日本大百科全書(ニッポニカ) 「NADP」の意味・わかりやすい解説
NADP
えぬえーでぃーぴー
酸化還元酵素の補酵素の一つ。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸nicotinamide adenine dinucleotide phosphateの略で、補酵素Ⅱ(CoⅡ)、トリホスホピリジンヌクレオチドtriphosphopyridine nucleotide(TPN)などともよばれた。化学式C21H29N7O17P3、分子量744.413。還元型はNADPHで、酸化型と還元型の変換様式はNADと同一である。1934年ドイツの生化学者O・H・ワールブルクらが、哺乳(ほにゅう)類の赤血球中においてグルコース6-リン酸を好気的に酸化する系でNADPが必要であることを示し、さらにNADPは酵母がグルコースをエタノールに変える系に必要なコチマーゼcozymase、すなわちNADに変わりうることを発見した。NADPはNADから誘導されたもので、構造は基本的にはNADと共通であり、アデニンリボース部分の2'-ヒドロキシ基にさらにリン酸がエステル結合している。ATP(アデノシン三リン酸)からのリン酸基の転移はNADキナーゼ(NAD kinase)が触媒する。多くの還元的な生合成における電子供与体はNADPHである。
哺乳類ではニコチン酸アミドまたはニコチン酸から生合成され、その欠乏はヒトでは皮膚炎、下痢と認知症をおこす。それがペラグラとよばれる疾患である。NADPは補酵素として、多くの脱水素酵素(デヒドロゲナーゼ)が触媒する酸化還元反応の水素受容体として働く。これらの酵素の多くはNADまたはNADPのいずれかに特異性をもつが、ピリジンヌクレオチド依存性の酸化還元酵素のいくつかは、この両補酵素に対して特異性の明らかでないものがある。
[有馬暉勝・有馬太郎・竹内多美代]