改訂新版 世界大百科事典 「ハリバドラ」の意味・わかりやすい解説
ハリバドラ
Haribhadra
8世紀ころのインドのジャイナ教白衣(びやくえ)派の学匠。生没年不詳。ジナバドラJinabhadra(ジナバタJinabhaṭaなどともいう)の弟子とされる。西インドで活躍し,多方面にわたって数多くの著述を残した。彼は聖典に対してサンスクリットで注釈を書いた最初の人であると同時に,また俗語マーハーラーシュトリーで書かれた有名な宗教説話文学《サマラーイッチャカハー》の作者としてインドの物語文学の発達にも寄与した。さらに他学派の教義にもきわめて造詣が深く,いずれの学派にも偏することなく真理のみを尊重するとの立場を標榜して,仏教,ニヤーヤ,サーンキヤその他の諸学派の教義を《シャッダルシャナ・サムッチャヤ》(6学派の哲学の集成)の一書にまとめ,また仏教のディグナーガ(陳那(ぢんな))の《ニヤーヤ・プラベーシャ(因明入正理論(いんみようにつしようりろん))》に対する注釈書も著した。しかし彼が仏教のダルマキールティ(法称)とその系統の思想に対してだけは批判的で,《アネーカーンタジャヤ・パターカー》を著してその思想を手厳しく批判したことは注目される。同書は仏教思想史の研究の上で,その資料的価値は高いと思われる。このほか《ダルマ・ビンドゥ》(教えの一滴)と題した自派の修道論の綱要書を作るなど,その多才さはおそらくのちのヘーマチャンドラ(12世紀)にも匹敵しよう。
執筆者:矢島 道彦
ハリバドラ
Haribhadra
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報