日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ブラウン(Charles Brockden Brown)
ぶらうん
Charles Brockden Brown
(1771―1810)
アメリカの小説家。アメリカ最初の職業的小説家としてゴシック(恐怖)小説、心理小説を書き、後のポーやホーソンの先駆となった。『ウィーランド』(1798)では腹話術の声に操られた宗教的狂信者が描かれ、『オーモンド』(1799)では、倫理から解放されたと過信した殺人犯が、犯そうとした女に殺される。『エドガー・ハントリー』(1799)では、殺人、夢遊病、精神錯乱、アメリカライオンとの遭遇、インディアン相手の戦いなどが描かれ、次の『アーサー・マービン』(1799、1800)では、フィラデルフィアの黄熱病流行を背景に、殺人、裏切り、誘惑、自殺未遂、病死などが描かれる。そのほか、女性の結婚を扱った『クララ・ハワード』(1801)と『ジェイン・タルボット』(1801)がある。彼の小説は、異常心理、暗い感情の緊張、恐怖、殺人などの犯罪、そのほか異常なできごとの写実的描写を特色とするが、イギリスのW・ゴドウィンの思想と小説からの影響は否めないものの、ヨーロッパ風のゴシック小説からの脱却、S・リチャードソンにみられない知的女性像の創造など、アメリカ小説史上の意義は大きい。だが、小説としてクライマックスに迫力がなく、プロットのまとまりを欠く欠点がある。ほかに『月刊アメリカ評論』『文芸とアメリカの記録』を編集し、自ら短編小説や文芸批評を掲げた。アメリカの短編・批評の先駆者としても重要な存在である。
[松山信直]
『八木敏雄訳『ゴシック叢書10 エドガー・ハントリー』(1979・国書刊行会)』