内科学 第10版 「Raynaud症状」の解説
Raynaud症状(症候学)
寒冷刺激や精神ストレスが加わったときに細動脈の発作的な収縮が生じ,四肢末端が蒼白となり,次に紫色,さらに回復すると充血により赤色となり,そののち正常の状態に戻る現象をRaynaud現象という.非典型例では蒼白化またはチアノーゼのみを訴える場合もある.1862年にRaynaudが独立した疾患として記載し,原因は末梢血管の攣縮によるものであるとしたが,今日では種々の基礎疾患に伴ってこの現象が起きることが明らかとなっている.ドプラ血流計,指尖容精脈波による血流測定や冷水負荷試験を用いたサーモグラフィによる皮膚温測定などにより診断される.
病態生理
Raynaudは寒冷刺激に対する反射性交感神経緊張が血管の収縮を引き起こすと考えたが,血管運動神経の異常興奮,局所の細小動脈壁の感受性の亢進,血液粘着度の亢進などが考えられている.色調の変化の機序としては,刺激により四肢末梢の小動脈が収縮し,同部の血液量の減少が生じて蒼白となる(図2-26-1).次に,動脈の収縮が回復したのちにも静脈血のうっ滞が続いており,チアノーゼにより紫色を呈する.その後小動脈の拡張が起き,充血により赤色となり,正常化すると考えられている.
鑑別診断
Raynaud現象を認めるもので2年以上経過してもはっきりとした基礎疾患がないものをRaynaud病,膠原病をはじめとした基礎疾患によって生じたものをRaynaud症候群と大別している.
1)Raynaud病:
Raynaud症状をきたす患者の約50%はRaynaud病である.20~40歳の女性に多く,女性の頻度は男性の約5倍である.最初は1~2本の指に起こるが,後に手指に対称性に広がる.手指が多いが,足にも起こりうる.非発作時の身体所見はしばしば正常であるが,指はやや冷たく,冷汗を伴うこともある.約15%の患者では自然寛解するが,30%は進行性である.乏血発作が頻回かつ,長期にわたると,指尖の栄養障害をきたし,潰瘍や壊死が発生し,約1%の患者では指を失う.
2)Raynaud症候群:
①膠原病:強皮症,全身性エリテマトーデス,皮膚筋炎,混合型結合組織病など②外傷性:振動工具(チェーンソー)使用者など③胸部出口症候群④閉塞性動脈疾患:閉塞性動脈硬化症,動脈塞栓症,Buerger病など⑤薬剤:β遮断薬,αβ遮断薬,エルゴタミン製剤など⑥血管疾患:クリオグロブリン血症,多血症,マクログロブリン血症⑦重金属中毒:ヒ素,鉛など
治療
1)生活指導:
全身や手指の保温に努め,寒冷刺激を避ける.精神的ストレス,過労も避け,禁煙を勧める.さらに,振動工具は使用しないようにする.潰瘍形成例では患部の清潔に心がける.
2)薬物療法:
生活指導,基礎疾患の治療によっても改善を認めない症例に対して薬物治療を行う.血管拡張薬ではCa拮抗薬,α遮断薬,β刺激薬などが,抗血小板薬としては,アスピリン40~100 mg,チクロピジン200~300 mg,シロスタゾール200 mgなどが使用される.そのほかにエイコサペンタエン酸製剤,プロスタグランジン製剤(内服,軟膏,注射薬)などが用いられる.
3)外科療法:
薬物療法が無効の場合,星状神経節ブロックや交感神経節切除術が行われる.[河野雅和]
■文献
本郷 実:末梢血行異常,症候編.内科診断学(福井次矢,奈良信雄編),医学書院,東京,2000.河野雅和:Raynaud症状・症候学.内科学,第9版(杉本恒明,矢崎義雄編),pp105-106,朝倉書店,東京,2007.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報