内科学 第10版 「Dent病」の解説
Dent病(近位尿細管疾患)
概念
近位尿細管障害のため,低分子蛋白質の再吸収が低下して尿細管性蛋白尿,高カルシウム尿,くる病,腎石灰化,末期腎不全をきたすX染色体性の遺伝性腎症である.岡田敏夫が1980年に報告しわが国独自の疾患と考えられていた特発性尿細管性蛋白尿症の多くは,Dent病と同一疾患である.
病態生理
患者の約6割はクロライドチャネル5蛋白(ClC-5)の遺伝子の異常によるClC-5の機能低下が原因である.患者の約1割はLowe症候群の原因遺伝子であるOGRLの異常が原因である.ClC-5は746個のアミノ酸からなる蛋白質で,腎では近位尿細管,Henleの上行脚,集合管α間在細胞のエンドソーム膜にH+-ATPaseとともに存在する.糸球体を通過した小分子蛋白は,エンドサイトーシスによって近位尿細管細胞に取り込まれ,エンドソーム内でリソソーム酵素の作用でアミノ酸に分解される.しかし本症ではエンドソーム内のpHが十分に下がらないためにエンドサイトーシスが障害され,小分子蛋白が尿中に漏出する.
臨床症状
小児期は無症状で,学校検尿や偶然の尿検査にて蛋白尿を契機に診断される.女性保因者は患者に比べ軽症であるが,まれに男性患者と同様の臨床症状や検査所見を示す.成人になると尿路結石症(リン酸カルシウム結石)を呈する.
診断
最も特徴的な所見は蛋白尿(年長児,成人で1.5 g/日以上)で,分子量が40000 Da未満の低分子蛋白の占める割合が高い(45~60%以上).典型例では患者の尿β2-ミクログロブリンは10000 μg/L以上に増加する.ごく軽度の潜血反応陽性あるいは微少血尿を呈する.年長児ではアミノ酸尿,糖尿,低リン血症などの近位尿細管機能異常,尿濃縮力障害,腎性高カルシウム尿症,尿路結石,不完全型尿酸性化障害などの遠位尿細管,集合管の機能異常,糸球体機能の軽度低下を合併する.腹部CTで腎髄質を中心とする石灰化,腎エコーで髄質の輝度上昇が認められる.腎組織は小児期には異常が少ない.しかし,進行すると糸球体硬化,尿細管萎縮,間質への細胞浸潤,線維化がみられる.
治療
本症の多くの患者は健康で,日常生活に支障をきたすことがない.進行する尿細管機能障害や糸球体機能障害を阻止できる治療法は確立していない.尿路結石や腎石灰化をもたらす高カルシウム尿症に対して,サイアザイド系利尿薬の投与や水分摂取が有効である.代謝性アシドーシスには炭酸水素ナトリウムを投与する.[寺田典生]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報