化学辞典 第2版 「DNAの複製」の解説
DNAの複製
ディーエヌエーノフクセイ
replication of DNA
DNAがDNA自身を鋳型として,まったく同じDNAを合成することをいう.分裂中の細胞では,DNA依存DNAポリメラーゼの関与により,DNAを鋳型としてデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dGTP,dATP,dCTP,dTTP)を基質としてDNAが合成されるが,合成されたDNAは既存の2本鎖DNA分子とまったく同一の2本鎖分子であり,おのおのの2本鎖はもとの2本鎖分子の分かれたものと,あらたに合成されたものとからなっている.すなわち,複製は半保存的(semi-conservative)機構によって起こることが,M. MeselsonとF. Stahlにより,重窒素を用いた実験によって証明された.DNAの複製の1単位はレプリコンとよばれ,細菌やファージの染色体はレプリコンそのものであるが,真核細胞の染色体は多くのレプリコンとタンパク質,RNAの複合体といえる.レプリコンの複製の開始は,ある種のタンパク質が関与しており,レプリコンの複製と細胞分裂は一連の連鎖反応によって同調していると考えられている.このとき,全部が連続的に合成されるのではなく,部分的に合成が進められ,できたDNA断片がDNAリガーゼの作用で結び合わされていくと考えられている.ある種のバクテリオファージは1本鎖のDNAを含むが,このDNAが宿主内で複製するときには,まず複製形(replicative form)2本鎖DNAとなり,最後にこれを鋳型として1本鎖DNAが合成される.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報