日本大百科全書(ニッポニカ) 「NADH」の意味・わかりやすい解説
NADH
えぬえーでぃーえいち
補酵素の一つ。NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドnicotinamide adenine dinucleotide)の還元型。DPNH(ジホスホピリジンヌクレオチド)、補発酵素、補酵素Ⅰ(CoⅠ)などともよばれる。
NADHとFADH2(還元型フラビンアデニンジヌクレオチド)は燃料分子の酸化におけるおもな電子の運び手である。化学栄養生物は、グルコースや脂肪酸などの燃料分子の酸化によってエネルギーを得る。好気性生物では、最終的な電子の受容体はO2(酸素)である。しかし、電子は燃料分子やその分解産物から直接O2に移されるのではなく、これらの基質は特定の担体(輸送体)に電子を移す。この担体はピリジンヌクレオチドpyridine nucleotideかフラビンflavinのどちらかである。次にミトコンドリアの内膜の電子伝達系によって、そのポテンシャル(エネルギー価)の高い電子をO2へ移す。これが次にATP(アデノシン三リン酸)合成へと進む。この経路は酸化的リン酸化(oxidative phosphorylation)とよばれ、好気性生物のATPのおもな供給源となっている。多くの還元的な生合成の電子供与体はNADPH、つまり還元型のNADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)である。NADPHは、そのアデノシン部分の2'-ヒドロキシ基がリン酸でエステル化している点で、NADHとは異なる。
[有馬暉勝・有馬太郎・竹内多美代]