アルカリ蓄電池は鉛蓄電池に代表される酸蓄電池に対して、水酸化カリウムKOHなどのアルカリ性水溶液を電解質に使用する蓄電池の総称として名づけられている。これらにはニッケルカドミウム蓄電池、ニッケル水素蓄電池、ニッケル亜鉛電池、エジソン電池、酸化銀亜鉛蓄電池、酸化銀カドミウム蓄電池、金属空気電池および高圧形ニッケル水素蓄電池などの種類がある。しかし、ニッケルカドミウム蓄電池がアルカリ蓄電池の代表的なものであるので、ニッケルカドミウム蓄電池の別称としてよばれることもある。
アルカリ水溶液は粘度が小さいためイオンの移動に対する抵抗が少なく、導電率が大きい。たとえば、30%の水酸化カリウム水溶液の導電率は室温で5×10-1S/cmであり、鉛蓄電池に使用される35%硫酸水溶液の7×10-1S/cmにわずかに劣る程度である。またリチウムイオン二次電池に用いられている有機電解液の導電率の約50倍であり、電池電圧では劣るものの高負荷放電と高速充電特性に優れている。
[浅野 満]
正極活物質に二価の酸化銀(AgO)、負極活物質に亜鉛(Zn)、そして電解液にKOH水溶液を用いたアルカリ蓄電池で、酸化銀カドミウム蓄電池とともに銀電池とよばれている。1899年にスウェーデンのユングナーWaldemar Jungner(1869―1924)によって発明された。放電反応は以下のように示され、亜鉛負極の放電反応はニッケル亜鉛電池と同じで、酸化銀正極の放電反応は2段に進む。
(亜鉛負極)
Zn+2OH-―→Zn(OH)2+2e-
(酸化銀正極)
2AgO+H2O+2e-―→Ag2O+2OH-
Ag2O+H2O+2e-―→2Ag+2OH-
したがって放電反応は以下のように示される。
2AgO+Zn+H2O―→Ag2O+Zn(OH)2
Ag2O+Zn+H2O―→2Ag+Zn(OH)2
(全体)
AgO+Zn+H2O―→Ag+Zn(OH)2
となる。充電反応はこれらの逆である。第1段の電池反応の起電力は1.81ボルト、また第2段は1.58ボルトであり、2段階の充放電電圧を示す。
正極には多孔率約60%の焼結式酸化銀極板が用いられ、負極にはペースト式亜鉛極板、セパレーターにはセロファン、ポリビニルアルコール(PVA)膜やポリエチレン膜、そして電解液は30~40%KOH水溶液が使用される。
短時間率放電においても電圧の平坦(へいたん)性はきわめてよい。しかし低温放電特性はよいとはいえない。また短時間率充電は好ましくなく、10~20時間充電すれば良好な充電効率が得られる。過充電は電池寿命に悪影響する。充放電サイクル寿命は短い。
エネルギー密度は高率放電用のもので116Wh/kg、また低率放電用では123Wh/kgで、アルカリ蓄電池のなかでは最高である。高価ではあるがその特性を生かして、軽量であることが求められるロケットや人工衛星などの宇宙開発の分野をはじめ、海洋開発分野の深海調査船、水中カメラ、軍用の魚雷、ミサイルなどの特殊電源に使用されている。
なお、正極に酸化銀、負極に亜鉛を用いる一次電池の酸化銀電池があり、ボタン形が電子式腕時計やカメラ、電卓、電子玩具、電子体温計などに用いられている。しかし高価であるため、アルカリボタン電池やボタン形リチウム電池などにシェアを奪われている。
[浅野 満]
酸化銀亜鉛蓄電池の亜鉛負極のかわりにカドミウム負極を用いたアルカリ蓄電池である。酸化銀正極の放電反応は酸化銀亜鉛蓄電池と同じであり、またカドミウム負極の放電反応はニッケルカドミウム蓄電池と同じである。したがって電池全体の放電反応は以下のように示される。
2AgO+Cd+H2O―→Ag2O+Cd(OH)2
Ag2O+Cd+H2O―→2Ag+Cd(OH)2
充電ではこの逆過程の反応が進む。電極反応は2段に進み、それぞれの起電力は1.37ボルトと1.15ボルトである。
電池の構成はカドミウム負極板を使用することを除いて酸化銀亜鉛蓄電池とほとんど同じであるが、密閉化しやすく、円筒小形蓄電池とすることができる。短時間率放電と低温特性は酸化銀亜鉛蓄電池より劣るが、過充電に強く、充放電サイクル寿命が長いため、酸化銀亜鉛蓄電池の欠点を補い、また磁性のある原材料を使用することなく製作できるので、非磁性であることが必要な科学衛星に使用されている。
[浅野 満]
負極に水素吸蔵合金を使用するニッケル水素蓄電池と異なり、活物質には高圧水素ガスを用い、その負極には燃料電池に用いられる白金系触媒を担持した炭素粉末をフッ素樹脂で結着して作製したガス拡散電極を使用する。そして水酸化カリウム水溶液を電解液として含浸させたセパレーターをオキシ水酸化ニッケルNiOOH正極とH2ガス拡散負極で挟んだ発電素子自身を、高圧H2ガスを貯蔵する圧力容器内に収納した構造となっている。放電反応は
(正極)
NiOOH+H2O+e-―→Ni(OH)2+OH-
(負極)
H2+2OH-―→2H2O+e-
(全体)
2NiOOH+H2―→2Ni(OH)2
で示され、充電反応はこれらの逆となる。起電力はニッケル水素蓄電池よりわずかに大きい1.34ボルトであり、また作動電圧は1.2ボルトと同じである。圧力容器内の水素圧は充電条件によって異なり50~70気圧に達するが、その圧力をモニターすれば充電状態を知ることができる。
この電池の大きな特徴は過充電、過放電に耐えられることである。過充電時に正極から発生する酸素ガスは負極で水素ガスと反応して水となり、また過放電状態になって正極から水素ガスが発生しても負極のガス拡散電極で酸化して消費されるので、容器内のガス圧が規定以上に上昇して危険な状態になることはない。マイナス10℃以下の低温では電解液が氷結し、また高温では自己放電が大きくなるという欠点があるが、温度制御をすれば軽量で信頼性の高い蓄電池であり、人工衛星などの宇宙機用電源に用いられている。
[浅野 満]
『池田宏之助著『電池の進化とエレクトロニクス――薄く・小さく・高性能』(1992・工業調査会)』▽『日本電池株式会社編『最新実用二次電池 その選び方と使い方』(1999・日刊工業新聞社)』▽『小久見善八編著『電気化学』(2000・オーム社)』▽『電気化学会編『電気化学便覧』(2000・丸善)』▽『電池便覧編集委員会編『電池便覧』(2001・丸善)』▽『小久見善八・池田宏之助編著『はじめての二次電池技術』(2001・工業調査会)』
鉛蓄電池を代表とする酸電池に対して,アルカリ性電解液を使用する二次電池の総称.(1)ニッケル-カドミウム電池,(2)ニッケル-水素電池,(3)ニッケル-鉄電池,(4)銀-カドミウム電池,(5)銀-亜鉛電池,などがアルカリ蓄電池の代表である.たとえば,ニッケル-カドミウム電池の放電反応では,
正極:Cd + 2OH- → Cd(OH)2 + 2e-(-0.798 V)
負極:2NiO(OH) + 2H2O + 2e- → 2Ni(OH)2 + 2OH-(0.52 V)
全体:2NiO(OH) + Cd + 2H2O → 2Ni(OH)2 + Cd(OH)2
となり,起電力は1.32 V となる.実際には,電荷移動の遅れなどによる過電圧のため,公称電圧は1.2 V である.アルカリ蓄電池の電解液は,主として20~30% の水酸化カリウム水溶液が用いられる.アルカリ蓄電池は種類も多く,一般に携帯性,長寿命,大電流放電が良好という高い性能をもつが,電池活物質に高価なものを使う場合が多いのが欠点である.なお,かつて電池活物質をポケットあるいはチューブに充填した構造の電極が用いられてきたが,ニッケルなどの微粉末を焼結してつくった多孔性基板に活物質を充填した焼結式アルカリ蓄電池が発達し,従来のものよりはるかにすぐれた充・放電特性が得られるようになり,ニッケル-カドミウム電池にみられる完全密閉化とともに,二次電池の用途は飛躍的に拡大された.また,ニッケル-水素電池はニッケル-カドミウム電池より高容量であり,密閉化ができ,材料も比較的豊富で,濃度に対する負荷も少ないため,小型携帯機器でニッケル-カドミウム電池の置き換えが進み,さらにハイブリッド自動車などの大型電池の用途も拡大している.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
電解液に苛性アルカリなどのアルカリ性水溶液を使用する二次電池の総称。陽極活物質として酸化水酸化ニッケルNiO(OH),酸化銀(Ⅱ)AgO,酸化マンガン(Ⅳ)MnO2,酸素O2,陰極活物質として鉄Fe,カドミウムCd,亜鉛Znなどが用いられる。陽極活物質と陰極活物質の組合せにより表1のようなアルカリ蓄電池が生まれた。陽極および陰極の起電反応,標準単極電位は表2のとおりで,アルカリ蓄電池の起電力はほぼ両極の標準単極電位の差になる。
これらのうちで最も広く用いられているのはニッケル-カドミウム電池であり,通常アルカリ蓄電池といえばこの電池を指す。これはさらに電極のつくり方の違いにより,ユングナー電池と焼結式電池に分類される。ユングナー電池では,充電の末期には陽極より酸素,陰極より水素がそれぞれ発生するので,密閉するとガス圧が上昇し爆発の危険がある。これを防ぐためにCdの当量をNiO(OH)のそれに比べて多くしておくと,陽極で発生した酸素と陰極のCdとが反応して水酸化カドミウムCd(OH)2となり,昇圧は起こらない。このような原理による電池を密閉型ニッケル-カドミウム蓄電池という。酸化銀-亜鉛電池は,はじめ一次電池として開発されたが,経済性を改善するために二次電池化されたものであり,携帯用通信機,テレビカメラ,照明器具の電源に用いられている(酸化銀電池)。またアルカリマンガン蓄電池も一次電池を二次電池化したものであるが,性能的にはまだ実用に不十分である。亜鉛-空気二次電池も開発中の電池である(空気電池)。
執筆者:笛木 和雄
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