アメリカの作家、メイラーの小説。1964年刊(1965年改作)。通俗的な犯罪小説の形式を借りて、アメリカの体制的秩序からの自己解放を試みる知識人の葛藤(かっとう)を描いた作品であり、外面的な写実を超えて、根源的な生命力の躍動を伝える文体においても新生面を開いた。戦争体験で心に傷をもつ前国会議員ロージャックは、彼との性生活を拒否した高慢な妻デボラを衝動的に絞め殺し、警察の尋問や、政界の大黒幕であるデボラの父親による陰険な脅迫をすり抜けたあと、ニューヨークの暗黒街で知った歌手チェリーとの純粋な愛によって原始的な内なる我に目覚め、チェリーの死後、腐敗した文明世界を去って中央アメリカの密林へ赴く。
[飛田茂雄]
… アメリカニズムは,ヨーロッパと違うデモクラシーの制度を神聖視する考えを生み,それがアメリカ大陸全土にひろまるべきだという〈明白な運命(マニフェスト・デスティニー)〉の観念を育てもした。またアメリカが万民に成功のチャンスを与えるという〈アメリカの夢〉の意識をかき立てもした。文学の世界では,自由な自然のままの人間を宣揚するホイットマンの詩なども,アメリカニズムの所産といえる。…
…翌年太平洋戦争に従軍,48年に屈指の戦争文学《裸者と死者》を世に問い,現代アメリカ小説の旗手としての地位を確立した。以後,《バーバリーの岸辺》(1951),《鹿の園》(1955),《アメリカの夢》(1965),《なぜぼくらはベトナムへ行くのか》(1967)を書いた。文学的結実,できばえとしては,これらの小説は処女作《裸者と死者》に及ばない。…
※「アメリカの夢」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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