NAD(読み)えぬえーでぃー

日本大百科全書(ニッポニカ) 「NAD」の意味・わかりやすい解説

NAD
えぬえーでぃー

ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドnicotinamide adenine dinucleotideの略。ジホスホピリジンヌクレオチドDPN)、補発酵素、補酵素Ⅰ(CoⅠ)などともよばれた。分子式C21H27N7014P2、分子量663.425、融点160℃。酸化還元酵素の補酵素の一つでNAD+(酸化型)NADH(還元型)の反応を行う。体内にもっとも多量に存在する補酵素である。ニコチンアミドモノヌクレオチドNMN)とアデニル酸ホスホジエステル結合している。

 NAD+の生合成は、動物ではおもに肝臓トリプトファンが、植物ではグリセロールアスパラギン酸がそれぞれ前駆体となり、キノリン酸を経て合成される。またニコチン酸ナイアシン)、ニコチンアミド(ニコチン酸アミド)からも合成される。ニコチン酸はトリプトファンからつくられる。ヒトでは食物からのトリプトファン摂取量が少ない場合は、外からのニコチン酸の供給が必要である。食物からのトリプトファンとニコチン酸の供給が不足すると、皮膚炎・下痢・認知症などを症状とするペラグラという病気を引き起こす。

 ニコチン酸とPRPP(5-ホスホリボシル-1-ピロリン酸)からニコチン酸リボヌクレオチドnicotinate ribonucleotideが形成されると、ATPアデノシン三リン酸)からAMP(アデノシン一リン酸)部分がニコチン酸リボヌクレオチドに転移して、デスアミド-NAD(desamido-NAD)が形成される。最後の段階で、グルタミンのアミド基がニコチン酸のカルボキシ基カルボキシル基)に転移してNADが形成される。NADの反応部分はニコチンアミド環であり、水素イオン1個と電子2個を受け取り、これが水素化物イオン1個と等価となる。

 酸化型では窒素原子が4価となりピリジニウムイオンとして存在するので、NAD+と記され、正の電荷1個を運ぶ。脱水素反応では電子受容体となり、基質の水素1個が直接NAD+に移り、それに対して別の水素原子1個がプロトン(陽子)として溶媒中に出る。基質から失われた電子はどちらもニコチンアミド環に移る。還元型のNADHでは、窒素原子は3価となり、各種の基質を酸化しエネルギーを得るのに用いられる。NADは光学密度(吸光度)を利用した酵素反応の測定に使われる。NADが水素を受け取り還元型のNADHになると、その最大吸収帯の波長が260ミリミクロンから340ミリミクロンに変化する性質を利用して脱水素酵素(デヒドロゲナーゼ)の活性が測定される。

 NADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)はNADから誘導されたもので、アデニンリボース部分の2'-ヒドロキシ基がリン酸化されて生じる。ATPからのリン酸基の転移はNADキナーゼが触媒する。

[有馬暉勝・有馬太郎・竹内多美代]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「NAD」の意味・わかりやすい解説

NAD
エヌエーディー
nicotinamide adenine dinucleotide

ニコチン酸アミド・アデニン・ジヌクレオチドの略称。補酵素の一種。動物組織,カビ,細菌など生体内に広く分布し,広く各種の酸化還元酵素と結合して働き,基質からの水素原子を受取り,水素伝達の役目を果す。以前には助酵素I (補酵素I) coenzymeI(CoI)とか DPN (ジホスホピリジン・ヌクレオチド) などともいったが,現在は NADの呼称に統一された。

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