日本大百科全書(ニッポニカ) 「X線構造解析」の意味・わかりやすい解説
X線構造解析
えっくすせんこうぞうかいせき
X-ray structure analysis
X線の回折現象を利用して物質の構造を決める方法。単結晶、微結晶の集まりである粉末、液体あるいは溶液が試料として用いられるが、精密な構造解析には主として単結晶を用いる。単結晶のX線回折における反射角度は、入射X線の波長、単位胞の属する空間群と格子定数によって定まり、反射強度はさらに単位胞中の原子の種類と個数、単位胞内の位置、熱運動性によって定まる。反射データの収集には以前はカメラ法が用いられたが、現在では予備データの収集か特殊な目的にのみ用いられ、小型計算機で制御される四軸型自動回折計が多く用いられている。数百ないし数千組にわたる格子面からの反射データから単位胞内の電子密度分布を算出し、各原子の位置と熱振動振幅を最小自乗法で精密化して求める。これらの計算には回折計付属の小型計算機のほか、とくにデータ数が莫大な場合は大型計算機が利用され、数値データのほかに結晶構造の立体的画像表示も容易に行われるようになっている。
粉末法では、対称性の高い組成の簡単な結晶でなければ精密構造解析は困難であり、むしろ未知試料の回折像を既知物質のものと比較同定する分析法として利用されている。液体あるいは溶液でのX線回折は粉末の場合と似ているが、原子間距離を求めれば、液体あるいは溶質の分子構造を決定することができる。これらのほか、繊維や薄膜などの構造規則性の観測も行われている。
[岩本振武 2015年7月21日]