロン)と、これを支え、保護する神経膠細胞(しんけいこうさいぼう)で成り立っています。
 このうち、神経膠細胞から発生するものを神経膠腫といいますが、神経細胞も神経膠細胞も元をただせば同じ起源なので、両方の細胞から発生したものをまとめて神経膠腫と呼んでいます。頻度は、神経膠細胞から発生する神経膠腫が圧倒的に多くなっています。
 神経膠腫は、脳腫瘍全体の3分の1を占めます。子どもの脳腫瘍にかぎってみれば、全体の3分の2は神経膠腫です。
 おもなものは、膠芽腫(こうがしゅ)、未分化星細胞腫(みぶんかせいさいぼうしゅ)、星細胞腫(せいさいぼうしゅ)、髄芽腫(ずいがしゅ)、上衣腫(じょういしゅ)などです。
■髄膜腫(ずいまくしゅ)(「脳良性腫瘍とは」の髄膜腫)
 脳を包んでいる髄膜から発生する腫瘍で、たいていは良性腫瘍です。
■下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)(「脳良性腫瘍とは」の下垂体腺腫)
 甲状腺(こうじょうせん)、副腎(ふくじん)、性腺(せいせん)などの内分泌器官(ないぶんぴつきかん)にはたらきかけてホルモンを分泌させる下垂体に発生する腫瘍で、多くは、良性腫瘍です。
■神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)(「脳良性腫瘍とは」の神経鞘腫)
 脳神経に発生する良性腫瘍です。95%は聴神経に、残りのほとんどが三叉神経(さんさしんけい)に発生します。
■頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ)(「脳悪性腫瘍」の頭蓋咽頭腫)
 生後も残っている胎児(たいじ)のころの組織である頭蓋咽頭管(ずがいいんとうかん)から発生する腫瘍で、子どもにおこることが多いのですが、おとなにもおこります。悪性腫瘍ですが、治療で完治させることが可能です。
■胚細胞腫瘍(はいさいぼうしゅよう)
 生殖細胞由来の脳腫瘍で、抗性腺刺激ホルモンを分泌する松果体(しょうかたい)に発生することが多いのですが、視交叉(しこうさ)、前頭葉(ぜんとうよう)、基底核(きていかく)に発生することもあります。
 良性腫瘍と悪性腫瘍とがあります。

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百科事典マイペディア 「脳腫瘍」の意味・わかりやすい解説

脳腫瘍【のうしゅよう】

脳,脳膜,脳下垂体などの頭蓋内組織に発生する腫瘤(しゅりゅう)の総称。神経膠(こう)腫神経鞘(しょう)腫,脳膜腫,脳下垂体腺腫などの腫瘍のほか,血管奇形,炎症性肉芽腫などがある。良性腫瘍でも脳を圧迫し,頭蓋内圧を亢進させ,しばしば致命的となる。症状は腫瘍が発生した部位によって異なるが,頭痛,嘔吐(おうと),視力障害,運動麻痺,知覚麻痺,言語障害など。脳血管X線撮影,脳波,脳室X線撮影などで診断し,開頭手術により病変部を切除するか,放射線治療及び制癌剤による化学療法など。
→関連項目ガンマナイフ顔面神経麻痺小児癌水頭症頭痛癲癇電磁波障害脳圧亢進脳水腫半身不随半盲めまい

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四訂版 病院で受ける検査がわかる本 「脳腫瘍」の解説

脳腫瘍

 脳腫瘍はその発生部位から、脳の実質内に発生するものと脳の実質外に発生するものとに分けられます。脳実質内に発生する腫瘍のほとんどが悪性で、神経膠腫こうしゅ(グリオーマ)、髄芽腫ずいがしゅはい細胞腫などがあります。脳実質外に発生する腫瘍としては、髄膜ずいまく腫、下垂体腺腫、脳神経鞘腫しょうしゅなどがあり、ほとんどが良性です。

●おもな症状

 腫瘍があることによる頭蓋ずがい内圧の亢進こうしん症状として、頭痛、吐き気など。さらに、腫瘍が発育したり圧迫する部位の脳機能低下による片まひ、失語症、記憶障害、脳神経まひなどが現れます。

①頭部CT/MR/PET-CT

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②頭部血管造影

問診とCT、MRでほとんどわかる

 何らかの症状を訴えて受診した場合、専門医が問診すれば、ある程度の見当がつきます。脳腫瘍が疑われた場合は、頭部CT(→参照)やMR(→参照)がスクリーニング(ふるい分け)検査として行われます。ほとんどはこの段階で腫瘍の有無を判別することが可能です。

 また、造影剤を使ったCTと使わないCTの画像を比較することで、その腫瘍の性質や広がり具合も診断することができます。その他、頭部血管造影(→参照)によって血管の様子を観察し、診断することも重要です。

出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報

食の医学館 「脳腫瘍」の解説

のうしゅよう【脳腫瘍】

《どんな病気か?》


 脳に発生した腫瘍(しゅよう)には良性と悪性があります。悪性の脳腫瘍(のうしゅよう)が、ほかの部位でいうがんにあたります。
 脳腫瘍が発生すると、周囲の組織や神経が圧迫され、頭痛や頭重(ずじゅう)、吐(は)き気(け)や嘔吐(おうと)、うっ血乳頭(けつにゅうとう)の症状が現れます。
 吐き気や嘔吐はもっともでやすい症状で、気分が悪くないのに突然吐いてしまうこともあります。頭痛や頭重は徐々にその症状が重くなっていくのが特徴です。また、うっ血乳頭は、眼底(がんてい)につながる神経が圧迫されるために起こり、視力が低下するものです。
 このほか、けいれんやめまい、運動まひ、言語障害(げんごしょうがい)、精神障害(せいしんしょうがい)などの症状がみられる場合もあります。

《関連する食品》


○栄養成分としての働きから
 脳はご存じのとおり、人間の行動を司るたいせつな役割をはたしています。そのため、たくさんの神経細胞があり、脳を健康に保つためには、この細胞に十分な栄養を送らなければなりません。
〈脳の健康を保つDHAが有効に働く〉
 脳に栄養を送る栄養素の1つがDHAです。
 DHAは血液をかたまりにくくする働きがあるため、動脈硬化(どうみゃくこうか)や脳血栓(のうけっせん)などを防ぎ、また、脳の健康を保つには有効な栄養素です。ブリやサンマ、イワシやアジなど、青背の魚に多く含まれています。
 また、神経細胞をまもる働きをするのがレシチンです。卵黄やダイズ、ダイズ製品などから摂取することができます。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「脳腫瘍」の意味・わかりやすい解説

脳腫瘍
のうしゅよう
brain tumor

脳実質に原発する腫瘍と,脳膜,血管,神経から発生する頭蓋内の腫瘍や腫瘤の総称で,一般に頭蓋内腫瘤と同義語とされている。発生頻度が高い順に神経膠腫,髄膜腫,神経鞘腫,下垂体腺腫,転移性腫瘍 (肺癌や乳癌が転移したもの) ,結核腫,梅毒ゴム腫,寄生虫による肉芽腫などがあげられる。一般に頭痛,嘔吐,うっ血乳頭などの頭蓋内圧亢進症状があり,腫瘍の発生部位に応じて,視力障害,けいれん発作,運動麻痺,知覚障害,精神障害などの症状が認められる。脳外科の進歩により,障害を残すことなく脳腫瘍を摘出手術できる可能性が拡大されつつあるほか,放射線療法,化学療法,免疫療法などの併用による治療成績も向上しつつある。

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世界大百科事典(旧版)内の脳腫瘍の言及

【間脳腫瘍】より

脳腫瘍の一種で,間脳と間脳が囲む第三脳室を侵す腫瘍を総称していう。おもな腫瘍には,頭蓋咽頭腫,脳室上衣腫ependymoma,上衣囊胞colloid cyst,松果体部腫瘍である未分化胚細胞腫や奇形腫teratomaなどがある。…

【頭痛】より

… 部位については,片頭痛はふつう前頭部に多く,2/3は片側性で,患側が一側から他側へと変わる傾向がある。一側に限局した繰り返す頭痛のときは脳腫瘍を考慮しなければならないが,進行して頭蓋内圧が亢進してくると両側性となる。副鼻腔,歯,眼,上部頸椎などの疾患による頭痛は,その病変のある領域に感じられることが多い。…

【めまい】より


[脳幹,小脳とめまい]
 めまいに関係するところとして,以上のほかに脳幹や小脳がある。したがって,このようなところに脳腫瘍ができたり,あるいは血管がつまったり出血を起こしたりしても,身体の平衡状態がくずれ,ときには激しいめまいを起こしてくる。脳腫瘍は少しずつ大きくなっていくので,腫瘍が大きくなると,身体がよろけるとか,歩きにくいという症状がでてくる。…

※「脳腫瘍」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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