改訂新版 世界大百科事典 「アパブランシャ語」の意味・わかりやすい解説
アパブランシャ語 (アパブランシャご)
Apabhraṁśa
中古インド・アーリヤ語の一種で,サンスクリット語,プラークリット語と並んで使用された。〈転訛したapabhraṁśa〉という意味の示すごとく,元来地方的俗語を基礎として発達したので数種の区別があるが,現存の資料はいずれも文章語として用いられたもので,日常方言を示すものではない。古典プラークリット語が固定した後,だいたいその語彙を使用しながら方言的文法を適用したのがアパブランシャ語で,1000年ころ西インドのラージャスターンやグジャラート地方のジャイナ教徒によって主として使用された。初期のアパブランシャ語の基礎となったプラークリット語は,マハーラーシュトリー語Mahārāṣṭrīとシャウラセーニー語Śauraseṇīであるが,次いで北インド全般に広がり多数の地方的区別を生じた。音韻語形の変化などはプラークリット語より近代インド語に近い。アパブランシャ語はジャイナ教の宗教文学のほか文学作品にも用いられ,アパブランシャ語のみで書かれた作品としては,ハリバドラの伝説物語《ネーミナーハチャリウNemināhacariu》(1139)や,ダナパーラの叙事詩《バビサッタカハーBhavisattakahā》などが知られ,またサンスクリット劇においてプラークリット語の代りにこの語が使用されていた場合もある。
執筆者:田中 於莵弥
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報