ゴシック(英語表記)Gothic

翻訳|Gothic

精選版 日本国語大辞典 「ゴシック」の意味・読み・例文・類語

ゴシック

〘名〙 (Gothic 「野蛮・未開」の意を表わす中世イタリア人の語に由来)
ロマネスクに続くヨーロッパ中世美術の様式。聖堂建築がもっとも典型的で、交差肋骨で支えられた穹窿(きゅうりゅう)ボールト)や、高く空に向かってのびる尖塔(アーチ)など、垂直線から生じる上昇効果の強調が特色。ゴシック式。ゴシック風。ゴチック
※野分(1907)〈夏目漱石〉一一「十八世紀末のゴシック復活も亦大なる意味に於て父母の為めに存在したる小時期である」
② =ゴチック②〔舶来語便覧(1912)〕
※故旧忘れ得べき(1935‐36)〈高見順〉六「文中に突如として初号ゴシックの活字が出てき」

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デジタル大辞泉 「ゴシック」の意味・読み・例文・類語

ゴシック(Gothic)

活字書体で、縦横の線が均等な太さのもの。ゴシック体。ゴチック。ゴチ。
ゴシック式」の略。
文学作品や映画ファッションなどで、幻想的・怪奇的・頽廃的たいはいてき雰囲気をもつもの。「ゴシック小説」
[類語](2ロマネスクバロックロココ

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改訂新版 世界大百科事典 「ゴシック」の意味・わかりやすい解説

ゴシック
Gothic

元来〈ゴート人の〉を意味する語。ゲルマン人の未洗練な流儀に対する蔑称の語調をもつ。当初,特定の教会建築様式を指すものであったが,のちに美術様式全般に拡張して用いられた。さらに,たんに美術ばかりか,文学,音楽,思想など多様な文化領域においても〈ゴシック的〉なる概念の使用が提唱され,精神史的文脈における定義と解明とが求められるようになった。

 精神史上の〈ゴシック〉時代は,ほぼ12世紀後半から15世紀にかけての約3世紀をおおっている。むろん地域によって差異はあるが,この期間に,美術から思想におよぶ諸領域で〈ゴシック精神〉が成熟した。その現実的背景としては,さしあたり次の5点をあげることが可能であろう。(1)従来まで,精神的自立性の乏しかった北方のヨーロッパが,先進的地中海文化からの離脱を意識しはじめ,〈北方的〉という特質を身に帯びはじめたこと。この場合,北ヨーロッパとは,北フランス,ライン地方,低地地方(ネーデルラント),イングランドなどを指すが,11世紀以来の社会的発展が,精神的自立を促したのである。(2)地中海沿岸地方と異なって都市的伝統を欠いていた北ヨーロッパに都市が形成され,都市民が精神的主導権の一端を担ったこと。いわゆる自治都市が制度的に成立し,この潮流は南ヨーロッパにまで新しい刺激を与えた。商業活動の活発化から富が都市に蓄積され,文化的発展の担当者と手段とが豊かに出現した。(3)キリスト教会の制度的整備と,世俗諸国家の台頭によって,コミュニケーションの組織化が促進され,またそのような制度・組織自体が考察の対象とされるにいたったこと。このような政治や制度の確立は,ヨーロッパ各地の精神的共通性を意識させるとともに,個々の地方・地域の土着的(バナキュラー)な特性の強調にもつながった。(4)ヨーロッパ人の文化的受容力が向上したため,先進的文化圏からの情報摂取が進行したこと。とりわけ,古典古代の著作の直接もしくはアラビア語を介しての間接的受容。イスラム教徒から提供されたテキストと技術が,翻訳や直接接触によって西欧にもたらされた。(5)大学をはじめとする高度な専門的研究・教育機関が創設されたこと。ボローニャ,パリ,オックスフォードなどの大学は12世紀末までに基礎を固め,また国王や教皇庁の官僚機構,托鉢修道会などが,新たな知的センターとして登場してきた。

 〈ゴシック〉を,たんなる建築様式としてだけではなく,精神史的様式として把握しようとする主張は,かねてから存在した。ウォリンガーなど,ドイツの史家がこの伝統に属する。しかし,この伝統を受けつぎながらも,芸術様式を思想・精神様式との関連のもとに考察したのは,パノフスキーである。彼はゴシック教会堂のプランと建築構造が,ゴシック時代のスコラ学の哲学体系に一致することを論証した。このパノフスキーの手法を継承しつつ,ゴシック精神の具体的内容を祖述する作業が必要となろう。ゴシック精神は,芸術のほか,知的・学問的な諸領域に求められる。それは神学,哲学,法学,政治理論,理論科学(自然学,音楽,数学など)における基本的な思考スタイルをも支配している。その特質の第1は,スコラ学的方法とよばれるものである。それは,〈スコラ学的〉なる語がのちにしばしば煩雑な手続に対する蔑称として使用されたように,厳密な論証手続を要求し,特定の権威や公理から出発して,主知的で合理的な理論構成をうちたてようとする。しかも,認識しうるすべての可視的現象を総体として,矛盾なく,かつ空白なしに説明しようとする。その結果,理論は現実の余すところない再表現であることになり,いわゆるゴシック・リアリズムGothic realismの極限の形態をとる。しかし第2に,ゴシック精神は,超絶的な価値による領導と,スコラ的学問との協同とを唱える。恩寵,神,光,伝承(伝統)などがその価値に相当するが,いずれの場合でも,人間の理性的,世俗的,自然的能力とのあいだに,調和と協同を主張するのが特徴的である。第3に,ゴシック精神は,さきにあげたような背景から形成されたため,知的世界に対する不動の支配力を帯びるようになった。現実的な強制力をも伴った理論装置として,西欧に確固たる正統的立場をうちたてる。時おりしも12世紀以降,キリスト教会内に異端が簇生し,これの処理に多大な労力を払ったのちであっただけに,正統の形成は必然でもあり,有効でもあった。ゴシック精神の代表者として,中世最大の理論家トマス・アクイナスの名があげられるが,しかし,12世紀から15世紀の知的世界を率いた人々の多くは,このようなゴシック精神の持主であった。ゴシック精神は,南方ではイタリア・ルネサンス,北方では宗教改革の波及をうけて後退したともいえるが,実際は西欧の知的世界の基底をなして,現代にまで受けつがれていると考えることもできる。
ゴシック美術 →中世音楽 →中世科学
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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ゴシック」の解説

ゴシック
Gothic

12世紀前半フランスのイル・ド・フランス地方で,ロマネスク様式の延長上に生まれた建築様式の呼び名。ゴシック建築は,大きな窓から光の差し入る明るい堂内,入念に積み上げられたヴォールト(曲面天井),聳(そび)え立つ尖頭など,ロマネスク建築とは外見上大きな違いが感じられるが,技術的進歩からいえば,その差は小さなものであった。第一に「交差リブ(オジーヴ)」で,ヴォールト天井を斜めに交差する対角線上にさらに補強の石材を付した。第二の「オジーヴ横断アーチ」は壁付きアーチに直交するアーチで,ヴォールト天井の分解,横圧力の分散を可能にした。第三は「フライイング・バットレス」で,天井の重量の生み出す壁への横圧力を,身廊外部に付けられたアーチおよび控壁に導いて分散させて支える方法であった。ゴシックは,フランスのアミアン大聖堂ランス大聖堂,ドイツのケルン大聖堂やウルム大聖堂など,都市の中心に聳える司教座聖堂に幾多の傑作を残している。

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知恵蔵 「ゴシック」の解説

ゴシック

13〜15世紀頃の欧州の高い尖塔と森を思わせる内部装飾の寺院建築などに見られた美術様式。ファッションでは、暗い色調で禁欲的だがどこかロマンチックな雰囲気も併せ持つ細身なスタイルを指す。ハイネックの黒のロングドレスや十字架のネックレスなどが特徴的で、2006年秋冬コレクションでも前年よりさらにこのスタイルが目立った。ゴシックの流行には、パンクスタイルとも共通した現代の合理性への反発があるとされている。

(上間常正 朝日新聞記者 / 2007年)

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世界大百科事典(旧版)内のゴシックの言及

【ゴート語】より

…インド・ヨーロッパ語族のゲルマン語派のうち東ゲルマン語に属し,現在は死語となっている。ゴート語の話し手であるゴート人は,1世紀の初めころまでに,南スウェーデンからバルト海をはさむ対岸のビスワ河口地帯に移住し,さらに東ゴート,西ゴートに分かれて南下し,2世紀の中ごろには黒海沿岸に到達したが,ゴート人のこのような早い時期におけるギリシア文化圏との接触により,4世紀の中ごろには西ゴートの司教ウルフィラによって聖書がギリシア語からゴート語に翻訳された。…

【書】より

… カール大帝治下のカロリング朝では,古代復興政策の下に規則的で均衡のとれた明快なカロリング小文字Carolingian minusculeが使用され(《ゴデスカルク福音書》8世紀末,等),800年ころまでに帝国の諸工房に急速に普及した。しかし,12世紀末には書法は正硬な様式化へ向かい,いわゆる黒字体black letter(ドイツ字体)あるいはゴシック体Gothicが生まれた。細長い垂直線の勝ったコントラストの強いこれらの書体は,明快清朗なカロリング朝期の書体とは対照的に装飾的で,典礼書,ことに聖歌集においてその様式化は頂点に達した。…

【中世音楽】より

…ここでは,4世紀初めのローマ皇帝によるキリスト教公認から,キリスト教の権威の揺らぎはじめた14世紀までの,西欧の音楽を扱う。なお,西洋音楽史では,おおよそ850‐1150年をロマネスク時代,1150‐1450年をゴシック時代と呼ぶことがある。また,今日いろいろ議論されてはいるが,13世紀をアルス・アンティカ(古技法)の時代,14世紀をアルス・ノバ(新技法)の時代と呼ぶ慣習もかなり普及している。…

※「ゴシック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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