パス(Octavio Paz)(読み)ぱす(英語表記)Octavio Paz

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

パス(Octavio Paz)
ぱす
Octavio Paz
(1914―1998)

メキシコの詩人、批評家。サパタ派として革命に参加した父親をもち、自由主義的雰囲気のなかで育つ。1933年、処女詩集『野生の月』を出す。『人間の根』(1937)や『石と花の間に』(1941)など、初期の作品には官能的な叙情詩が多い。一方、『奴(やつ)らを通すな!』(1936)でスペイン共和派を支持、37年、スペインで開かれた反ファシスト作家会議に参加。帰国後、労働組合の機関紙編集に携わるが、スターリニズム批判の立場から共産党と決別。このころ、『タリェル』『蕩児(とうじ)』などの文芸誌に盛んに寄稿する。44年、アメリカに留学、メキシコ人であることを痛感した。この経験はメキシコ人のアイデンティティを追求し、人間の孤独を考察したエッセイ集『孤独の迷宮』(1950)に結実する。翌年、外交官となり、パリに駐在。同地でスペイン内乱時に会ったフランスの詩人バンジャマン・ペレと再会、アンドレ・ブルトンらと親交を結ぶ。このシュルレアリスム体験から生まれたのが、散文詩集『鷲(わし)か太陽か?』(1951)や傑作「太陽の石」を含む詩集『激しい季節』であり、そこにみられる中心概念は「相反するものの和解」である。インド日本での滞在経験があり、東洋思想俳句への関心が『火蜥蜴』(1962)、『東斜面』(1969)などの詩集に現れている。詩論『弓と竪琴(たてごと)』(1956)、『交流』(1967)、レビ・ストロース論、デュシャン論など、幅広い関心を示すエッセイ集が数多くある。90年ノーベル文学賞を受賞した。98年4月19日没。

[野谷文昭]

『高山智博・熊谷明子訳『孤独の迷宮』(1982・法政大学出版局)』『牛島信明訳『弓と竪琴』(『ラテンアメリカ文学叢書12』所収・1980・国書刊行会)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例