形質導入(読み)ケイシツドウニュウ(その他表記)transduction

デジタル大辞泉 「形質導入」の意味・読み・例文・類語

けいしつ‐どうにゅう〔‐ダウニフ〕【形質導入】

ある系統細菌遺伝形質一部バクテリオファージによって他の系統の菌に運び込まれる現象

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精選版 日本国語大辞典 「形質導入」の意味・読み・例文・類語

けいしつ‐どうにゅう‥ダウニフ【形質導入】

  1. 〘 名詞 〙 細菌などの細胞の持つDNAが、バクテリオファージによって他の細胞内に持ち込まれる現象。

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改訂新版 世界大百科事典 「形質導入」の意味・わかりやすい解説

形質導入 (けいしつどうにゅう)
transduction

遺伝情報は親から子に伝えられる。世代交代を行う生物では,単相(生殖)細胞の融合によって生じた複相細胞の中で遺伝物質の再編成が行われ,次代生殖細胞の遺伝情報の一部は一方の親,残りは他方の親に由来することになる。これによって集団内の遺伝的多様性を増すのであるが,単相世代だけしか持たない生物には遺伝的多様性を増すための別の方式がみられる。特に,細菌では接合形質転換形質導入という三つの方式が明らかになっている。

 形質導入というのは,ある細菌(供与体)の遺伝情報がファージを介して別の細菌(受容体)に伝えられ,そこで形質発現をする現象で,ツィンダーN.ZinderとレーダーバーグJ.Lederbergがサルモネラ菌一種であるネズミチフス菌Salmonella typhimuriumにおいて初めて発見した(1952)。その後,大腸菌Escherichia coli枯草菌Bacillus subtilisなど多くの細菌でも起こることがわかってきたし,また,ファージが伝える遺伝情報が物質としてのDNAであることも明らかになった。さらに,ファージによって運ばれる遺伝情報の種類によって普遍形質導入(導入される情報に限定がないもの)と特殊形質導入(ごく限られた情報しか導入しないもの)とに分けられる。普遍形質導入をするファージとしては,大腸菌のP1ファージ,ネズミチフス菌のP22ファージ,枯草菌のSP10ファージとPBS1ファージなどが知られている。これらのファージが細菌に感染するとそのファージDNAが細菌に注入される。そして,細菌の遺伝情報の発現を変化させて,ファージDNAの複製とファージタンパク質の合成に必要な遺伝子だけを発現させる。細菌のDNAは複製を停止するだけでなく,分解される。この時,まれに細菌のDNA断片がファージ粒子に入ることがある。この粒子が別の細菌に感染すると,結果的に,ある細菌のDNAが別の細菌に入ることになる(図1)。この場合,ファージ粒子に入るDNAが受ける制限は大きさだけと考えられている。つまり,細菌DNAのどの部分も同じ確率でファージ粒子に入る。しかし,細菌のDNAを持つファージ粒子は全ファージ粒子集団中の極小部分でしかない。特定の遺伝子に着目すれば,導入の頻度は10⁻7~10⁻5であり,低頻度導入型といわれる。特殊導入をするファージとしては大腸菌のλファージとφ80ファージがよく知られている。λファージはガラクトース発酵に関与する遺伝子群を,φ80ファージはトリプトファン合成に関与する遺伝子群をそれぞれ特異的に形質導入する。これらのファージDNAは細菌DNAの一部と同じ塩基配列の部分をもち,その間で交叉(こうさ)が生じると,ファージDNAは細菌DNAに組み込まれて一体となる(図2)。このようにして組み込まれたファージDNAは細菌DNAの一部として複製されるが,紫外線などの外部刺激によって細菌DNAから,組込みのときと逆の過程で切り出され,独自の複製を開始し,細菌を溶解する。ところが,まれに組込みのときとは異なる場所で交叉が起こると,ファージDNAの一部を失って,細菌DNAの一部をとりこんだファージが形成される。このようなファージは通常は感染能をもたないが,正常ファージの助けによってそのDNAを別の細菌に伝えることになる。そして,ファージDNAが組み込まれる場所が決まっている場合には,その近傍の遺伝子だけが持ち出されることになる。また,一個の細菌に由来するファージはすべて同じDNAを持つので,導入型ファージが生じた場合,その導入頻度は高く,高頻度導入型といわれる。細菌から細菌にファージによって伝達されたDNAが発現するためには細胞内で安定化する必要はないが,世代から世代に伝達されるためには安定化しなければならない。それには,細菌DNAと持ち込まれたDNAとの塩基配列の相同性による交叉が起こる必要がある。

 形質導入は細菌とファージについて発見され研究されてきているが,高等生物細胞にもウイルスが感染し,しかもある種のウイルスではそのDNAが細胞DNAに組み込まれることがわかっている。高等生物でもウイルスを介して形質導入が起こるのか,起こるとしてもそれが生物進化に関与しているのか,という問題は今後の課題である。
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百科事典マイペディア 「形質導入」の意味・わかりやすい解説

形質導入【けいしつどうにゅう】

バクテリオファージによって仲介される形質転換をいう。バクテリオファージが今までいた宿主の細菌をこわして出てくるときに細菌のDNAの一部を自分のDNAに取り込み,次に細菌に感染するとき,自分のDNAと一緒に先の細菌のDNAをも菌体内に送り込み,それが交叉によって新しい宿主細菌のDNAに組み込まれるために起こる。
→関連項目溶原菌レーダーバーグ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「形質導入」の意味・わかりやすい解説

形質導入
けいしつどうにゅう
transduction

遺伝情報がバクテリオファージを介して,もう一方の細胞に移ること。トランスダクションともいう。サルモネラなどの細菌で,細菌細胞内に存在するバクテリオファージが,細菌そのものの遺伝質(染色体)の断片を担ったまま他の細胞に入り込んでいくことにより,いろいろな生理的な遺伝的形質,たとえば栄養の要求性や薬物に対する抵抗性などが,一つの細胞から他の細胞に移行する現象をいう。1948年にジョシュア・レーダーバーグらによりネズミチフス菌で発見された。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「形質導入」の意味・わかりやすい解説

形質導入
けいしつどうにゅう

ウイルスによって、ある細胞の遺伝子がほかの細胞に運び込まれ、遺伝形質が変化する現象。たとえば、野生型大腸菌細胞にラムダというウイルスが感染し、増殖して細胞を溶かして出てくる場合、野生型菌の遺伝子を取り込んだラムダが少数できる。このような野生型遺伝子をもつラムダが別の突然変異型細胞に感染すると、野生型遺伝子と突然変異型染色体の間で組換えがおこり、突然変異型細胞が野生型に変化する。この現象は細菌類の遺伝解析に利用される。

[石川辰夫]

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栄養・生化学辞典 「形質導入」の解説

形質導入

 バクテリオファージを使って,ある細菌の遺伝子を別の細菌に移入すること.

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