デジタル大辞泉
「不妊症」の意味・読み・例文・類語
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
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ふにん‐しょう‥シャウ【不妊症】
- 〘 名詞 〙 妊娠可能年齢に達した男女が正常な性交を継続していても妊娠しない状態をいう。
- [初出の実例]「久しく不妊性(フニンシャウ)と思はれてゐた姉は」(出典:道草(1915)〈夏目漱石〉六七)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
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ふにんしょう【不妊症 Sterility】
◎子どもがほしいのに妊娠しない
[どんな病気か]
[原因]
[検査]
◎適切な治療がたいせつ
[治療]
[どんな病気か]
避妊(ひにん)をせずに性交渉があれば(性交渉の頻度はカップルによりまちまちですが)、約80%のカップルが1年以内に、10%のカップルが、つぎの1年以内に妊娠するというデータがあります。
つまり、2年以内に90%のカップルが妊娠するのです。
残った10%のカップルは、その後の自然妊娠の率が低いため、不妊症と呼ばれます。そして、この10%のうち、子どもをほしいと思う人が、病院を訪れることになります。
10%という数字は、決して少ないものではありません。しかし、ほかの病気と異なり、不妊症という場合には、赤ちゃんが欲しくて、避妊せずに性交渉をもっていても赤ちゃんができない人、妊娠しない人をさすので、赤ちゃんを希望していなければ、病気とは考えないのがふつうです。
不妊の原因は、後に述べるようにさまざまなものがあり、1つの病気でおこるのではありません。
「月経のおこるしくみ」と「妊娠の成立」(「月経のおこるしくみ」)で述べたように、いろいろな生理的現象がすべてうまくいって、結果として妊娠するわけですから、不妊症の治療では、まず、妊娠しない原因を探さなければなりません。
[原因]
妊娠は、いうまでもなくカップルがあってこそおこる現象です。妊娠しないというときには、男性に原因がある場合と、女性に原因がある場合があります。
[●男性側の原因]
[●女性側の原因]
●男性側の原因
■性交障害
いわゆるインポテンス、すなわち陰茎(いんけい)が勃起(ぼっき)せず性交ができない場合、あるいは射精障害(しゃせいしょうがい)、すなわち性交はできても射精しない場合は、当然相手を妊娠させられません。
■精子(せいし)の異常
また、射精できても妊娠させられないときは、精子に異常があると考えられます。
一般に、健康な男性が1回の射精で射出する精液は1~5mℓで、平均すると3mℓ程度であり、精子の数は、精液1mℓあたり8000万程度です。
これが3000万以下(WHOの基準では2000万以下)になると、精子減少症(せいしげんしょうしょう)、あるいは乏精子症(ぼうせいししょう)といい、妊娠の確率は低下します。
また、精液中に精子がみられない場合は、無精子症(むせいししょう)と呼ばれ、精子の運動性がみられない場合は、精子無力症(せいしむりょくしょう)と呼ばれます。
こうしたことがおこる原因についてはほとんどが不明ですが、多くの場合、ゴナドトロピン(性腺(せいせん)刺激ホルモン)の値が高く、睾丸(こうがん)が萎縮(いしゅく)しています。
睾丸の生検(組織検査)を行なって、精子をつくる機能に障害があることがわかった場合には、薬物療法も多くは期待できません。
しかし、なかには停留睾丸(ていりゅうこうがん)(「停留精巣(停留睾丸)」)や、思春期の流行性耳下腺炎(りゅうこうせいじかせんえん)(おたふくかぜ(「おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)」))などのように、原因が明らかな場合もあります。
精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)(「精索静脈瘤」)が原因となっている場合は、手術療法で精液の状態が改善することもめずらしくありません。
また、逆行性射精(ぎゃっこうせいしゃせい)で、膀胱(ぼうこう)のほうへ精子が射出される場合は、この精子を回収して妻に人工授精(じんこうじゅせい)することにより、妊娠できる場合もあります。
運動精子が、1mℓあたり500万以上であれば、精子減少症でも、人工授精で妊娠することが期待できます。
人工授精で妊娠できない場合は、体外受精が行なわれます。最近、顕微授精(けんびじゅせい)(コラム「顕微授精」)の技術が発展し、ごく少数の精子でも、妊娠することができるようになってきています。
さらに、無精子症は従来、妊娠はまったく無理とされてきましたが、精巣上体(せいそうじょうたい)や睾丸から精子、または成熟過程にある未熟な精子を取り出して顕微授精し、妊娠した例もあり、男性不妊のかなりの部分が解決されつつあります。
●女性側の原因
■排卵障害(はいらんしょうがい)、黄体機能不全(おうたいきのうふぜん)などの卵巣機能不全(らんそうきのうふぜん)による不妊
排卵(はいらん)がなければ、当然妊娠はしません。排卵がない原因は、中枢(ちゅうすう)性のものがほとんどです(中枢性無月経については「月経のおこるしくみ」参照)。
しかし、多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)(コラム「多嚢胞性卵巣症候群」)や早発閉経(そうはつへいけい)(ゴナドトロピン抵抗性卵巣(ていこうせいらんそう))など、卵巣性の場合もあります。
また、排卵はあっても、排卵後に形成される黄体(おうたい)のはたらきが十分でない場合には、子宮内膜(しきゅうないまく)の変化も不十分なため、着床(ちゃくしょう)障害をおこして、妊娠しにくくなると考えられています。このような状態を黄体機能不全(おうたいきのうふぜん)(「黄体機能不全」)といいます。
卵巣障害は、不妊のみならず、当然無月経(むげっけい)をおこします。
この場合、一般に、ゲスターゲンテスト(黄体ホルモン負荷試験)が行なわれます。これは、まずプロゲステロン(黄体ホルモン)を使用し、血液中からそのプロゲステロンが消えるときに、出血(消退出血(しょうたいしゅっけつ)(「月経のおこるしくみ」))があるかどうかをみる検査です。
出血があれば、エストロゲン(卵胞(らんぽう)ホルモン)がある程度は分泌されていて、子宮内膜が、すでにいくらか増殖していたことを意味します。
このような場合を第1度無月経と呼びます。卵胞発育が多少はあるわけで、無月経の程度は軽いと判断されます。
最近では、採血でエストロゲン値もはかれますし、超音波で卵胞発育の状態や子宮内膜の厚さなども観察できますので、ゲスターゲンテストは省略される傾向もあります。しかし、消退出血をおこした後は、排卵を誘発しやすいこともあり、いまでも診断に便利な方法といえます。
ゲスターゲンテストをしても消退出血がみられない場合は、エストロゲン分泌がほとんどなく、卵胞発育がないと考えられます。つまり、卵巣機能不全の程度が強いと解釈されるのです。これを、第2度無月経と呼びます。
また、LH‐RHテストも行なわれます。これは、障害のある部位を診断するテストで、検査の前と、LH‐RH(黄体ホルモン放出ホルモン)100mgを注射した後に採血して、LHとFSH(卵胞刺激ホルモン)の値を測定します。
この反応パターンから、不妊の原因が中枢障害なのか、それとも卵巣障害なのかを判定することとなります。
■卵管(らんかん)性不妊
淋菌(りんきん)やクラミジア感染などの性器感染が原因で卵管炎(子宮付属器炎(「子宮付属器炎(卵管炎/卵巣炎)」))をおこすと、卵管留膿腫(りゅうのうしゅ)や卵管留水腫(りゅうすいしゅ)となり、卵管閉塞(へいそく)をおこします。大腸菌(だいちょうきん)や、その他の細菌が原因となる場合もあります。
卵管が閉塞(つまる)すれば、当然そのままでは妊娠は望めません。
また、閉塞はなくても、卵管炎により卵(らん)の輸送能(排卵された卵子を卵管が子宮腔(しきゅうくう)のほうへ送る能力)に障害があれば、不妊や子宮外妊娠(しきゅうがいにんしん)(「子宮外妊娠」)の原因となることも考えられます。
■子宮性不妊
子宮筋腫(きんしゅ)、なかでも内膜側に飛び出しているような粘膜下(ねんまくか)筋腫は不妊の原因になると考えられます。
また、子宮筋層内に子宮内膜症(しきゅうないまくしょう)が発生する子宮腺筋症(しきゅうせんきんしょう)や、弓状子宮(きゅうじょうしきゅう)(子宮底(しきゅうてい)にくぼみがある)、双角子宮(そうかくしきゅう)(子宮体部(しきゅうたいぶ)が2つに分かれている)、重複子宮(じゅうふくしきゅう)(子宮および腟(ちつ)の上部を形成するミュラー管の癒合不全(ゆごうふぜん))などの先天性の子宮の形態異常も、不妊の原因になりうると考えられています。
そして、これらが原因の不妊はすべて、着床障害によるものと考えられています。
■子宮内膜症
月経痛、性交痛、不妊などをおこすやっかいな病気で、近年、増加傾向にあります。
骨盤内癒着(こつばんないゆちゃく)をおこすだけではなく、卵巣機能を障害したり、卵管采(らんかんさい)の卵の捕捉や、卵管の卵の輸送能を障害したり、受精や初期胚(はい)(ごく初期の胎児)の発育をさまたげるなど、妊娠成立の多くの過程で、障害をおこすといわれています。
■免疫性不妊
精子は、女性にとって非自己たんぱくであるため、精子に対する抗体ができてしまい、子宮頸管粘液(しきゅうけいかんねんえき)で精子を凝集させたり、動かなくしてしまったりして、受精を障害する場合があります。
このような抗精子抗体(こうせいしこうたい)が検出される場合や、女性がリン脂質に対する抗体をもっている場合、自己抗体をもっている場合などは、不妊や習慣流産(しゅうかんりゅうざん)(「習慣流産」)をおこす原因となると考えられています。
以上のような考えは、最近の考え方であり、まだ不明のことが多く、今後の研究の発展が待たれます。
■受精障害
従来わからなかったことですが、体外受精が普及するなかで、受精障害のあることが知られるようになりました。しかし、その原因などはまだ不明な点が多く、今後の研究が期待されます。
ただ、精子数が少ない場合や精子奇形率が高い場合には、受精能も悪いことが少なくないこと、卵の側では、高齢女性の卵の場合、受精率が低いことなどが明らかになりつつあります。
■機能性不妊、原因不明不妊
検査をしても、原因が明らかにならないものをいいます。
どこまで検査するか、腹腔鏡(ふくくうきょう)検査を行なったかどうかなどにより頻度が異なりますが、これほど生殖医学が進歩した今日でも、原因不明の不妊は少なくありません。
[検査]
不妊症の検査には、つぎのようなものがあります。
基礎体温測定 まず、基礎体温を測定し、排卵の有無、排卵日の推定、低温相(ていおんそう)(卵胞期)の長さ、高温相(こうおんそう)(黄体期)の長さなどをチェックします。
ホルモン測定 ホルモン分泌が正常かどうかを調べるために、卵胞期、排卵期、黄体期(着床期(ちゃくしょうき))などの時期ごとに、ゴナドトロピンやエストロゲン、プロゲステロンなどの量を測定します。
このほか、プロラクチン(乳汁(にゅうじゅう)分泌ホルモン)や、甲状腺ホルモン、テストステロン(男性ホルモンの一種)なども調べます。
頸管粘液検査、性交後テスト 排卵期には、増加したエストロゲンの影響で、子宮頸管粘液が分泌されます。これを採取して、その量やねばりけ、結晶の有無などを調べます。
また、この時期に性交渉をもって、頸管粘液中の精子を観察することにより、頸管粘液と精子の適合性を検査します。抗精子抗体などにより、精子が凝集したり、不動化してしまうことも少なくないからです。
子宮卵管造影法(HSG)、卵管通水法、卵管通気法(ルビンテスト) これらの検査は、月経終了後、排卵がおこる前に行なわれます。
子宮卵管造影法では、経腟的に子宮腔(しきゅうくう)に造影剤を注入します。卵管の通過性、子宮腔の状態、粘膜下筋腫の有無、子宮形態異常の有無などを調べることができます。通気法や通水法では、卵管閉塞の有無を検査できます。
子宮内膜生検、子宮内膜日付診 この検査をする場合は、避妊をして、着床期(黄体期中期)に、子宮内膜の生検(組織検査)を行ないます。
エストロゲンやプロゲステロンの効果により、子宮内膜が十分増殖しているか、分泌機能は正常かなど、着床環境が整っているかどうかを調べます。
この検査は、子宮体がんのないことを確認する意味でも、意義があります。
免疫学的検査 最近、免疫異常による不妊や習慣流産の存在が報告されています。そのため、抗精子抗体、抗リン脂質抗体をはじめとして、抗核抗体、抗DNA抗体など、各種の自己抗体を調べます。
これらの検査のなかには、いまだに健康保険の適用が認められていないものもありますので、担当医と相談のうえ受けるようにしてください。
腹腔鏡検査 腹腔鏡の進歩はめざましく、日本全国に普及してきましたが、入院設備のない外来クリニックのみの施設では、実施は困難です。
腹腔鏡は、卵管周囲の癒着や、腹膜(ふくまく)のみに存在する内膜症の発見と治療に有効です。
子宮鏡 子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫の診断や治療に有効です。
これらのほかにも、体外受精関係では、多くの精子受精能の検査が考案され、試みられています。
[治療]
検査で判明した障害や異常に応じて、適切な治療を選択することがたいせつです。
●男性不妊
インポテンスが原因の場合には、心理療法などが行なわれます。
軽い乏精子症では、さまざまな薬物療法が試みられますが、確立したものはないようです。精索静脈瘤の場合は、手術療法が有効です。
これ以外の治療法としては、少ない精子でも妊娠できるよう、人工授精、体外受精などが試みられています。
●女性不妊
■排卵障害、卵巣機能不全
軽い卵巣機能不全(「卵巣機能不全(卵巣機能低下症)」)や基礎体温で高温相がない無排卵周期症などでは、温経湯(うんけいとう)や当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)などの漢方薬が有効なことが少なくありません。また、無排卵周期症や、軽い中枢性無月経のような第1度無月経では、排卵誘発剤(はいらんゆうはつざい)のクエン酸クロミフェンがよく使われます。
第2度無月経では、hMG(閉経期婦人尿中ゴナドトロピン)の注射が用いられます(排卵誘発剤の詳細については、「排卵誘発剤の知識」を参照してください)。
高プロラクチン血症(月経のおこるしくみの「[初経(初潮)]」)による排卵障害の場合は、下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)がないかどうか、薬剤性でないかなどを検討した後、それらがなければ、メシル酸ブロモクリプチンやテルグリドなどのプロラクチン分泌を抑える薬剤を使用します。
このほか、黄体機能不全では、プロゲステロンの補充や、hCG(絨毛性(じゅうもうせい)ゴナドトロピン)の注射などが行なわれます。
体重減少による排卵障害では、まず体重をもどすこと、ストレスによる排卵障害では、ストレスを解消することから始めなければならないのは、いうまでもありません。
■卵管性不妊
卵管閉塞が原因の不妊では、まず、手術により形成術を行なうことを考えます。
それでも再閉塞した場合や、卵管留膿腫や卵管留水腫など、形成術後の再発が心配されるような病気の場合には、体外受精の適応が考えられます。
■子宮性不妊
粘膜下筋腫による不妊の治療には、子宮鏡を使った核出(かくしゅつ)(筋腫の摘出手術)が行なわれます。
子宮形態異常の場合は、形成手術が行なわれますが、子宮形態異常があってもそのまま妊娠することもあり、手術すべきかどうか、医師が迷う例も少なくありません。
■免疫性不妊
治療薬として、漢方薬の柴苓湯(さいれいとう)、アスピリン・ダイアルミネート、少量のステロイドホルモン(プレドニゾロン)などの使用が試みられています。
これらの薬剤は、自己抗体の産生を低下させたり、血液の細かい擬集を抑制したりすることにより、受精や着床、初期胚の維持を阻害している因子を低下させると考えられています。
抗精子抗体が陽性の場合では、体外受精も適応となります。
■受精障害
受精障害が認められる場合は、体外受精で顕微授精をする以外に方法がありません。
■機能性不妊、原因不明不妊
原因不明なので、特別な治療法があるわけではありませんが、漢方薬(おもに当帰芍薬散、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、温経湯など)や、ときには、排卵誘発剤の使用、人工授精や体外受精なども行なわれます。
体外受精の過程で、受精障害が発見されることもあります。その際には顕微授精が行なわれます。
出典 小学館家庭医学館について 情報
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不妊症
ふにんしょう
infertility
生殖年齢の男女が、ある一定期間、避妊することなく通常の性交を継続的に行っているにもかかわらず、妊娠の成立をみない状態を不妊という。ここでいう妊娠の成立には、流産や異所性妊娠(子宮外妊娠)が含まれる。ある一定期間については、1年というのが一般的である。この1年という期間は、日本産科婦人科学会による2015年の定義変更により定められた年数であり、それまでは2年、さらに古くは3年とされていた時期もある。一方、妊娠成立のために医学的介入が必要な病的状態は、期間の有無を問わず不妊症と診断される。妊娠不成立の期間を不妊を定義する要件とするのは便宜上にすぎない。不妊と不妊症の違いは曖昧(あいまい)であり、不妊のうちで治療を要するもの、または治療を希望するものを不妊症とよぶとする定義もある。また、女性は加齢に伴い妊娠する可能性(妊孕(にんよう)能)が低下し、不妊の状態となるが、これは生理的な加齢現象であり不妊症ではない。しかしながら実際には、不妊治療を開始するために必要な符号たる病名として「不妊症」が使用されているのが現状である。
不妊症は、過去に一度も妊娠したことのない原発性不妊症と、流産を含む妊娠の経験を経た後に不妊の状態となっている続発性不妊症に区別される。妊娠するのが女性であることから、一般に不妊症は女性に対して診断される疾患名である。また、不妊症は男女カップルを対象として定義される疾患名であるため、ある女性が不妊症であるか否かは相手の男性により異なることもある。
従来、日本での不妊症の頻度は10%程度とされていたが、2025年時点ではおよそ5組に1組のカップルが不妊症とされ、増加傾向にある。これは、晩婚化などのため妊娠を目ざすカップルの年齢が上昇している影響もあるが、不妊治療を受けている女性の数をもとに推定しているためであり、真の不妊症の頻度を表しているか否かは不明である。世界的には不妊症の頻度は生殖年齢の男女の8~12%とされている。先進国において高く開発途上国において低いという差はあるものの、おしなべて年々上昇傾向にある。
英語ではsterilityも不妊を意味するが、妊娠する可能性のない絶対的な不妊のことであり、診療を前提とした実践的な語としては、不妊期間によって定義されるinfertilityが用いられる。
[久具宏司 2025年7月17日]
不妊症の原因はその病的状態が男女のどちらに存在するかによって、女性側因子と男性側因子に大別される。しかしながら、実際の診療上は原因が不明のものも多い。
女性側因子には、間脳視床下部、脳下垂体、卵巣のいずれかまたは複数に異常があって排卵が正常におこらないもの、卵管の欠損や閉塞(へいそく)または周囲に癒着があるなど内腔(ないくう)の疎通が障害されているもの、子宮の欠損や形態異常、子宮内部に癒着のあるもの、子宮頸管(けいかん)での頸管粘液の分泌不全や、頸管粘液内への抗精子抗体分泌によるもの、子宮筋腫(きんしゅ)、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮・卵管への感染症など、特定の疾患に起因するものがある。
男性側因子には、精液検査の所見により乏精子症、無精子症、精子無力症、奇形精子症が診断される。これらの所見の原因は、精巣における精子をつくる機能が障害された造精機能障害がもっとも多く、さまざまな先天性疾患、後天性疾患に起因するものが多いが、精索静脈瘤(りゅう)、薬剤服用も造精機能障害の原因となりうる。造精機能障害以外では、精路通過障害、勃起(ぼっき)障害、射精障害が男性側因子である。
[久具宏司 2025年7月17日]
個々の例において、その不妊原因を除去、または矯正することが不妊症の治療となる。しかしながら、治療の目的が妊娠して子を授かることであることから、不妊原因の克服にこだわることなく、体外受精に代表される生殖補助技術を用いて妊娠に導くことも少なくない。とくに不妊原因が不明のものや加齢に伴う不妊が疑われるものはその傾向が強い。
[久具宏司 2025年7月17日]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
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ふにんしょう【不妊症】
《どんな病気か?》
〈女性が原因の不妊は30%。
まず、体調をととのえよう〉
ある統計によると、正常な性機能をもち、避妊をせずにある程度の性交渉をもつカップルなら、1年以内に80%が、2年以内では90%が妊娠するといいます。
同様な条件で、1年が経過しても妊娠の兆しがない場合には、なにかしらの不妊因子をもっている可能性もあり、このうち、子どもをほしいと思って病院を受診する人が不妊症(ふにんしょう)と診断されます。
しかし、とかく不妊は女性に原因があるかのようにいわれてしまいがちですが、実際には30%が女性、30%が男性に原因があり、残りは原因不明というのが現実です。
女性に原因がある場合には、ホルモン分泌(ぶんぴつ)の異常が原因となって排卵がない、卵管や子宮頸管(しきゅうけいかん)に異常があって受精できない、子宮発育不全やその他の子宮の疾患により、受精卵が着床(ちゃくしょう)できなかったり、着床しても受精卵が育たないなどの原因が考えられます。
また、精神的なストレスや疲労、ビタミン不足によって妊娠しにくくなっていたり、極端な虚弱や肥満の女性は、妊娠しにくいともいわれています。
原因がはっきりしている場合には、適切な治療を行い、また、最近では体外受精などの技術もすすんでいるので、専門医のアドバイスを受けましょう。
しかし、原因がはっきりしない場合には、まず日常生活において、規則正しい生活を送ることがたいせつです。そのうえで、ストレスをためない、体を冷やさないなどの習慣を心がけましょう。
《関連する食品》
〈バランスのよい食生活とビタミンの補給が基本〉
食事においてはまず、バランスのとれた食生活で体の調子をととのえることがたいせつです。
同時に、ふとりすぎややせすぎにも注意が必要です。
ただし、急激なダイエットや過食もホルモンのバランスを乱す原因になるため、その場合には、少しずつ時間をかけて、体調をととのえるようにしましょう。
○栄養成分としての働きから
ビタミンは十分にとりましょう。コマツナやキャベツ、ニンジンなど、ビタミン類を豊富に含む野菜をとるようにします。
これらの野菜をジュースにして飲むなどくふうして、十分な摂取により体調をととのえることができます。
また、貧血防止と冷えの予防には十分な鉄分も必要です。ただし、過体重にも注意が必要なので、脂質の少ない赤身の牛肉や豚肉、貝類、ホウレンソウやコマツナなどの青菜、アオノリなどの海藻からとるといいでしょう。
〈黒豆、当帰が月経不順の不妊に有効〉
○漢方的な働きから
漢方では、黒ダイズ、当帰(とうき)が不妊症に効果があるといわれています。
いずれも月経不順による不妊症に効果が高いものです。
なかでも当帰は特効薬といわれるほど、漢方では高く評価されています。また、黒豆は黒豆酒にして用いられます。
ゴボウは強壮作用があり、妊娠に備えて、体調をととのえる意味でも有効です。
○注意すべきこと
大量・習慣的な飲酒、喫煙も不妊の原因となりますし、いざ妊娠したというときには、胎児の発育などに影響をおよぼします。
できるだけひかえるようにしましょう。
出典 小学館食の医学館について 情報
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不妊症 (ふにんしょう)
sterility
結婚後の避妊期間を除いて,2年以上経過しても生児を得られない状態をいう。全夫婦の約10%にみられるといわれ,1度も妊娠していないものを〈原発性不妊〉,すでに子どもはいるが,その後妊娠しないものを〈続発性不妊〉といい,妊娠はするが生児を得られない場合を〈不育症infertility〉と呼んで区別している。不妊の原因は種々たくさんあり,男性,女性のいずれにあるかで〈男性不妊〉と〈女性不妊〉に大別され,その比率は2対3といわれている。精液検査,基礎体温,ホルモン検査,子宮内膜検査,月経血培養,子宮卵管造影,卵管通気,性交後検査等により原因を確認した後,排卵誘発薬をはじめとする薬物療法,卵管通気,卵管通水,手術的療法(卵管開口術,卵管吻合(ふんごう)術,子宮の手術,精管疎通術等),人工授精,体外受精(試験管ベビー)等の治療が行われる。
→妊娠
執筆者:飯塚 理八+中野 真佐男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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不妊症
ふにんしょう
sterility
正常な性生活を営みながら,2~3年たっても妊娠しない場合をいう。発現率は 10組の男女に1組の割合。原因が女性側にあるもの,男性側にあるもの,夫婦ともにあるものが,それぞれ3分の1ずつある。女性では,下垂体前葉から出る性腺刺激ホルモンなど内分泌の異常で排卵が起りにくいもの,卵管が炎症などで閉塞,狭窄,癒着を起し,卵子,精子の通過障害を起して受精を不可能にしているもの,子宮内膜の異常による着床の障害,頸管粘膜の異常で,精子が子宮腔内に入りにくいもの,などが原因になる。男性では,精巣での造精子機能の障害,精巣上体での精子の成熟障害,精巣上体および精管から後部尿道にいたる精路の通過障害などがあって,性交の際に,十分に活動的で必要な数の精子が射精されないことが原因になる。系統的に検査して原因を確認し,排卵を誘発したり,内膜や頸管の状態を改善すると妊娠させることができるが,卵管閉塞や無精子症は治療が困難なことが多い。また,近年では体外受精や胚移植法,配偶子卵管内移植法などの新しい不妊治療法が開発されてきている。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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不妊症
避妊することなく妊娠できる状態で性交渉があるにもかかわらず,一定期間妊娠しない症状.
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
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世界大百科事典(旧版)内の不妊症の言及
【稔性】より
…ふつうは植物についていうことが多い。何らかの原因によって稔性が阻害され,次代の植物が育たない現象を総称して不稔性sterilityという。不稔となるのにはいろいろの様式があるが,形態的不稔性(生殖器官に発達異常がみられるもの),発生的不稔性(胚囊や花粉管など配偶体世代に相当する部分に異常のみられるもの,胚や胚乳の形成が異常なものなど),不和合性(花粉も胚囊も完全に機能しているのに特定系統間で交雑を行ったときには受精不能であるもの)などが区別されることもあり,広義には,環境条件によって花をつけなかったり早く落花したり,または種子が発芽できなかったりする場合も含めて不稔ということがある。…
【子宮筋腫】より
…発生した筋腫の数の少ない場合はもちろん,10個,20個とたくさんの筋腫ができている場合でも,一つ一つ丹念に核出することにより筋腫を取り去ることができる。したがって,子宮筋腫が[不妊症]の原因になっていると考えられる若い女性の場合には,この手術を行うことが原則であり,これにより子どもに恵まれる機会が増える(不妊率は普通の夫婦の場合10%,筋腫があると約30%と増加する)。第2の方法は子宮の腟上部切断術で,これは,子宮筋腫の大部分(90~95%)を占める子宮体部筋腫の場合に,子宮体部を切除するものである。…
【子宮頸管粘液】より
…排卵期の頸管粘液の量が少なすぎたり性状が不良だと,不妊の原因になることがある。また,頸管粘液中に精子不動化抗体が分泌されるための精子免疫による不妊症も少数例ながらみられる。頸管粘液の精子受容性はヒューナー試験Hühner test,ミラー=クルツロック試験Miller‐Kurzrok testでしらべることができる。…
※「不妊症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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