生殖補助医療技術(読み)せいしょくほじょいりょうぎじゅつ(英語表記)assisted reproductive technology

知恵蔵 「生殖補助医療技術」の解説

生殖補助医療技術

不妊症の夫婦の頻度は、約10%。難治性不妊の治療として、精子卵子などを体外に採取して治療するARTが急速に発展し、広く利用されている。体外で精子と卵子を受精させてから女性の子宮に戻す体外受精・胚移植(IVF‐ET:in vitro fertilization and embryo transfer)は代表的ARTである。顕微鏡下で、採取した卵子の細胞質内に1つの精子を注入して授精させる卵細胞質内精子注入法(ICSI:intracytoplasmic sperm injection)は広く使われる顕微授精で、高度の男性不妊症例にも有効である。また、体外受精時に多くの受精卵が得られた時やその周期に胚移植することができない場合には、胚を凍結保存し(凍結胚)、別の周期に融解して子宮内移植を行う方法も確立された。さらに、着床が不成功となりやすい胚に対し、胚の周囲にある透明帯を薄くしてから胚移植する孵化補助法(AH:assisted hatching)や、培養システムの進歩と共に成功率が上昇した胚盤胞移植(通常の4細胞期ではなく、生理的な妊娠経過で着床する時の胚のステージに合わせて胚盤胞で子宮内に移植する)などの技術が開発された。現在、ARTで妊娠し出生するのは、全出生児の65人に1人の割合ともいわれている。しかし、ARTの進歩は、様々な問題も生んだ。排卵誘発剤の副作用や、3胎、4胎の多胎妊娠とこれに伴う未熟児の出産増加。精子・卵子の提供者が夫婦間とは限らない場合の生命倫理や子供の人権をどう考えていくか、なども課題。なお、2004年4月より、都道府県等が指定した医療機関で特定不妊治療(体外受精および顕微授精)を受けた夫婦に対して、費用の一部を助成する特定不妊治療費助成事業が開始、不妊夫婦に対して経済的負担の軽減が図られている。

(安達知子 愛育病院産婦人科部長 / 2007年)

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