内科学 第10版 「H鎖病」の解説
H鎖病(血漿蛋白異常をきたす疾患)
H鎖病(H-chain disease)
H鎖病はまれなリンパ形質細胞腫瘍である.臨床像は,H鎖のアイソタイプにより異なっている.H鎖のFC部分が単クローン性に血清中に認められる.γ鎖病,α鎖病およびμ鎖病が報告されている.
a.γ鎖病
(γ-chain diseases;Franklin病)
1964年にFranklinらがはじめて報告した.リンパ節腫脹,発熱,貧血,倦怠感,肝脾腫大,疲労感を認める.関節リウマチのような自己免疫疾患をしばしば合併する.Waldeyer輪のリンパ節腫脹に起因する口蓋浮腫をきたすことがある.骨髄中で形質細胞またはリンパ球が増加していることが多い.IgGのサブクラスではIgG1が多い.血清中および尿中に分子量52〜55 kDaのγ鎖が検出され,電気泳動上はβ~γ位に出現する.BJPは陰性のことが多い.予後は不良であり,急激に感染症で死亡することが多いが,化学療法が奏効して5年間以上生存する症例もある.低悪性度リンパ腫に対する化学療法やリツキシマブが有効であることが報告されている.
b.α鎖病
(α-chain diseases)
1968年にSeligmannらがはじめて報告した.H鎖病のなかで最も多くの症例が報告されている.北アフリカ,イスラエル,中東地域,地中海周辺諸国からの報告例が多い.吸収不良症候群,体重減少,腹痛で発症することが多い.小腸にα鎖を分泌するリンパ形質細胞系の腫瘍細胞が浸潤し,腸間膜や傍大動脈リンパ節が腫脹することが多い.BJPは陰性のことが多い.症例ごとにその経過は異なり,中悪性度の悪性リンパ腫に進展することがあり,このような症例ではHelicobacter pyloriやCampylobacter jejuniを除菌する抗菌薬と化学療法を併用することで,化学療法単独に比べて奏効率が高いとの報告がなされている.
c.μ鎖病
(μ-chain diseases)
1970年にForteらがはじめて報告した.肝脾腫を呈することが多い.約1/3の症例が慢性リンパ性白血病である.約半数の症例が低ガンマグロブリン血症を呈する.骨髄中の形質細胞が空胞を有していることが多い.生存期間は症例ごとにさまざまで,1カ月間~11年間との報告がなされている.標準的な治療法はなく,無症状の症例は経過観察のみ,有症状の症例に対しては強度の弱い化学療法が行われる.[松永卓也]
■文献
Hanamura I, et al: Frequent gain of chromosome band 1q21 in plasma-cell dyscrasias detected by fluorescence in situ hybridization: incidence increases from MGUS to relapsed myeloma and is related to prognosis and disease progression following tandem stem-cell transplantation. Blood, 108: 1724-1732, 2006.
Harada H, et al: Phenotypic difference of normal plasma cells from mature myeloma cells. Blood, 81: 2658-2663, 1993.
Malpas JS, Bergsagel DE, et al: Myeloma, pp1-581, Oxford University Press, Oxford, 1995.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報