幾何学様式(読み)きかがくようしき(英語表記)geometric style

精選版 日本国語大辞典 「幾何学様式」の意味・読み・例文・類語

きかがく‐ようしき‥ヤウシキ【幾何学様式】

  1. 〘 名詞 〙 ギリシア美術初期様式。紀元前一〇~八世紀頃、壺の装飾模様が直線主体に構成されているところから呼ばれる。墓地装飾用壺のディピュロン様式代表的なもの。

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改訂新版 世界大百科事典 「幾何学様式」の意味・わかりやすい解説

幾何学様式 (きかがくようしき)
geometric style

エーゲ文明衰退後の文化的暗黒時代のなかで,ギリシア人が最初に生み出した美術様式。時代的には前1000年ころから前700年ころまで。多数の陶器のほかテラコッタやブロンズの小型像などが残るが,モニュメンタルな彫刻や建築はまだ作られていない。〈幾何学様式〉の名称はこの時代の陶器が主として直線や円からなる幾何学風の抽象的文様によって飾られていることに由来する。この図形化・抽象化の傾向はすでにミュケナイ美術にも認められるが,幾何学様式はこのギリシア人のもつ知的・構成的な造形感覚がはじめて最も純粋な形であらわれたものといえよう。幾何学様式の最初の段階(前1000-前900ころ)は,とくに〈プロト(原)幾何学様式〉と呼ばれ,ミュケナイ美術衰微期と幾何学様式とを仲介する段階と見られる。この時期の陶器は仕上げが粗略であり,幅広い黒色帯や波状文のほか,コンパスで描かれた同心円や同心半円などがとくに好まれている。これに対して盛期幾何学様式では,文様の中心をなすのは,陶器壁をめぐる平行線とその間を満たすメアンデル文様(直線屈曲文)であり,さらに連続菱形文,連続三角文,市松文などがそれに加わる。幾何学様式の陶器の製作地はギリシア全土にまたがるが,その最も精巧で典型的なものはアッティカで作られ,多くのすぐれた作品がアテナイのディピュロン門前のケラメイコス墓地で発掘された。これらの陶器はおもに墓地の骨壺,神酒や香油の容器として葬祭用に使われたものである。前800年ころからは,抽象文様の間に葬祭儀式,馬車行列,海戦狩猟などの場面や水鳥,羊などの動物の列が描かれるようになる。この場合にも,人物や動物は極端に単純化,図形化され,黒色のシルエットとして表現される。このように抽象的な人体や動物の形態把握は,同時代の小型ブロンズ像やテラコッタ像などにも共通している。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「幾何学様式」の意味・わかりやすい解説

幾何学様式
きかがくようしき
Geometric style

前900年頃から前800年頃にかけてギリシア本土に最初に現れた美術様式。本来は陶器の装飾文様から生まれた名称。円,半円,同心円,波状文などを主とする原幾何学様式(→原幾何学様式土器)と,直線文を主とする本来の幾何学様式とに区分される。装飾文様の代表的なものには,鉤形メアンダー文雷文)がある。1871年,アテネアゴラ入口に近いディピュロンの墓地から,全面に高度に発達した幾何学装飾文を施した多数の巨大なアンフォラが発見された(→ディピュロン出土のアンフォラ)。これらを特にディピュロン様式と呼ぶ。しかし前8世紀後半より東方の影響を受け,装飾文にしだいに鳥,動物,人間の姿の連続文が用いられ,硬直さは和らぎ,幾何学様式は徐々に衰退した。(→ギリシア美術

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「幾何学様式」の意味・わかりやすい解説

幾何学様式
きかがくようしき
geometric style

美術用語。装飾文様の一様式。一般には同心円、三角形、菱形(ひしがた)、ジグザグなどの連続文様によって構成された装飾様式をさすが、狭義には古代ギリシア美術史上最初に現れた様式をいう。すなわち、紀元前10世紀から前7世紀にかけてアッティカ地方を中心にボイオティア、ペロポネソス半島など各地に開花したもので、この時代の陶器の装飾様式からこのようによばれるようになった。歴史時代の始まりであるこの時代の装飾文様は、先史時代のクレタ・ミケーネ時代の渦巻文や曲線による装飾文様と異なり、新たなメアンデルmeander文を中心に、鋸歯(きょし)文、菱形文、ジグザグ文などによる硬直な直線の組合せによって構成されている。アテネのアゴラの入口に近いディピロンの墓地から出土し、前750年ごろのものとされる大アンフォーラ「ディピロンの壺(つぼ)」はその典型で、いずれも器全面を、大小さまざまな上記の各種装飾文が帯状に十数段にわたって覆っている。

[前田正明]

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百科事典マイペディア 「幾何学様式」の意味・わかりやすい解説

幾何学様式【きかがくようしき】

幾何学文を用いた原始美術をさすこともあるが,一般には,前9―前8世紀にギリシアで生み出された壺絵の様式をさす。ディピュロン式がその代表。器体の全面をひし形,ジグザグ,格子,メアンデル文(雷文)などの装飾帯でおおう。
→関連項目文様

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世界大百科事典(旧版)内の幾何学様式の言及

【ギリシア美術】より


【様式の展開】
 ギリシア美術はその様式発展のうえから一般に次のように時代区分される。
[幾何学様式時代(前1000‐前700)]
 幾何学様式とは,ミュケナイ美術が滅んだあとギリシア人が最初につくり出した美術様式で,この時代の陶器がおもに幾何学的・抽象的図形で飾られているところからこの名で呼ばれる。主要な装飾モティーフは,平行線,メアンデル,菱形,三角形,市松,同心円などで,ここにもギリシア人の美術に対する知的・合理的な態度がよくうかがわれる。…

【陶磁器】より

…彼らの陶器は初めクレタ陶器を模倣し,その後しだいに著しく図式化した自らの陶器を生んだが,陶芸は全般に低調であった。 これに対し,同じく南下してきたドリス人によって樹立されたギリシアの陶芸は,前1000年ころから雷文や菱形文,ジグザグ文の硬直な幾何学様式の彩文土器を発展させた。その典型は前8世紀のディピュロン様式の大アンフォラ(双耳壺)にみられる。…

※「幾何学様式」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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