アメリカ合衆国の大学改革(読み)アメリカがっしゅうこくのだいがくかいかく

大学事典 の解説

アメリカ合衆国の大学改革
アメリカがっしゅうこくのだいがくかいかく

アメリカの大学と日本の大学の違い]

日米の大学制度を比較すると,いくつかの目立った違いがみられる。第1に,短期大学を含めた大学を大きく公と私の両セクターに分けた場合,日本では学生の約73%が私立に在籍するが,この比率はアメリカでは逆転し,公立セクターの在籍者が約73%となる。第2に,その在籍者をジェンダーで見ると,日本は約42%が女性であるが,アメリカではこの比率が約57%であり,女性が多数派ということになる。これは大学院レベルで見ても,1988年以来,女性の大学院生が男性のそれを凌駕しており,2000年から2010年の間の大学院生の増加率を見ると,男性が38%増であるのに対して女性は実に62%増である。

 第3に,アメリカの大学は「おとなの大学」である。在籍者数に占める25歳以上の学生比率が約43%に達するからである。第4に,人種民族というカテゴリーで見ると,1976年から2010年の期間にもっとも増加したのがヒスパニック系の学生で,全学生数に占める割合が3%から13%に,次がアフリカ系の学生で9%から14%に,続いてアジア/太平洋諸島出身の学生が2%から6%へと増加している。これに伴い,絶対数では900万から1270万へと増加した白人学生の比率が83%から61%へと落ちている。第5に,2004年度に初めて4年制大学にフルタイム修学(大学の定める一定以上の単位を毎学期履修する)で入学した学生のうち,その大学で2010年度までの6年間のうちに学士号を取得できた比率は私立が65%,公立が56%であった。卒業率で見る限り,「入るのはやさしいが出るのが難しい」のが平的なアメリカの大学ということになる。

[世界最大の高等教育システム

しかしながら,以上のような日米比較もその前提として,規模の違いを勘案しなければならないであろう。アメリカの大学数は,2013年現在,公立・私立を合わせて約4700校,在籍者数で2037万人を超え,2014年現在,大学の基本財産(endowment: 寄付等を蓄積した原資でその利子を使用)の市場価値は5352億ドルに達する。しかもハーヴァード大学(364億ドル),テキサス大学システム(254億ドル)イェール大学(239億ドル)上位3校を含め,最大規模の基本財産をもつ120校で,このうちの約4分の3の3985億ドルを所有している。いわゆる世界大学ランキングに見るアメリカの大学の圧倒的な優位性―たとえばタイムズ誌の世界大学ランキング(2015/16)を見ると,上位100校中,アメリカの大学が39校を占める。上位10校となると6校がアメリカの大学である―は,このような巨大なシステムと基本財産が産む豊富な資金力を背景として可能になったものである。

[アメリカの大学改革(アメリカ)]

以上のように世界最大の高等教育システムとなったアメリカの大学は,現在,大きな構造変動を迫られている。第1の問題は,高等教育制度の財政構造に関わるものであった。2010/11年における学生納付金の平公立大学で1万3564ドル,私立大学で3万6252ドル,営利目的の大学で2万3495ドルになっている。2000年から2010年の間に,公立大学の学生納付金が42%,私立大学のそれが31%も上昇しており,多くの家庭にとってもはや負担限度をはるかに超えている。これに対する連邦政府の学生経済援助政策を見ると,援助を受けている学生は全体の63%(2007/08年度)となっており,2012年度では総額1419億ドルを1500万人の学生に援助するという巨大な事業になっている。収入の低い家庭出身者に対して,一定の条件を満たせばすべての学生が受給できる給付型奨学金の受給者数および総額は,学生ローン(貸与型)の返済不能の件数および総額とともに増加の一途をたどっており,根本的な構造改革を必要とする段階に至っている。第2の問題は,前述のような「アメリカ大学の圧倒的な優位性」は事実としても,グローバル化経済の中で必要とされる知識・技術をもった人材を「高等教育システム全体」として輩出しているのか,という問題である。

 この両者からは,「アメリカ合衆国の大学は,投入した資金にみあった教育の成果が挙げられているのか」という問いが提起されることになる。2006年,アメリカ教育省は「スペリングス報告(アメリカ)」と通称される大学教育改革案を提示した。内容は多岐にわたっているが,高等教育に関わるすべての関係者および組織(大学,認証評価団体,連邦と州の政策立案者,初等中等学校,ビジネス界,親および学生)が考えるべき課題として,①大学入学のための正確で可視化された情報提供システムの構築(access),②適切な費用負担のあり方(affordability),③質の高い教育(quality),④教育の説明責任を果たすための手法の確立(accountability)という四つの問題領域を指摘し,これらの問題の克服のために,教育・研究機関としての大学のパフォーマンスの質を評価する新たなベンチマーキングの手法を開発することを要請した。そこでは,学生は修了時に「あらかじめ意図された学習成果としての学習のアウトカムズ」を獲得しているのかという視点が導入されている。すなわち,「ある教育的な働きかけが,本当に意図した学習成果を生み出しているのか」を明らかにする責任を大学の側に負わせているのである。「説明責任」「可視化」「パフォーマンスの質の評価」といった概念は,日本のほか,ヨーロッパの大学改革にも決定的な影響を与えている。
著者: 坂本辰朗

参考文献: A Test of Leadership: Charting the Future of U.S. Higher Education. A Report of the Commission Appointed by Secretary of Education Margaret Spellings. (U.S. Department of Education, 2006).

参考文献: Digest of Education Statistics 2016. (U.S. Department of Education, June 2016).

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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