肝癌ともいう。肝臓に発生する癌腫。一般には肝臓に原発する癌腫(原発性肝癌)を意味し,他臓器の癌が肝臓へ転移した転移性肝癌とは区別される。原発性肝癌は病理および臨床的に肝細胞癌hepatocellular carcinomaと胆管細胞癌cholangio carcinomaに大別される。また,特殊な原発性悪性腫瘍として乳幼児にみられる肝細胞芽腫hepatoblastomaがある。
従来,ヘパトーマhepatomaといわれていたもので,肝臓癌の大半はこれに属する。癌組織は肝細胞に類似する腫瘍細胞から構成され,肝硬変に合併することが多い。発生頻度は,性別,地域により著しい差があり,男に圧倒的に多く,アフリカおよび東南アジアで頻度が高く,ヨーロッパやアメリカではまれである。日本も多発地区に含まれ,とくに九州地方に多い。年齢的には他のすべての癌腫と同様に中高年者に多く,男では胃癌,肺癌に次ぎ,大腸癌などと同様に頻度が高い。原因は肝炎ウイルス(B型,C型)に求められることが多い。そのほかに,ヘモクロマトージス,飲酒,マイコトキシンmycotoxin(カビの有害な代謝産物),薬物として性ホルモン剤やトロトラストthorotrast(かつて血管・肝脾造影剤として使用された)などとの関連が重視されている。
初期には特有の症状はなく,合併している肝硬変の症状や肝硬変症様の臨床検査成績を示す。進行期には肝腫大,腹痛,食欲不振,体重減少がみられるようになり,さらに血性腹水,発熱や黄疸を伴うこともある。診断には,肝スキャンニング,肝血管造影,超音波,X線コンピューター断層撮影(CT),核磁気共鳴断層(MRI)などの画像診断や腹腔鏡検査が有用である。血液検査では血清α-フェトプロテインα-fetoprotein(胎生期の肝臓で産生されるα-グロブリン分画中の特異なタンパク質)が高値を示すことが多く,診断の重要な手がかりとなる。肝機能検査では特有な成績を示さない。外科療法,抗癌剤使用による化学療法が主要な治療法である。腫瘍が限局していれば切除手術が最も確実な治療であるが,合併している肝硬変による肝機能障害のために手術困難な場合が多い。また,切除後に肝臓の他の部位から再発する(多中心性発生)ことも多い。肝動脈枝の結紮(けつさつ)や塞栓療法が化学療法との併用で行われることもある。最近ではエタノール注入や放射線療法も注目されている。予後は不良である。
肝内胆管癌ともいわれ,胆管上皮細胞に類似する腫瘍細胞から成る。肝細胞癌に比し頻度は低く,肝硬変との関連性もない。アジア地域で頻度がやや高いが,著しい地域差はなく,性別による発生頻度の差もみられない。原因は不明であるが,寄生虫である肝吸虫が発生要因の一つとして挙げられている。症状は初期にはなく,肝機能検査も正常である。血清α-フェトプロテインは高値を示さない。診断はかなり難しく,肝臓の画像診断,経皮的胆道造影(胆囊造影)などの方法が有用である。治療については,初期においては切除手術が可能である。全身的あるいは局所的化学療法も行われるが,効果は低い。病理組織学的に肝細胞癌との混合型もみられる。
乳幼児の先天性の肝臓悪性腫瘍であり,他の先天異常を伴うことがある。男児に多く,肝硬変の合併はみられない。血清α-フェトプロテインは著しく高値を示す。肝腫大による腹部膨隆,食欲不振,体重減少,発熱,黄疸を起こす。切除手術の成績は成人における肝細胞癌の場合よりもよい。
肝臓は他臓器から悪性腫瘍が転移しやすい臓器であり,病理解剖例においては全悪性腫瘍の約半数に肝転移がみられている。原発巣として,胃,大腸,膵臓,胆囊や肝外胆管などの消化器癌が最も多い。卵巣癌,子宮癌や肺癌も少なくはない。病状は原発巣のそれに反映されるが,ときには原発巣の症状や所見がまったく認められず,肝転移が初発症状として現れる場合もある。肝臓の腫瘤性の腫大,肝機能障害,腹水,黄疸,全身衰弱,悪液質状態へと進行する。原発巣の診断と同時に,肝臓の種々の映像診断が本症の診断に必要となる。肝機能検査では血清アルカリホスファターゼ値の著しい上昇が認められる。本症では完全な治癒が望めないため,肝転移巣が限局していても通常は切除手術の対象にはならない。化学療法では原発性肝癌の場合より効果のみられることが多く,一時的にせよ状態が改善されることがあるが,大半は肝臓への転移が認められてから1年以内に死亡する。
→癌
執筆者:大野 孝則
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
原発性肝臓がん(他からの転移によっておこるのではない肝臓がん)のほとんどを占める肝細胞がんは、慢性肝炎(B型、C型)や肝硬変を基礎疾患としてもっている患者に多く発生します(肝臓がん患者の約70%はC型、残りの約30%はB型)。これらの肝疾患のある人は、肝臓がんの高リスクグループと考え、継続的に検査を受けることが大切です。
●おもな症状
初発症状としては、食欲不振、全身
①血液検査(肝機能検査)/腫瘍マーカー
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②腹部超音波
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③CT/MR/腹部(肝臓)血管造影/PET-CT
種々の血液検査と画像診断を活用
何らかの症状があった場合には、まずスクリーニング(ふるい分け)のために肝機能検査(AST、ALT、γ-GT、ALPなど)やB・C型肝炎ウイルスの検査(HB関連抗原・抗体、HCV抗体)などを行います。
腫瘍マーカー(→参照)はAFPが80%程度、PIVKA-Ⅱが50%程度で陽性になり、AFPは再発の指標として治療(手術)後にも定期的に測定されます。また、AFPは慢性肝変、肝硬変でも陽性になることが多く、近年ではAFPの分画を調べます。L3分画(レクチン3分画)は肝臓がんで特徴的に陽性となります。
次に、腹部超音波(→参照)、腹部CT(→参照)、MR(→参照)などによって画像診断を行い、腫瘍の有無、良性か悪性か、大きさ、個数などを総合的に検討していきます。良性か悪性かの判定のためには、病変の一部を採取する
腹部超音波は微小肝細胞がんの検出に有効で、1㎝程度でも発見が可能です。また、腹部血管造影(選択的腹腔動脈造影)は肝細胞がんと転移性肝がんの鑑別に有効です。
残された肝機能を損なわないように治療
肝臓がんの場合は、慢性肝炎や肝硬変、閉塞性
出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…男女とも胃癌と肺癌が断然多く,男女合わせて全癌死のそれぞれ38%,33%を占めている。以下男子で多いのは,肝臓癌14%,腸癌11%と続く。女子では,第3位が腸癌13%,次いで肝臓癌8.6%,乳癌7.5%,胆囊癌7.3%となっている。…
…この肝炎は慢性化しやすい。以上のほかに,特殊な肝臓疾患と関連した物質としてウィルソン病の診断をするため血清セルロプラスミン,ヘモクロマトージスに対しては血清鉄濃度および血清不飽和鉄結合能,原発性胆汁性肝硬変の診断に抗ミトコンドリア抗体,肝臓癌の診断には血清α‐フェトタンパクの測定が行われている。肝炎
[肝障害に伴う非特異的生体反応物質の測定]
慢性肝炎や肝硬変では血清中の免疫グロブリン濃度が増大することが知られている。…
…一般に肝臓疾患で黄疸を呈するとき,肝臓は腫大し,黄疸の軽減とともに肝臓は漸次正常の大きさに戻る。肝臓の悪性腫瘍(肝臓癌)では,肝臓内に腫瘍細胞が増加するために,表面に粗大な凹凸のある肝腫大がみられ,しばしば増大傾向を示し腹痛を伴う。肝臓の悪性腫瘍は原発性と転移性に区別されるが,原発性腫瘍の大半は肝細胞癌で,一部胆管癌を含む。…
…ギリシア語ではhēparといい,この語幹hēpa‐が肝炎hepatitis,肝臓癌hepatomaなどに用いられている。日本では古くは肝(きも)と呼ばれ,五臓六腑の一つとされる。…
…手術がむずかしいとされていた膵頭部癌に対しても,ホイップルA.O.Whippleが1935年膵頭十二指腸切除術に成功して以来,術式も種々の変遷をへて完全なものとなり,高カロリー輸液療法と相まって一般病院でも行えるようになった。またメスが及ばないと断念されていた肝臓癌も,術中超音波診断による切除範囲決定や,レーザーメスの開発で広範囲切除も可能となっている。胃癌の手術に関しては,日本の成績は世界に誇りうるものである。…
…血尿があることもある。(4)肝芽腫hepatoblastomaおよび肝臓癌 小児特有の肝芽腫と,成人型としての肝臓癌がある。いずれにしても,成人の肝臓癌のように肝硬変を伴うことはほとんどない。…
※「肝臓癌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
《〈和〉doctor+yellow》新幹線の区間を走行しながら線路状態などを点検する車両。監視カメラやレーザー式センサーを備え、時速250キロ以上で走行することができる。名称は、車体が黄色(イエロー)...
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