前立腺肥大症(読み)ゼンリツセンヒダイショウ(その他表記)Benign Prostatic Hyperplasia

デジタル大辞泉 「前立腺肥大症」の意味・読み・例文・類語

ぜんりつせん‐ひだいしょう〔‐ヒダイシヤウ〕【前立腺肥大症】

前立腺が肥大して尿道を圧迫し、排尿障害を起こす病気。残尿があるために膀胱・尿管・腎臓の機能に障害を起こすことが多い。

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家庭医学館 「前立腺肥大症」の解説

ぜんりつせんひだいしょう【前立腺肥大症 Benign Prostatic Hyperplasia】

◎肥大して前立腺が尿道(にょうどう)を圧迫
[どんな病気か]
◎おもな症状は排尿障害
[症状]
[検査と診断]
◎治療の基本は症状をとること
[治療]

[どんな病気か]
 前立腺は膀胱(ぼうこう)のすぐ下にあり、精液をつくるはたらきをしている臓器で、その中を尿道が貫くように通っています。前立腺肥大症とは、この前立腺が尿道を圧迫するように大きくなり、尿の通りが悪くなって、いろいろな症状をおこす病気です。
 前立腺肥大症は、前立腺の腫瘍(しゅよう)の一種ともいえますが、前立腺がんとはちがいます。肥大症では、より尿道に近いほうの組織がこぶのように大きくなります。このこぶは、専門的にいうと線維腺性(せんいせんせい)(分泌腺(ぶんぴつせん)とまわりの線維組織)の良性の過形成(細胞が増えた状態)です。
 このこぶは、ころころしたサトイモのような感じで、周囲の組織を少しずつ押しのけるように大きくなります。これに対して、がんでは攻撃的な異常な細胞が発生し、それがごつごつした集団となって周囲の組織を破壊したり、転移したりします。
 前立腺肥大症のこぶは、中高年のほとんどすべての男性にみられます。しかし、こぶが大きくなる程度には個人差があり、症状が出るほど大きくならないですむ人も多いのです。また大きくなったこぶが尿道のどの部分を圧迫するかでも、症状が出たり出なかったりします。小さいこぶでも、膀胱の出口のところを圧迫すると症状が強く出ますし、大きなこぶでも尿道と反対側のほうに押し出していけば、症状は軽くてすみます。つまり、大きくなったらかならず症状が出るというわけではありません。
 要するに前立腺にこぶができるのは、いわば男性の宿命ですので、それ自体は病気といえません。それが症状をおこしたときに病気となり、前立腺肥大症と呼ばれるのです。
●病気になりやすい人
 前立腺のこぶは50歳ごろからみられ、より高齢になるにつれて、ほぼ全員におこります。この原因は、50歳くらいから男性ホルモンの産生がだんだん少なくなるのに対して、女性ホルモン(男性にも、わずかですが女性ホルモンの分泌があります)の量はあまりかわらず、そのアンバランスが関係しているといわれています。
 しかし、前立腺の炎症や遺伝的な体質も肥大に関係していて、はっきりしたことはまだわかっていません。
 前立腺は、名称から男性の性的な機能と関係がありそうにみえますので、性的に盛んな人におこりやすいと思われがちですが、実際は、かならずしもそうでもありません。

[症状]
 尿道が圧迫されるわけですから、排尿のときに症状がおこります。つまり尿の流れが妨害されるので、尿線が細くなったり、勢いがなくなったり、出はじめが遅くなったり、おなかに力を入れないと尿が出なくなったりします。しかし、これだけではありません。
 尿の流れがじゃまされると、これに対抗して膀胱(ぼうこう)が尿を押し出そうとがんばるので、膀胱に負担がかかります。また、こぶが前立腺の中の神経を刺激して、それが膀胱に影響します。そのため、膀胱の筋肉が過敏ないらいらした状態になります。
 さらに尿が全部出ないで膀胱に残る(残尿(ざんにょう))ようになると、1回ごとの尿の量が減ります。
 このようなことからトイレの回数が増えたり、行ってもまたすぐ行きたくなったり、トイレまで間に合わないで尿が出そうになったり、尿がもれてしまうようになったりします。
 症状のなかでつらいのは、尿の出方が悪いことより、トイレの回数、とくに夜中の回数が増えたり、がまんがきかなくなるといったことのようです。
●症状だけではわからない
 注意しなければならないのは、前記のような症状は、前立腺肥大症以外の原因でもおこるということです。
 また、やっかいなことに、程度の差はあれ、前立腺のこぶは中高年男性のほとんど誰にでもありますので、ほかの病気があっても前立腺肥大症だと思いこみがちです。
 さらに、とくに病気がない場合でも、年をとるにつれて尿の勢いが落ちたり、排尿の回数が増えたりすることもわかっています。
 つまり、前立腺肥大症では、前記のような症状がおこりますが、症状があっても、前立腺肥大症がその原因となっているとはかならずしもいえないのです。もちろん複数の原因のうちの1つとなっていることもあります。
 これらの関係を明らかにするには、場合によっては、より専門的な検査を必要とすることがあります。前立腺肥大症の治療を受けるにあたっては、前立腺肥大症以外の原因でも、同じような症状がおこるということをよくふまえることがたいせつです。
●合併症
 尿が出にくいと、尿が全部出ないままで排尿を切り上げてしまい、あとに尿が残ります(残尿)。また膀胱の負担が長期間におよぶと、膀胱の筋肉は過敏な状態から疲労した状態になり、筋力が低下して、ますます尿が残るようになり、残尿の量が増加してきます。
 この残った尿の中では、細菌が増殖したり、石ができたりしやすく、膀胱炎や膀胱結石(ぼうこうけっせき)の原因となります。また、残尿がどんどん増えて、ほとんど尿が出なくなることがあります(尿閉(にょうへい))。こうなると、処置がかならず必要です。
 尿閉には、急におこる場合と徐々におこってくる場合とがあります。急におこるのは、寒さや強い緊張、お酒、刺激物を食べた、かぜ薬やおなかの痛み止めを飲んだといったときです。非常につらいので、病院にころがりこむことになります。
 しかし、尿閉がゆっくりおこった場合は、とくに症状がかわることもないまま、膀胱の中の尿の圧力がだんだんと上がってきます。すると、腎臓(じんぞう)から流れてきた尿が膀胱の中へ入れなくなり、腎臓に尿がたまって水腎症(すいじんしょう)(「水腎症」)になり、最悪の場合は腎不全(じんふぜん)(「腎不全」)や尿毒症(にょうどくしょう)(「尿毒症」)となって生命の危険にまでいたります。ゆっくりおこる尿閉は、かなり悪くなるまで自分ではわからないので、かえってやっかいです。大きくなった前立腺から出血して血尿(けつにょう)が出ることもあります。ただし、血尿は、ほかの病気が原因である場合も多いので、注意しなければなりません。

[検査と診断]
 診断の第一歩は、症状の観察です。症状にはいろいろなものがあります。それらをまとめて、症状の程度と、その症状についての不満の程度を表現するため、図「前立腺の症状のスコア・症状の不満度のスコア」のような点数表(スコア)が最近つくられました。
 この「症状のスコア」で、8点以上であれば症状がある、20点以上あれば重い症状がある、と考えます。また不満の程度も、「不満度のスコア」が2点以上は不満がある、5点以上は大きな不満がある、とします。
 診察では、直腸診(ちょくちょうしん)といって、肛門(こうもん)から指を入れ、前立腺の大きさや形やかたさをみることが基本です。しかし、より確実な検査としては、超音波検査により前立腺の肥大した像を確認することが勧められます。さらに尿の勢いを数字で表わす尿流検査や、残尿の量をみる残尿測定もあります。
 ほかに、尿検査はかならず行なわれますし、血液検査をして、腎臓の機能をみる血清(けっせい)クレアチニンの値を調べたり、がんと見分けるのに重要な前立腺特異抗原(とくいこうげん)の量を測定する場合も多いようです。
 これらに加えて、似たような症状をおこすほかの病気の可能性を考え、必要に応じた検査が追加されます。

[治療]
 治療法は、大別して3つあります。まず第1は、経過をみること(無治療)です。前立腺の肥大はかならずしもどんどん進むわけではなく、まして尿毒症にまでなる人は多くありません。もし今の症状が前立腺肥大症によるものであって、ほかに治療すべき病気もないことがいろいろな検査で確認された場合であれば、患者さん自身が困らないかぎり、治療する必要もなく、定期的に、ほかの病気がひきおこされていないかなどの検査を受けるだけにするわけです。
 第2は、薬を用いた治療です。薬は作用からみて3つの種類に分けられます。前立腺を小さくする薬、前立腺をゆるめる薬、前立腺ではなく膀胱に作用して症状をとる薬の3つです。
 前立腺を小さくする薬は、いわば根本的な治療薬です。しかし男性ホルモンの作用を抑えるため、性機能に副作用が出ることがあります。前立腺をゆるめる薬は、尿道が圧迫される程度を軽くします。すると尿の通りもよくなり、合わせて膀胱の負担も軽くなるので、症状がとれてきます。また、膀胱に作用する薬は、過敏になった膀胱をなだめたり、疲労した膀胱を助けたりするはたらきがあります。
 これらの3種類の薬は、だいたいこの順番で、根本的な治療になるものから、症状をとるだけの薬になっています。しかし、肥大が別の病気をひきおこさないか、あるいは、おこしそうもないならば、当面困っている症状を軽くすることが前立腺肥大症の治療の原則です。したがって、これらの薬に、かならずしも優劣はつけられません。また、これらは作用もちがっているわけですから、組み合わせて使うこともよくあります。
 第3は、もう少し手のこんだ治療です。この治療を大きく分けると、前立腺を温めるもの(高温度治療)と手術の2つがあります。
 温める治療は、外来通院か1~2泊の入院で受けられるという気楽さがあります。とはいえ効果のほうは、やはり手術にかないません。薬では不満だとか、薬をもらいに通院するのが面倒だが、手術を受けるのも大変だという場合には、試みる価値があるかもしれません。
 手術は、中くらいまでの大きさの前立腺なら、尿道から内視鏡を入れてレーザーで焼いたり、電気メスで削りとったりする方法(経尿道的前立腺切除術〈TUR〉)が主流です。1~2週間の入院が必要です。最近は器械の進歩や技術の向上がめざましく、手術の危険性は低くなりました。しかし、かなり大きな前立腺では、おなかを切って取り出すほうが安全で確実な治療法であることもあります。この場合は2~3週間の入院が必要となるでしょう。
 手術の場合は、そう多くはないものの輸血が必要となることもあります。また後遺症として精液が出なくなることがよくあります。これは、勃起(ぼっき)しなくなる(いわゆるインポテンス)こととはちがいます。しかし、手術の後の性生活に希望があれば、治療法を選ぶうえで知っておくべきでしょう。
●専門医を受診する
 前立腺肥大症は、あまりにも平凡な病気なので、かえって目に止まらないものでした。しかし最近では、その重要性が再認識され、病気の取り扱いの方法も学会で基準化され、より患者さんの希望にそった治療が心がけられるようになっています。また、前立腺肥大症の診療にあたっては、前立腺がん(「前立腺がん」)と見分けるための検査や診断もかならずしなければなりませんので、症状があれば専門医を受診することをお勧めします。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「前立腺肥大症」の意味・わかりやすい解説

前立腺肥大症
ぜんりつせんひだいしょう
benign prostatic hyperplasia

中高年男性の前立腺に発生する腺腫(せんしゅ)(良性前立腺過形成)による前立腺部尿道の圧迫で、膀胱(ぼうこう)出口部閉塞(へいそく)が生じて、尿が出にくくなるなどの下部尿路症状が出現する疾患をいう。

[舛森直哉 2026年1月20日]

疫学・分類・症状

日本国内における疫学調査によると、前立腺肥大症の有病率は40歳代2%、50歳代2%、60歳代6%、70歳代12%である。前立腺肥大症の明らかな危険因子は、加齢および思春期にテストステロンを産生する機能的に正常な精巣の存在である。

 前立腺肥大症による膀胱出口部閉塞の発生機序として、前立腺腫大(しゅだい)による機械的閉塞と、交感神経α(アルファ)1受容体刺激を介した平滑筋細胞の収縮による機能的閉塞の二つがある。両者の関与の度合いは、腺腫を構成する上皮細胞と平滑筋細胞の割合により規定され、個々の症例でさまざまである。したがって、前立腺の腫大の程度(前立腺サイズ)と膀胱出口部閉塞の程度や下部尿路症状の重症度がかならずしも相関するとは限らない。すなわち、前立腺サイズが小さいからといって前立腺肥大症を否定できるものではない。

 膀胱出口部閉塞により下部尿路症状、すなわち尿勢低下、尿線中断、腹圧排尿などの排尿症状や残尿感などの排尿後症状が出現する。また、膀胱出口部閉塞に続発する膀胱機能障害により、頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感などの蓄尿症状過活動膀胱の症状(突然のこらえきれない尿意やそれに伴う尿漏れなど)が合併する。下部尿路症状は中高年男性の生活の質(クオリティ・オブ・ライフquality of life:QOL)を障害する。

[舛森直哉 2026年1月20日]

検査・診断

50歳以上の中高年男性の下部尿路症状の原因はさまざまである。前立腺肥大症の臨床診断は、下部尿路症状を呈する他疾患の除外により行われる。病歴の聴取により脳脊髄(せきずい)疾患、神経疾患、糖尿病などによる疾患(神経因性膀胱)の可能性を除外する。尿検査での膿尿(のうにょう)と血尿の存在はそれぞれ尿路感染症と膀胱がんを、直腸診での前立腺硬結や血清前立腺特異抗原(prostate specific antigen:PSA)の異常は前立腺がんを疑う。夜間頻尿のみが主訴の場合は、飲水過多による夜間多尿の存在を念頭に置く。下部尿路症状の定量化には国際前立腺症状スコア(international prostate symptom score:IPSS)を使用する。前立腺超音波検査などによる前立腺体積の推定は、治療方針の決定のために重要である。

 これらから下部尿路症状を説明しうる他疾患がなく、QOLを障害する下部尿路症状が存在すれば前立腺肥大症と診断する。

[舛森直哉 2026年1月20日]

治療

前立腺肥大症の治療の目的は、QOLを障害する下部尿路症状の速やかな改善と、前立腺肥大症に起因する合併症の治療ならびにその発生の予防である。治療法として、薬物療法、低侵襲的外科治療および手術療法がある。これらの順に有効性は高まるが、侵襲性も高くなる。治療の目的、患者の全身状態、患者の希望などを考慮して治療法を決定する。

 一般的には手術療法の絶対的適応、すなわち、前立腺肥大症に起因する合併症(尿閉、膀胱結石、腎(じん)後性腎機能障害、尿路感染症)を有する症例を除いて、初回治療は薬物療法が選択される。薬物療法による効果が不十分な症例には、低侵襲的外科治療あるいは手術療法が考慮される。

(1)薬物療法
①α1遮断薬
ノルアドレナリンと交感神経α1受容体との結合を競合的に阻害し、前立腺平滑筋を弛緩(しかん)させて機能的閉塞を改善する。前立腺腫大の程度にかかわらず短期効果を発揮するが、前立腺が大きな症例では長期効果を期待できない。起立性低血圧や射精障害などの副作用がある。

②PDE-5阻害薬
前立腺平滑筋や膀胱血管平滑筋内のPDE-5(酵素ホスホジエステラーゼ-5)を阻害することでcGMP(環状グアノシン一リン酸)の分解を抑制し、平滑筋弛緩作用を増強する。硝酸剤や一酸化窒素供与剤との併用は、降圧作用が増強するため禁忌である。

③5α還元酵素阻害薬
前立腺内でテストステロンをより活性の高いジヒドロテストステロンに変換する5α還元酵素を阻害することで前立腺体積を減少させる。機械的閉塞を改善するが、効果発現までに数か月の時間を要する。前立腺体積が30ミリリットル以上の症例に対する長期の疾患進行抑制効果が示されており、α1遮断薬との併用によって短期から長期にわたる疾患の制御が得られる。なお、本剤は血清PSA値を低下させるため、前立腺がんの診断の際には留意が必要である(PSA検査は、前立腺がんの血清マーカーであるため)。

④過活動膀胱治療薬の併用
α1遮断薬あるいはPDE-5阻害薬の投与によっても過活動膀胱の症状が残存する症例に対しては、交感神経β(ベータ)3受容体作動薬や抗コリン薬の追加併用が考慮される。

(2)低侵襲的外科治療
前立腺腺腫の除去を伴わない低侵襲的外科治療として、国内では、経尿道的前立腺吊り上げ術(prostatic urethral lift:PUL)と経尿道的水蒸気治療(water vapor energy therapy:WAVE(ウェーブ))が保険適用となっている。適応対象は、前立腺肥大症に対する手術療法の適応である患者のうち、全身状態や手術侵襲を考慮して、従来の手術療法が困難な症例に限定されている。手術療法と比較して再治療率が高いことが指摘されている。

(3)手術療法
手術療法では、麻酔下に腺腫を過不足なく除去して機械的閉塞と機能的閉塞の双方を即時的に解除するため、その効果はきわめて高い。一方で、出血などの侵襲性は高い。腺腫除去の方法は、核出(ホルミウムレーザー前立腺核出術〈HoLEP(ホーレップ)〉など)、切除(経尿道的前立腺切除術〈TURP〉など)、蒸散(経尿道的光選択的前立腺レーザー蒸散術〈PVP〉やアクアブレーションなど)に大別される。前立腺サイズと抗凝固剤中止の可否(内服中の抗凝固剤がある場合、それを一時的に中止できるかどうか)に応じて適切な術式が決定される。いずれの術式も良好な長期成績が示されているが、腺腫の再発に加えて膀胱頸部(けいぶ)硬化症や尿道狭窄(きょうさく)などの合併症が発生しうる。

[舛森直哉 2026年1月20日]

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内科学 第10版 「前立腺肥大症」の解説

前立腺肥大症(腎・尿路腫瘍)

(5)前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia:BPH)
 前立腺肥大は良性結節性過形成である.過形成は,腺上皮のみならず間質細胞にも起こる.前立腺癌がおもに辺縁域から起こるのに対して,前立腺肥大症は移行域より発生する.肥大の主体が腺上皮か間質かによって,腺上皮型と線維筋型があり,線維筋型の方が排尿困難をきたしやすい.
原因・病因
 前立腺肥大症の発生要因はなお不明である.前立腺肥大症が直接に癌に移行することはないが,両者の合併はしばしば認められる.前立腺の大きさは加齢によって増加し,60歳代で70%,80歳代で80%に肥大が認められる.前立腺の肥大があるとすべて排尿障害になるわけではない.前立腺の腫大,下部尿路症状(lower urinary tract symptom:LUTS),下部尿路通過障害(bladder outlet obstruction:BOO)が同時に存在して「前立腺肥大症」となる.臨床的に治療を要する状態になるのは全体の20%程度である.
臨床症状
 自覚症状としては,国際前立腺症状スコア(International Prostate Symptom Score:IPSS)が重要である.頻尿,尿意切迫感,夜間頻尿(蓄尿症状)と尿線途絶,尿勢低下,怒責排尿(閉塞症状),排尿後症状である残尿感の7項目からなる.また,患者の困窮度を表したものがQOLスコアである.
検査成績
 スクリーニングには腹部超音波検査が有用である.前立腺重量,残尿量の推定ができる.PSAは前立腺癌との鑑別に必要であるが,腺腫が大きい場合には高値となる.直腸診では,腺腫は弾性硬に触れ,左右対称で,表面は平滑である.尿流動態検査で,蓄尿,排尿機能を評価する.
診断
 上記のIPSSに加え,直腸診,超音波検査などによって前立腺の腫大を観察する.IPSS 8点以上が治療対象で,20点以上が重症とされる.尿流動態検査で,最大尿流率(Qmax)が10 mL/分以下なら下部尿路閉塞を疑う.排尿症状に神経因性膀胱,尿道狭窄,膀胱頸部硬化症などが関与していないか鑑別するが正確な評価は難しいことが多い.前立腺癌との合併に注意する.
治療
 症状の軽い初期の前立腺肥大症に対しては,α遮断薬,5α還元酵素阻害薬,抗アンドロゲン薬を中心とした薬物療法を行う.薬物治療が奏効しない場合,温熱療法や手術療法が行われる.手術療法は,高周波電流を用いた経尿道的前立腺切除術(transurethral resection of prostate:TUR-P)が主流であるが,近年レーザーを用いた蒸散術や核出術もよく行われている.リスクの高い高齢者には,尿道ステント留置も行われる.[山口雷藏・堀江重郎]

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改訂新版 世界大百科事典 「前立腺肥大症」の意味・わかりやすい解説

前立腺肥大症 (ぜんりつせんひだいしょう)
prostatic hypertrophy

前立腺が大きくなる疾患で,良性腫瘍(腺腫)の一種である。50歳以上の高齢者に多く,典型的な老人病の一つ。一種の老化現象で,性ホルモンのバランスがくずれたために起こると考えられている。正常の前立腺はクルミ大であるが,本症では鶏卵大から大きいものではリンゴ大に達することがある。肥大した前立腺によって尿道が圧迫されるため,尿が勢いよく出なくなり,排尿開始までの時間や排尿終了までの時間が長くなる。進行すると尿が線をなして飛ばなくなり,ぽたぽたと滴下するに至る。最終的には尿が膀胱にたまっているにもかかわらず,いきんでもまったく出なくなり(尿閉),カテーテルを尿道から挿入して尿を排除しなければならなくなる(導尿)。1回の排尿で尿が完全に出きらず,一部が膀胱に残る状態を残尿と呼ぶ。残尿が存在すると1回の排尿量が減少して排尿の回数が増加する(頻尿)。また残尿があると水腎症や尿路感染症などを起こしやすい。治療は,軽症に対しては薬物療法,ある程度進行したものには手術療法が行われる。前立腺には自律神経の受容体が多量に分布し,前立腺肥大症ではこの受容体の刺激によって前立腺が収縮し,排尿困難を起こすことが明らかとなった。これに対してα受容体遮断剤を投与する薬物療法が最近広く行われている。手術療法では,内視鏡による電気切除が主流であるが,最近はレーザーや高周波による方法も行われるようになった。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「前立腺肥大症」の意味・わかりやすい解説

前立腺肥大症
ぜんりつせんひだいしょう
benign prostatic hypertrophy; BPH

前立腺が病的に肥大すること。普通は 60歳以上で発病する。真の原因は不明だが,ホルモンの平衡失調とされる。初発症状としては頻尿,特に夜間頻尿が多く,肥大が進行すると,排尿に時間がかかり,出にくくなる。寒冷や飲酒を誘因として,突然に尿閉となることもある。さらに進むと,腎機能が侵されて,生命にもかかわる。治療は,内服薬が無効ならば手術をする。普通の手術のほか,皮膚を切らずに尿道経由で膀胱鏡を使って電気メスで削る方法や,凍結法という方法もある。

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世界大百科事典(旧版)内の前立腺肥大症の言及

【過形成】より

…組織を構成する細胞のうち,特定の細胞が種々の刺激をうけて細胞分裂をおこし,細胞数が過剰にふえるために組織や器官が大きくなること。増生ともいう。細胞増殖によるといっても,一方的に増殖をつづける腫瘍とは違って増殖には限界があり,また刺激がなくなれば組織の大きさは元にもどる可逆的反応である。過形成の原因には,作業負荷,ホルモン作用,機械的刺激などがある。また再生時の一過性のものもある。過形成を示す組織では,ほとんどすべて機能の増大を伴う。…

※「前立腺肥大症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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