ダイナミックプライシング(読み)だいなみっくぷらいしんぐ(英語表記)dynamic pricing

デジタル大辞泉 の解説

ダイナミック‐プライシング(dynamic pricing)

需給状況に応じて価格を変動させることによって需要の調整を図る手法。需要が集中する季節・時間帯は価格を割高にして需要を抑制し、需要が減少する季節・時間帯は割安にして需要を喚起する。動的価格設定。変動料金制
[補説]航空運賃・宿泊料金・有料道路料金などのほか、近年では、プロスポーツ観戦チケットやテーマパーク入場チケットの料金でも導入されている。

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共同通信ニュース用語解説 の解説

ダイナミックプライシング

需要と供給に応じて商品の価格を柔軟に変動させる仕組み。人工知能(AI)の発達で膨大なデータ処理と需要予測が可能になったことが背景にある。近年は米国のスポーツ界や日本のプロ野球でもチケット販売で価格変動制が拡大。国内では航空券ホテルの宿泊料金のほか、駐車場料金や小売業などでも導入や実験が進んでいる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ダイナミック・プライシング
だいなみっくぷらいしんぐ
dynamic pricing

需給状況に応じて価格や料金を上げ下げし、需要を調整する経済的手法、あるいはその変動料金をさすことば。一般に需要が集中する季節、曜日、時間帯に価格や料金を高くして需要を抑え、需要が減る季節、曜日、時間帯には安くして需要を喚起する手法をとる。「変動型料金」「価格変動設定」などともよばれる。IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ビッグデータなどの普及で需要分析手法が進歩し、航空・鉄道・バス・タクシーなどの運賃、有料道路の料金、ホテルや旅館の宿泊料金、スポーツ施設や娯楽施設の入場料、通販サイトの決済などに広く適用されている。ダイナミック・プライシングは事業者の収益を安定させると同時に、資源のむだや商品などの売れ残りを防ぎ、消費者に割安な商品・サービスを提供できる利点がある。一方、市場原理にのみ頼る仕組みのため、戦争、大災害、感染症流行などで需要や供給が極端な不足に陥ると、価格・料金の暴落・高騰を招くおそれもある。ダイナミック・プライシングはモノやサービスの供給者が価格や料金を変動させて需要を調整するデマンドレスポンスの一種といえる。

 スマートメーターの普及もあって、アメリカのカリフォルニア州スペイン、北欧諸国などで電気料金へのダイナミック・プライシングの普及が進み、イギリス、フランス、カナダなども導入期に入った。日本でも東日本大震災後、原子力発電所の停止による電力不足を受け、電気料金への適用に関心が集まった。2012年(平成24)の北九州市を皮切りに全国でダイナミック・プライシングの実証実験が行われ、10%前後の節電効果があることが確認された。2016年の電力小売り自由化後、日本でも時間単位で料金を変動させるダイナミック・プライシングが普及すると期待されたが、原発の停止、火力発電所の休廃止、資源高などによる電力不足や電気料金の高騰で、電気自動車向けの夜間充電サービスなど一部のビジネス化にとどまっている。このため、経済産業省はダイナミック・プライシングを適用した電気料金プランの設定を電力事業者に義務づける施策の検討に入っている。

 電気料金におけるダイナミック・プライシングはまず、需要に応じて季節別、曜日別、時間帯別などの基本料金(ベーシック・プライス)を決める。そのうえで、地域エネルギー管理システム(CEMS(セムス):community energy management system)が翌日の天候、気温、降水量、風力や、高校野球やオリンピックといったイベントの有無などを参考に、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電量と域内総需要を予測し、時間ごとに細かく変動させたリアルタイム・プライスを決める。さらに発電所事故など想定外のリスクが生じた際に、基本料金を大きく上下させる緊急料金(クリティカルピーク・プライス、CPP)を適用する。需給逼迫(ひっぱく)時に、節電した利用者にお金などを戻すピークタイム・リベートという手法をとる場合もある。各家庭や企業などには、電力消費を常時計測するスマートメーター(次世代電力計)を設置し、家庭用エネルギー管理システム(HEMS(ヘムス):home energy management system)やビルエネルギー管理システム(BEMS(ベムス):building energy management system)を使って、時間ごとに変動する電気料金情報を、家庭、事務所、工場などのテレビやタブレット型端末などへ通知する。電気料金へのダイナミック・プライシング導入に関しては、家庭ごとの電力消費情報などの把握が重要となるが、電力消費情報によって個人の生活状況が他者に知られてしまうのを防ぐために、個人情報の保護が課題になるとも指摘されている。

[矢野 武 2022年9月21日]

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知恵蔵 の解説

ダイナミックプライシング

市場における需要状況に応じて価格を変動させて、需要の調整をはかり利益を最大化する手法のこと。たとえば、航空運賃や宿泊料金は、需要が高まり供給が逼迫(ひっぱく)するゴールデンウイークなどの繁忙期にははじめから高額に設定されており、閑散期には低い価格や大幅な割引などが設定される。このような、動的な価格設定を行う販売手法のことで、動的価格設定または変動料金制などとも呼ばれる。稼働率を高めるなど資源の有効利用が可能になり、価格の最適化によりチケットの不正転売防止などにもつながるとされている。
航空運賃や宿泊料金をある価格よりも下げれば、もとの価格では利用しようとは思わなかった消費者の購買意欲をかき立てることが可能になる。その一方、短い期間にだけ大きな需要が見込めても、そのために飛行機の台数や宿泊施設を増強するのは供給者にとってコストの増大を招き得策ではない。したがって、繁忙期にはあえて高額の価格設定を設け、供給可能な分だけに需要を抑制することで利得を最大にできる。夜間電力の余剰を減らすために時間帯によって設定が変わる電気料金や、日々の生鮮食品の売れ残りを避けるためにスーパーマーケットが閉店間際に値引きすることなども同様の考え方の上にある。ただし、実際に値付けをするに当たっては、価格設定の見積もりや需要の予測が難しく、短いサイクルで度々価格を変えるのは販売者にとって負担が大きい。また、消費者から見ると価格が不明瞭になり、不信感が生じて消費意欲を削(そ)ぐことにつながりかねない。さらに、公共料金などについては、需給による価格設定という手法そのものが公正といえるかという疑問もある。
現在では、情報通信技術(ICT)および「モノのインターネット(IoT)」の進展により、AI(人工知能)などを活用したダイナミックプライシングが可能になってきた。このため、供給側にとっての障壁は低くなっており、需要量から価格を随時変化させるアルゴリズムを採用する通販サイトなどもある。また、事業者にダイナミックプライシングのシステムを提供する企業も現れている。なお、ダイナミックプライシングは商品に対して適用されるとは限らず、個々の消費者について個別に属人的な価格を提示するという運用も不可能ではない。顧客個々人の消費動向や欲求を探り出し、強い購買意欲をもつ顧客には可能な限り高額な料金を設定する価格差別化により、販売者の利益を最大化するという操作も考えられる。いずれの場合も局面的な消費拡大と販売者の利益最大化に貢献すると考えられるが、このような手法がどこまで消費者に受け入れられるのか、また、長期的な視点で需要の最適化を図れるのかなどについて見定める必要があるとされている。

(金谷俊秀 ライター/2019年)

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