日本大百科全書(ニッポニカ) 「アルカイック美術」の意味・わかりやすい解説
アルカイック美術
あるかいっくびじゅつ
古代ギリシアの古典期以前の美術。アルカイックとはギリシア語のアルケーarcheに由来する語で「太古、始まり」を意味する。このことからアルカイックは、クラシックと対比する様式展開の一概念として、広く他の地域の初期の芸術にも用いられる。古代ギリシアにおけるアルカイック期は、各地で大理石による神殿や彫刻が制作され始めた紀元前7世紀より、ペルシア戦争の勝利に至る前480年ごろまでをいう。この期には絵画の作例はほとんど残されていないが、建築や大理石の彫刻、陶器に数多くの優れた遺例がみられる。建築では、この期の初め内陣(ナオス)の四辺に柱廊をもつ、美しい比例の神殿形式が整い、またドーリス式、イオニア式の柱式の基本形式も完成した。他方、彫刻においては、片脚を一歩前に出したほぼ等身の全裸の青年像(クーロス)と着衣の婦人像(コレー)が多数制作されたほか、建築の破風(はふ)を飾る群像彫刻ならびにメトープmetopeやフリーズfrieze、さらに墓碑の浮彫りがあり、いずれも人物は動きのなかで生き生きと表現されている。これらアルカイック彫刻の特質は、全般に峻厳(しゅんげん)かつ形式的で、像全体としての有機性に乏しいが、素朴な形式のなかにも溌剌(はつらつ)とした生命性が感じられる。いわゆるアルカイック・スマイルとよばれる口元のほほえみの表情はこの時代のほとんどすべての像にみられる表現である。陶画では、先の硬直な幾何学様式から解放され、前7世紀に至ってオリエントの影響を受けたコリント様式やロドス様式などの和らいだ東方化様式に変わり、さらに前6世紀前半にはアテネを中心としたいわゆるアッティカ黒絵式陶器が開花した。
[前田正明]