文部科学省の学校基本調査によると、昨年5月時点で、603校。全大学の7割超を占め、約214万人が学ぶ。日本私立学校振興・共済事業団が募集停止中などを除く582校を調査したところ、210校が定員割れしていた。都市部への学生偏在解消に向けた対策が進められるが、地方の小規模校を中心に学生確保に苦しむ大学が多い。中教審は昨年11月、将来少子化が進む推計を踏まえ、経営困難な私立大には撤退を含む判断を促す指導を国に求めた。
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[概説]
私立大学という用語には私立であり,大学であるという意味があるが,ここでは設置形態の面から私立ということに限定して記す。まず日本では学校教育法で,当該の法律の定める大学を含む学校は国,地方公共団体および私立学校法に規定する学校法人のみが設置できると規定されている。そして「国立学校とは,国の設置する学校を,公立学校とは,地方公共団体の設置する学校を,私立学校とは,学校法人の設置する学校をいう」としている(同法2条)。ただし,構造改革特別区域法で,当該の区域において株式会社(学校設置会社)の設置する学校を認めるとしているので(12条),日本の法制上で存在する私立大学は,学校法人または学校設置会社の設置する大学ということになる。
ここで注意を要するのは,国立,公立,私立の区分を,英訳でnational,public,privateとしているが,国立も英語ではpublicにあたり,national public,local public,privateとするのが正確である。ちなみに,公立の「公」は地方公共団体の「公」からきていると思われるが,国(中央)と対置されるのは「公」の部分ではなく「地方」であるから,語呂は良くても論理的には間違いである。また,学校法人が設置すれば私立大学という規定は,国の出資による放送大学や地方公共団体の出資による自治医科大学のような大学も私立に分類されるという,実質無視の用語になっている。さらに日本国憲法に「公金その他の公の財産は,(中略)公の支配に属しない慈善,教育若しくは博愛の事業に対し,これを支出し,又はその利用に供してはならない」(89条)と明記されているものの,私立学校法によって「国又は地方公共団体は,教育の振興上必要があると認める場合には,別に法律で定めるところにより,学校法人に対し,私立学校教育に関し必要な助成をすることができる」(59条)と定められ,該当の法律である私立学校振興助成法(1975年制定)は,国が私立大学に対する経常費の2分の1以内の補助ができることを定めている。さらに2006年(平成18)制定の新教育基本法が「国及び地方公共団体は,その自主性を尊重しつつ,助成その他の適当な方法によって私立学校教育の振興に努めなければならない」(8条)と規定して助成を正当化しているが,憲法の規定との間にある齟齬が解決したわけではない。
そもそも公私の区別は,その社会の成り立ちによって微妙な違いを呈している。有力な私立大学を有しているアメリカ合衆国でも,初期のハーヴァードをはじめとする諸大学は植民地政府から多大な支援を受けて存在した。公私の区別がはっきりしたのは,アメリカの産業社会が発展し,政府からの支援の見返りとしての干渉を受けずとも,有力者からの多額の寄付と高額の授業料が期待できるようになり,一方でダートマス・カレッジ事件判決で私立大学への統制ができなくなった州政府が独自の州立大学の運営を積極化してからのことであった。結果としてアメリカでは,公的な経常費の補助を受けている大学はプライベートには分類されなくなっている。そして私立大学への助成は大学直接の機関補助ではなく,学生への奨学金や研究の契約などを通じて間接的にしか行われなくなっている。また共産圏諸国においては,私立概念は成立しなかった。大陸ヨーロッパでは,近年まで大学は国家の機関とされ,私立大学は基本的に考えられてこなかった。近年までほとんどの資金を直接間接に政府から得ていながら高度な自律性を有してきたイギリスの大学は,公立とも私立とも言い難い存在であり,そのことは,それが日本における私立大学の経常費補助金制度のモデルにされたにもかかわらず,国立大学の法人化の際のモデルともされたことからもうかがえる。
著者: 舘 昭
[日本]
[私立大学の登場] 私立大学の実態的起源は,明治初期の私学に遡る。明治10年代には,法律学・医学・農業学・商業学・航海学・化学・数学など多種多様な学問分野を教授する私学が存在し,明治維新後の社会で立身を目指す青年たちに多様な学習機会を提供した。1903年(明治36)に専門学校令が制定されると,この勅令により私学は次つぎに専門学校の地位を得た。さらに,1年半程度の予科を有する私学には「大学」と称することが認められたが,「大学」名を付してはいても制度的には専門学校という位置付けであった。
1918年(大正7)の大学令により,帝国大学以外の大学の設立が認められるようになると,一部の専門学校が私立大学(日本)として昇格を果たした。私立大学への昇格とともに大学令が適用されるため,大学・学部の設置・廃止や教員の採用などは文部大臣の強力な監督下に置かれた。第2次世界大戦期には,法文系学生を中心とした徴兵猶予の停止,学生定員の変更等に関する文部省の権限が認められたことから,やむを得ず法文系学部・学科の整理統合がなされるなど,各私立大学でも戦時非常措置への対応を迫られた。
[私立学校法の制定と自主的独立の獲得] 第2次世界大戦後の苦境を打開するため,学校種別ごとに組織されていた私学団体を結集して1947年(昭和22)に日本私学団体総連合会を結成,同年制定の学校教育法では,旧制度での私立大学に対する強力な規制に対する批判と反省から,文部省の権限が大幅に縮小された。また,1949年には「私立学校の特性にかんがみ,その自主性を重んじ,公共性を高めることによつて,私立学校の健全な発達を図る」ことを目的とした私立学校法が制定された。同法制定に伴い,所轄官庁がその権限を行使する際には,私立大学代表者と学識経験者とで組織する私立大学審議会にあらかじめ諮問することが義務付けられた。1948年には全国の私立大学の振興を図るために日本私立大学協会が設立され,51年には同協会を退会した一部の大学によってこれとは別の日本私立大学連盟が設立された。私立大学や専門学校は戦前期にすでに法人格を認められていたため,国公立のような再編統合の波をほとんど経験することなく,1948年に11校の新制の私立大学が発足したのを皮切りに新制大学への移行や昇格を果たしていった。
[私立学校法の改正] 1960年代には,高度経済成長に必要な人材の確保とベビーブームによる大学入学志願者の急増に対処するため,大学・学部の設置認可を一度受ければその学科等の組織や学生収容定員の増加などを自由に決めることができるようになり,私学を中心に大学の大衆化が進行していった。高等教育の急速な拡大により,大学間の格差の増大,定員水増しによる教育条件の悪化,私立大学における経営の悪化などの問題が生じた。これに対し,1975年には私学助成の基本法である私立学校振興助成法が制定され,私立大学に対する助成の措置が行われることとなった。同法の付則により私立学校法が改正され,私立大学の学科の設置・廃止や学生の収容定員の変更など私立大学の拡充はすべて文部大臣の認可事項となり,私立大学の量的規制も同時に図られた。
1990年代以降,私立大学に対する高等教育政策は,大学設置基準の大綱化や設置認可に関する規制緩和と競争的資金の導入などによる競争促進という原則のもとに遂行された。2005年(平成17)には,学校法人の管理運営制度の改善(理事会設置の義務化や監査報告書の作成・提出の責任など)や財務情報の公開などを柱に私立学校法が改正され,学校法人の経営強化とガバナンス改革を実現していくための法制面での環境整備が行われた。「学校基本調査」(政府統計)によれば2016年現在の私立大学数600(国公私全体の77.2%),学生数199万1420(77.5%),本務教員数10万4846(57.5%),本務職員数14万1902(59.8%)。
著者: 井上美香子
[アメリカ合衆国]
アメリカでも,私立大学は財政および管理面で連邦,州,市政府から独立した高等教育機関を指す。在学生が1000人以上の正規の4年制大学は約1500校,うち私立大学は900校ある。しかし私立(private)大学は,独立の大学(アメリカ)(independent)の大学とも称され,宗教(教派)にも依存しない=世俗的な大学三百数十校と,おもにキリスト教諸教派の影響(管理)下の大学500校に二分化する。75校の営利大学も加わる。今や完全に独立のハーヴァードからスワスモア・カレッジまでの私学の多くも,かつては教派の管理下にあった。アメリカの私立大学への宗教的な影響力は軽視できない。現在の常識とは逆に,19世紀前半までの諸州においてキリスト教は公的な事柄であり,ハーヴァードもイェールも潤沢な公的資金援助を受けていた。宗教勢力の多様化と社会の世俗化が進行した19世紀中葉,両校は初めて卒業生中心の理事と大学幹部が管理し,財政上も独立した私立大学となったのである。
無償の場合さえあった州立・市立大学とは対照的に,私立大学は相応の授業料を課してきた。しかし,質の高い私学ほど,寄付や運用益を蓄積した基金からの収入にも依存してきた。州立大学が台頭中の2017年現在,基金の絶対額での上位60校中,39校はなお私立大学が占める。しかもアムハースト,ウィリアムズ等の小規模カレッジさえ,学生数で二十数倍のワシントン,イリノイ等の州立研究大学といぜん基金額を競っている。かつて多大な公的予算を得ていた州立大学と,私立大学との財政構造の違いを今でも見せている。
他の諸国と比べて,アメリカでの最上位の私立大学の活躍は目覚ましい。しかし,同じく重要でありながら見過ごされるのは私立大学間の巨大な格差である。3兆円の基金をもつハーヴァードのような少数校と,3桁の学生数を辛うじて確保し,基金も乏しい大多数の私立大学との間には雲泥の差がある。アメリカの大学で,学生の選抜機能以上に,研究・学修の環境として重要視される教員の質について,私立のリベラルアーツ・カレッジ(アメリカ)同士で比較してみよう。最上位と評価される数校のリベラルアーツ・カレッジの教員のうち,平8割がエリート大学たるアメリカ大学協会(アメリカ)(AAU(アメリカ))加盟の60校のいずれかから,しかも約6割が加盟校の中でも上位の15校から博士号を取得している。それに対し中堅のリベラルアーツ・カレッジでは,AAU加盟校から博士学位を得ている教員は平1割強に過ぎず,ましてやその上位校からの取得者はほぼ皆無である。中堅以下,さらには未認証の1200~1300校の私立カレッジについては推して知るべしである。私立大学はアメリカの特定の大学の水準を測る基準をなんら提供しない。「私立大学」に着目する意義は,世界に通用する大学のうちの十数校が,アメリカではなぜ私立大学なのかを問うことであろう。
著者: 立川明
[ヨーロッパ]
ヨーロッパ諸国の大学は,主要な大学の多くが国立(州立)であるという点に特色がある。大学はもっぱら政府によってその財源が確保されてきた。高等教育は国が責任をもつものとされ,近年その見直しが迫られているが,多くの国々で授業料が徴収されてこなかった。
[イギリス] 大学は1992年以前からある旧大学(イギリス)と,1992年以降に大学となった新大学(イギリス)に分類される。オックスフォード,ケンブリッジなどに代表される前者は,国王の勅許状(ロイアル・チャーター)によって設立された自治団体であり,国立・公立・私立といった設置形態による区分はない。勅許状の付属文書として添えられた各大学の「大学規程」にもとづき運営される。後者は,地方教育当局(イギリス)(LEA(イギリス))により1960年代に設立されたポリテクニク,高等教育カレッジなど,実学中心の非大学高等教育機関が一定の要件を満たした場合に,各機関の申請にもとづき枢密院の審査を経て大学の名称の使用が認められたものである。新旧大学(ユニバーシティ)ともに,独立法人化され国からの資金で運営されているが,バッキンガム大学のように,政府から補助金を受けていない大学もある(勅許状は受けている)。
[フランス] 大学は学術的・文化的・専門的性格をもつ公施設法人(フランス)(EPSCP(フランス))であり,基本的に国の機関である。フランスでは私立の高等教育機関が「大学」と称することは法的に禁じられている(教育法典第L.731-14条第1項)。私立の高等教育機関としては,カトリック系の宗教団体などによって設置・維持されている小規模なものが約20校あるが,その在学者数は高等教育全体の約2%にすぎない。
[ドイツ] 大学は「公法上の団体であり,同時に国の機関」であるとされており,設置者は州(Land)が一般的である。連邦立の大学は,国防軍の兵士を養成する連邦軍大学などごく一部にすぎない。私立大学については「国により承認された大学」と位置付けられているが,その多くは教会が設立する教会立のものである。1998年に大学大綱法(ドイツ)が改正され,「従来とは異なる法的形態」,たとえば財団の形態で設立されることも可能となり,近年アメリカ型の私立ロー・スクール,ビジネス・スクールなども設置されるようになってきている。これらの大学では高額の授業料が徴収されるが,進学者は増加している。
そのほかのヨーロッパ諸国についてみると,イタリアの大学は「教育,研究,組織,財務,会計などの点で自立性をもつ公法人」とされているが,私法上の財団法人への転換も可能になっている。スペイン,ポルトガルなどの南欧諸国,スウェーデン,フィンランドなどの北欧諸国の大学においても国立大学が主体であり,私立大学の比重は小さい。東欧諸国の大学も,旧社会主義の時代の設置形態を引き継ぎ,多くの大学は国の機関である。
著者: 木戸裕
[概説]◎舘昭『原理原則を踏まえた大学改革を』東信堂,2013.
参考文献: 日本私立大学連盟編『私立大学マネジメント』東信堂,2009.
参考文献: フェデリック・ルドルフ,阿部美哉・阿部温子訳『アメリカ大学史』玉川大学出版部,2003.
[日本]◎天野郁夫『近代日本高等教育研究』玉川大学出版部,1989.
参考文献: 寺﨑昌男,成田克矢編『学校の歴史第4巻 大学の歴史』第一法規出版,1979.
参考文献: 社団法人日本私立大学連盟編『私立大学マネジメント』東信堂,2009.
[アメリカ合衆国]◎Geiger, Roger L., Knowledge and Money, Stanford University Press, 2004.
[ヨーロッパ]◎寺倉憲一「大学のガバナンス改革をめぐる国際的動向」『レファレンス』766号,2014.11.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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