有機金属触媒(読み)ゆうききんぞくしょくばい(英語表記)organometallic catalyst

日本大百科全書(ニッポニカ) 「有機金属触媒」の意味・わかりやすい解説

有機金属触媒
ゆうききんぞくしょくばい
organometallic catalyst

重合反応などの触媒として用いられる有機金属化合物。1953年ツィーグラー‐ナッタ触媒(有機金属化合物と遷移金属化合物との組合せによる錯体触媒)による立体規則性重合の発見以来、飛躍的に発展した。

 有機金属触媒は単独触媒活性を示す場合もあるが、一般にまず反応物質と作用して新しい活性種を形成し、それによって反応が促進されることが多い。このほか添加した助触媒などと反応したり、錯体形成を行ったりして、新しい形の触媒活性種となることも非常に多い。有機金属化合物またはそれらの錯体よりなる触媒は、均一系で働くものが多く、不均一系触媒に比較して、生成物の選択性に優れる特長がある。また、活性も一般に高いため、比較的低温でも使用でき、副反応を抑えるのに有効である。しかも、有機金属化合物における金属‐炭素結合や金属‐窒素結合は、金属の種類によっても、その結合様式が異なるため、種々の触媒作用を示し、その種類の多様性とともに用途もきわめて広い。おもな例をあげると、周期表第Ⅰ、Ⅱ族の有機金属化合物のうち、たとえばブチルリチウムは、スチレンメタクリル酸メチルなどのビニルモノマーやエチレンオキシドなどの環状化合物に対するアニオン重合触媒となる。亜鉛化合物もアニオン重合触媒となり、プロピレンオキシドの立体規則性重合をおこす。

 ツィーグラー‐ナッタ触媒を構成する有機アルミニウム化合物のうち、とくにトリエチルアルミニウムは活性が高く、かつ工業的合成法も比較的容易なので、もっとも重要な有機金属触媒原料となっている。これらの錯体触媒は、プロピレン共役ジエンの優れた配位重合触媒となり、合成ゴム工業の発展に役だった。コバルトカルボニル化合物を触媒とする一酸化炭素と水素オレフィンのヒドロホルミル化反応は、オキソ合成法ともいわれ、元のオレフィンより炭素数の一つ多いアルデヒドを合成する重要な反応である。

蜷川 彰]

『小田良平ほか編『触媒工業化学』(『近代工業化学 8巻』所収・1971・朝倉書店)』『三枝武夫ほか編『遷移金属触媒重合』(『講座重合反応論 5巻』所収・1974・化学同人)』『山崎博史・岩槻康雄著『有機金属の化学』(1989・大日本図書)』『D・F・シュライバーほか著、玉虫伶太・佐藤弦・垣花真人訳『無機化学』下巻(1996・東京化学同人)』『B・E・ダグラス、D・H・マクダニエルほか著、日高人才・安井隆次訳『無機化学』下巻(1997・東京化学同人)』『中村晃編著『基礎 有機金属化学』(1999・朝倉書店)』『伊藤卓著『有機金属化学ノーツ』(1999・裳華房)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例